企業戦略をも明確化したiPadによるリフォーム提案|MacFan

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企業戦略をも明確化したiPadによるリフォーム提案

文●牧野武文

リフォーム事業を手掛ける静岡ガスリビングでは、営業担当者がiPadを用いてリフォーム提案を行っている。顧客に対してリフォームの完成イメージや概算金額をより正確に伝えられるようになっただけでなく、新人社員の経験や知識を補うなど、会社全体の成長戦略を支えるツールとなっている。

具体的なイメージを共有

静岡ガスリビング株式会社は、静岡ガスの子会社で、リフォーム事業を主な業務としている。営業担当者18名全員がiPadを持ち、リフォームを希望する人の自宅へ伺い、iPadを用いて提案を行う。iPadには、株式会社K−engine(ケイエンジン)が開発したアプリ「リフォームアクセル」を入れている。

このアプリは、リフォームの完成イメージを簡単かつわかりやすく、顧客へ伝えるためのものだ。あらかじめアプリに登録されたキッチンやトイレ、ダイニング、玄関といったリフォーム空間や間取り、インテリアテイスト、カラーコーディネートをアプリ上で選択していくことで、リフォームの仕上がりを3D立体図にして表示することができる。また、間取りの平面図を指で描き、キッチンやバス、トイレ、家具等の商材を設置後、カスタムでリフォーム空間を提案することも可能だ。3D立体図内はカメラを設置することで視点移動が行えるので、いわゆる「ウォークスルー」で見ることもできる。

このように顧客が望むリフォーム空間を訪問先で制作し、「このシステムキッチンはいかがですか」「こちらの色はどうですか」といったように3D映像を見ながら楽しく会話することでリフォーム内容を詰めていくことができる。「ショールームで見て気に入った家具があったが、実際にシミュレートしてみると色やサイズは別のほうがよかった」といった、イメージの齟齬を極力少なくすることで、顧客に満足のいくリフォームを行ってもらうことがアプリ導入の理由の1つだ。

また、リフォームアクセルには、もう1つの重要な役割がある。それは「概算見積もり金額を同時に表示する」ことだ。3D立体図に使用するキッチンなどの商材には、価格データが含まれている。この価格と工事費を計算し、概算見積金額をリアルタイムで表示する。正確な見積金額は社に戻ってから細かく計算し、後日正式な見積書を提示することになるが、総費用100万円程度の案件で、概算と正式見積もり金額の差は5万円程度から多くても10万円ほどだという。具体的に金額を提示することでお客の信頼を得られるようになっているのだ。

 

 

静岡ガスリビング(http://www.sg-living.jp)は、静岡市を中心にリフォーム事業ならびにライフサポート事業、人材派遣事業を展開する。

 

 

(左から)ハウジング事業部静岡営業所 営業チーム・花畑昌則氏、事業計画推進部 企画戦略グループリーダー・島聡氏、事業計画推進部 企画戦略グループ・小宮山剛氏。「1年近くリフォームアクセルを使い、その営業ツールとしての効果を実感しています。将来は、契約時のサイン入力、工事の日程管理などの機能も入れて、営業から工事完了までiPadで行えればと思います」(花畑氏)

 

 

新人が成約率を上げられるか?

従来の営業方法はこうではなかった。営業担当者は商品カタログを見せながら、「このような感じになります」と口頭でイメージを伝え、金額に関しては「おおよそこのような金額です。詳しくは後日見積もりをお出しします」とするしかなかった。つまり、営業担当者の知識や経験に基づいて提案するしかなかったのだ。それが、iPadとリフォームアクセルの導入によって、より正確に、より具体的に顧客へ提示できるようになった。そしてこれは、営業担当者の「バラツキ」も解消することにもつながったという。

「同じ商材であっても、仕入先によって卸値が違っていました。また、一見同じような工事であっても、必要な人数と時間が微妙に違います。そういう施工側の都合をすべて頭に入れて、概算金額を瞬時に計算するというのは、かなり経験を積んだ担当者にしかできない仕事でした」(事業計画推進部・島聡氏)。

そのため特に新人の営業担当者の場合、顧客宅を訪問しても、仕上がりイメージをうまく伝えられず、工事金額は「上司に聞いてみます」という状態になってしまうことがある。これでは成約率は上がらない。

「リフォーム営業の場合、お客様の背中をいかに押せるかが成約率を上げる大きなポイントになるのです」(ハウジング事業部静岡営業所・花畑昌則氏)。

顧客は当然リフォームをしたいと考えている。しかし、一方で、生活が変わることへの不安、決して安くないリフォーム費用負担への不安もある。その不安を解消し、顧客に決断をいかにしてもらうか、それがリフォーム営業の核心だ。新人の場合、不安を解消しないまま、社に戻ることになり、その間に顧客は「やっぱりまたの機会にしようか」「ほかのリフォーム業者も考えてみようか」ということになる。iPadとリフォームアクセルが、この「顧客の不安を放置する空白期間」をゼロにしてくれた。

地域1位を目指した戦略

静岡ガスリビングのリフォーム営業は、親会社のお客様接点であるエネリアが起点になっている。エネリアは、ガス器具の点検修理に各家庭を回り、顧客と強い信頼関係を築いている。ガス器具だけでなく、生活全般の困り事の相談を受けることも多いという。その中で、リフォーム関連の相談を受けると、その情報が静岡ガスリビングの営業担当に伝えられ、見積もりに向かう。顧客との強い信頼関係を活かして、御用聞きのように、地域に密着したビジネスを静岡ガスグループで展開しているのだ。

「iPadは、お客様に出して提案を行っても敬遠されません。営業に使うためには、そうした『信用のあるデバイス』であることが重要です」(事業計画推進部 ・小宮山剛氏)

現在、静岡ガスリビングは静岡県内のリフォーム業者の中で第3位の位置にあり、今後は地域1位の座を目指すべく、さまざまな新しい試みを行っている。

その1つが営業担当者の大幅増強で、現在は18名だが、7名の補強が決まっている。しかし、この7人のほとんどが未経験者。見積もりという経験を必要とする業務をどう教えていくかが大きな課題だった。リフォームアクセルの導入は単に業務の質や効率を高めるだけでなく、新人の営業担当者を即戦力にするツールとしても使えることがわかったことで、昨年8月より2名の営業担当に試験導入、その結果を受けて、今年春からほぼ全員へ導入を始めた。

また、試験導入期には、同時に価格の標準化も進めた。以前から、部分的なパック料金制を採用するなど、費用の標準化は進めてきたが、リフォームアクセル導入にあたって、ほぼすべての費用を標準化し、料金体系を明快にした。

さらに、リフォームアクセルを提案型の積極営業のツールとしても使うことも考えている。たとえば、キッチンのリフォームの案件であっても、ダイニングの床材や壁紙も変えると気持ちのいい空間になりますよと、up−sell提案をしていく営業だ。

 

 

顧客宅で完成後のリフォーム空間をiPadに表示。3D立体図を見ながら具体的なイメージを提示できるため、顧客満足度が大きく向上する。

 

 

メジャーで簡単に測ってから、間取りの寸法を指で入力することができる。精密な図面にはならないが、リフォーム後のイメージを伝えるためなので問題はない。従来は営業担当者やプランナーが手書きしていた。

 

 

視点移動が簡単なので、キッチン内部からダイニングがどう見えるかなどのシミュレーションが行える。リフォームアクセルではAR (拡張現実) 機能も搭載しており、現場写真に商品イメージを重ねて見るかたちで、リフォームの完成イメージを伝えることも可能だ。

 

 

実際の間取り寸法の中で、指定した商材を置いた場合のパース図が瞬時に描ける。同時に、商品代金+工事費の概算見積り金額も表示されるので、顧客の信頼を獲得しやすい。商品を追加、変更すると、概算見積り金額も変わっていく。

 

 

営業ツールに留まらない効果

このように「営業担当を増員して密な営業活動を展開する」「コストを下げて価格競争で生き残る」「リフォーム提案ができる体制を整え、1つの案件の単価をあげていく」といった戦略一つ一つにiPadとリフォームアクセルは必要不可欠な存在になっている。現在の営業地域は静岡県の静岡ガス供給地域が中心だが、このような態勢が整った時点で、県内の未開拓エリアへの進出も考えていく予定だ。

どのような業種業態でも、iPadは営業担当者の強力なツールとなり得る。しかし、導入のもっとも大きい効果は営業的な側面だけにとどまらない。静岡ガスリビングの例でいえば、それは従来あいまいだった価格体系や営業戦略、新人研修の方法が、iPadとリフォームアクセル導入を機に、明確になったことだ。営業戦略は誰もが日々考えてはいるものの、日々の業務に追われ、なかなか実行に移すことができないものだ。それが、「リフォームアクセルを入れるために価格体系を標準化しなければならない」という必要に迫られることにより、進んでいく。日常業務が忙しい現場ほど、こうしたiPad導入による戦略の明確化効果は大きいといえよう。

 

 

【WEB】
リフォームアクセルの開発元である株式会社K-engineのWEBサイト(http://k-engine.jp)では、同アプリの具体的な活用方法や活用事例を閲覧することができる。

 

【メール】
これまで持ち歩いていた紙の商品カタログは、すべてiPadに入れている。もしも顧客がそのカタログページを欲しいという場合、最近はメールで送信することが多いという。