2016.05.04
昨年、カリフォルニア州で発生した銃乱射事件の捜査に端を発した「FBI問題」。2カ月近くもの間政府やIT業界に多大な論争を巻き起こす事件となったこの問題は収束を見せず事態は複雑化している。本質が見えにくいこの問題を時系列で追いかけてみた。
双方の言い分
2015年12月2日。カリフォルニア州の南部の町、サンバーナーディーノにある障がい者支援の福祉施設で銃乱射事件が発生した。3人の襲撃者は地元の人々を集めたイベント会場にいる約80人を狙い、14人を殺害、17人に重軽傷を負わせた。多大な被害者を出したこの大惨事の現場にはSWATチームを含めた警察、保安官、消防隊など総勢300名が出動し、銃撃戦のうえに犯人2人も射殺されるという激しいものとなった。
今回の事件が深刻なのは犯人のうち1人がこの福祉施設のスタッフという「内部からの計画的犯行」だったことに加え、全員がイスラム教に傾倒し、ソーシャルネットワーク上では過激派組織ISIL(Islamic State in Iraq and the Levant=イスラム国)に忠誠を誓うコメントを残していたからだ。ISILは「支持者2人が数十人のアメリカ人を死傷させた」という声明を発表、犯人がアメリカでテロの捜査対象となった人物と電話でやりとりをしていたことが判明した。これを受け、FBI(Federal Bureau of Investigation=連邦捜査局)はテロ事件と認定し、捜査に当たった。
FBIは家宅捜索令状をもとに犯人の所持品を押収したが、職場から支給されていたiPhone 5cにはパスコードロックがかけられ、デバイス内のデータは暗号化されており外部からの解析は困難な状態だった。パスコードは複数回失敗すると完全にロックアウト(もしくは消去)されてしまうため、「ブルートフォース(総当たり)攻撃」と呼ばれるすべてのパスコードを施行することもできなかった。