ワイヤレスで実現するフットワークのよい内視鏡検査|MacFan

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ワイヤレスで実現するフットワークのよい内視鏡検査

文●木村菱治

「AirMicro」は、内視鏡などの検査機の映像をワイヤレスでiPadに送るというシステムだ。医療現場でのiPad活用といえば電子カルテなどを想像するだろうが、検査機器の一部としてのiPadの利用には、どのようなメリットがあるのだろうか。

内視鏡の映像をiPadに送信



「ちょっと楽にしてくださいね」。医師が患者役の鼻孔に内視鏡を差し込むと、鼻腔内の映像がiPadの画面に映し出される。映像はiPadにワイヤレスで転送されているが、遅延はほとんど感じられない。医師の操作と映像がリアルタイムに反応する。

この内視鏡の接眼部には、スカラ社の「エアマイクロ(AirMicro)メディカルスコープ」が取り付けられている。エアマイクロは、内視鏡を通して見える映像をWi -FiでiPadに配信する機器だ。内視鏡には、レンズを覗いて観察する光学式と、映像をモニタ上に映し出す電子式という2種類があるが、エアマイクロを付ければ光学式の内視鏡が電子式のように使えるというわけだ。一般的な電子式の内視鏡は画像処理装置などのシステム一式がラックに収められており、内視鏡はシステムとケーブルで接続されている。エアマイクロはワイヤレスで済む分、非常にコンパクトだ。

そして、エアマイクロを使った診療中に「ここは録画しておきましょう」と、医師がアプリ画面の録画ボタンをタッチすると、直ちに映像の記録がスタートする。エアマイクロの専用アプリには、静止画と動画の撮影機能があり、あとからiPad上で再生したり、パソコンに記録したデータを転送することができる。病院内では、医療機器の誤動作を防ぐために無線の利用が制限されているところが多い。その点エアマイクロの出す電波は、病院でよく使われるPHS端末よりも遥かに弱いので問題ないという。

なお、エアマイクロには内視鏡用以外にもいくつかのバリエーションが用意されている。例えば、めまいの診断に使用するのが「エアマイクロフレンツェル」だ。これもメディカルスコープ同様、ワイヤレスで使用でき、iPad上で映像を閲覧、記録することが可能だ。
 







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東京女子医科大学耳鼻咽頭科元教授の新井寧子医師。めまい治療の名医として知られている。東京女子医科大学の「めまい外来」を担当しているほか、自身のクリニックや佐野市民病院でも診療を行っている。
 

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エアマイクロの仕組み。本体で捉えた映像をWi-Fi経由でiPadやiPhoneにライブ配信できる。通信にはWi-Fiのアドホックモードを使用するので、Wi-Fiアクセスポイントは不要だ。また、受信側の台数が増えても映像が遅くなることはない。

 


 

さまざまなメリット



診療にエアマイクロを使用している東京女子医科大学耳鼻咽頭科元教授の新井寧子医師は、そのメリットとして、まず、どこにでも簡単に持ち運びができる可搬性の高さを挙げる。

「めまいを起こしている患者さんや、熱が下がったばかりでようやく座れるようになった患者さんでは診察室まで来るのは大変です。診察室にある電子内視鏡は簡単に動かすことができません。そんなときにエアマイクロが活躍します。病床に持って行って使えるので患者さんの負担が減りますし、医師にとっても便利です。また、在宅医療で内視鏡を使っている医師にも使いやすいと思います」

2つ目のメリットは、診断のときの映像や画像を簡単に記録し確認できる点だという。録画や撮影に手間がかかるシステムの場合は、どうしても記録する機会が限られてしまう。新井医師は、エアマイクロで記録した映像を、週に一度ほどiPadからパソコンに転送して整理・保管しているそうだ。

「映像や画像で記録しておくと状態の比較がしやすくなり、経過がよくわかります。加えて患者さんにも、これだけ改善しましたと説明がしやすくなります」

さらに新井医師は、iPadのモニタで医師と患者やその家族がお互いに確認しながら診察ができることを大きな利点として挙げる。医師が診察するだけであれば、モニタのない光学式内視鏡でも十分なのだという。しかし、患者や家族、看護師などと情報を共有するためには、モニタで一緒に見ることが大切だと新井医師は続ける。「病床で内視鏡を使うのは、主に嚥下障害(えんげしょうがい)(飲み込みがうまくいかずに、食べた物が気道に入ってしまったりすること)の検査ですが、医師だけが内視鏡を覗いて説明しても、患者さんにはなかなか理解してもらえません。自覚症状がほとんどないような嚥下障害でも、映像で見せると納得してくれますし、患者さんの治療意欲も高まります」
 

医師のため、そして患者のため



一般的に電子式内視鏡を導入しようとすると、費用は数百万円以上するといわれているが、エアマイクロは光学式内視鏡と足しても50万円ほどで導入できる。これなら、個人病院や小規模クリニックでも購入しやすい。

医療でのiPad利用は電子カルテをはじめ、情報分野が多い。そんな中、エアマイクロは検査機器の一部としてiPadを使うというユニークな存在だ。低価格を実現するだけでなく、ワイヤレスや記録の手軽さなど、新しい価値も加わっている。医師のため、そして患者のため、今後iPadを使ってどんなシステムが登場してくるか注目したい。

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診察室にある電子内視鏡のモニタは壁面に固定されており、部屋から出すことはできない。内視鏡と映像処理装置はケーブルで接続されているため、移動範囲も限られる。
 







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内視鏡に取り付けるタイプのエアマイクロメディカルスコープ。一般的な光学式内視鏡がそのまま使用できる。単三電池で動くため、病室や訪問診察などでも手軽に持ち運びができる。
 

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メディカルスコープを使い、鼻腔内の様子をiPadに表示している様子。医師の左手上部にある黒く、四角い部分がエアマイクロ本体だ(今回は新型試作品を使用)。

 


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エアマイクロシリーズ専用のアプリはアップストアから無料でダウンロードできる。
 

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エアマイクロフレンツェルはゴーグルのように装着し、眼球運動を記録できる機器だ。メディカルスコープ同様、電源不要で軽量だ。

 








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iPadで眼球の動きなどを観察する。操作は、アプリ内の録画ボタンを押すだけ。
 

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フレンツェルを使った、めまいの診察の様子。あとで患者が自分の眼球運動の様子を見ることができるため、録画機能は非常に有効だ。

 


 

医療機器とiOSデバイス 第5のバイタルサインをiOSデバイスで測定



マシモジャパンはiOSデバイスと組み合わせて、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定するパルスオキシメータ「iSpO2」を発売した。無料のiOSアプリをダウンロードし、機器を指に装着することで測定する。第5のバイタルサインといわれるSpO2を簡易に測定可能だ。医療現場はもちろんのこと、訪問看護、在宅酸素療法など幅広く使用できる。プロユースのパルスオキシメータは安価なものでも20万円ほどであるが、iSpO2は医療現場の技術を搭載していても、実売価格は3 万8000 円前後である。
 








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SpO2値とは、動脈血にあるヘモグロビンのうち何%が酸素を運んでいるかを表す数値だ。パルスオキシメータは主に医療機関で使用されているが将来的には電子体温計、血圧計と同様に、家庭でのセルフメディケーションになる時代が来るかもしれない。
 

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センサを指に装着した様子(利き手と反対の中指か薬指が望ましい)。医療機器として認証されており、またMFi認証も受けているので安心して使える。

 






『Mac Fan』2014年1月号掲載