医療用情報機器としての地位を固めつつあるiPad|MacFan

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医療用情報機器としての地位を固めつつあるiPad

文●木村菱治

最新の医療機器やサービスを一堂に展示する「国際モダンホスピタルショウ2013」が開催された。会場に一歩足を踏み入れると、至るところにiPadの存在が目につく。なぜ医療の現場でiPadが選ばれるのか。その答えが参加者の声から明らかになった。

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国際モダンホスピタルショウは、日本病院会と日本経営協会の主催する、医療設備やサービスの展示会。今年は7月17日~19日の3日間に渡って、東京ビックサイトで開催。3日間合計で8万1788人が来場した。
 

電子カルテ化の課題と現状



国際モダンホスピタルショウの会場を訪れてみると、その展示の約半分は電子カルテや医療画像システムなどを含む医療情報システムのゾーンで占められており、医療のIT化が進んでいる現実を実感させられる。

中でも目についたのはiPadだ。Macベースの医療情報システムを提供している会社はもちろん、医療・保健・福祉などあらゆる分野においてiPadを利用したソリューションが見受けられた。

主な用途は大きく分けて2つ。1つは電子カルテやレントゲン、CT画像のビューワとしての用途だ。電子化が進んだ病院でも、通常は医師が病院にいなければ患者情報にアクセスすることはできない。病院外にあるiPadからの情報閲覧を可能にすることで、例えば、救急搬送された患者のCT画像について当直医が勤務を終えた専門医に助言を求めるといったこともできるようになる。

もう1つは電子カルテや問診表の入力端末としての使い道だ。パソコンを使った電子カルテや問診表は利用場所が限定されてしまうが、タブレットはどこにでも持ち運べて簡単に使えるのが強みである。それに加えて医療スタッフがベッドサイドで入力したり、在宅診療や往診時にも電子カルテや問診表を使うことができる。またテキストだけでなく、手書きの図を入力したり、カメラ撮影した写真をカルテや問診表に載せることができるのもタブレットならではの特徴だ。

病院や診療所は、毎日大量の情報を扱っており、ペーパーレス化へのニーズは高い。ただ現在、電子レセプト(医療費明細)はかなり普及しているものの、電子カルテの普及率はまだ2割程度といわれており、特に小規模の診療所の普及率が低い。その一方で、新規開業の70~80%が電子カルテを導入しているといわれている。ここから読み取れることは、電子カルテ導入のメリットは理解されているが、既存の紙カルテから電子カルテへの移行が難しいということだ。

理由としては、電子カルテを導入しても診療報酬が増えるわけではなく導入コストを回収しにくいこと、電子レセプトに比べて効率化の度合いが見えにくいこと、医師によってはパソコンでの入力が難しいこと、などが考えられる。

展示者の多くはiPadベースの電子カルテや問診表について、紙のような感覚で使える手軽さや敷居の低さをメリットとして挙げる。さまざまな展示を見ていても、携帯性の高さ、操作の簡便さ、低コストといったiPadの特徴が医療現場のニーズに合っていることがわかる。今後さまざまな医療の現場でiPadが使われることが、電子カルテ普及の起爆剤となるかもしれない。
 

iPadが持つセキュリティのアドバンテージ


アンドロイド端末ではなく、iPadを選択した理由について各ブースで尋ねてみたところ、もっともよく聞かれたのが「iPadを希望する医師が多いので」というもの。また、アンドロイド端末と違って、製品バリエーションが少ないことによる開発のしやすさを挙げた会社も多かった。この辺りは、一般的なアプリ開発と同じである。


セキュリティに関しては、ネットワークにVPN(バーチャルプライベートネットワーク)を使い、端末の紛失や持ち出しにはMDM(モバイルデバイスマネジメント)で対応するのが一般的な手法だ。iPadを使ったシステムの中には、iOSアプリを作らずにリモートデスクトップ経由でネットの先にあるPCの画面を操作するものもある。iPad上での操作性は専用アプリが勝るが、リモートデスクトップには端末にデータが残らないので、紛失時の対応が楽というメリットがあるという。

これらのセキュリティ手法はアンドロイド端末でも利用できる。しかし、構成プロファイルという仕組みを使った端末の利用制限のしやすさ、マルチウェアの少なさなど、セキュリティ面でのiPadのアドバンテージは大きい。

医療のように信頼性が重要な分野では実績が物をいう。すでに多くの医療システムに採用されている事実が、そのままiPadの強みとなるはずだ。
 

Mac対応の電子カルテにiPadオプションを追加


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長年、Mac用の医療情報ソフトを作り続けているアップルドクター社は、Mac /ウィンドウズ両対応の電子カルテシステム「アーチャンカルテ」のiPadオプションを参考出品していた。主に往診時の利用を想定しており、iPadの特性を活かしてカメラ撮影や手書きメモの機能を装備。これは、往診でなるべく時間をかけずに情報を入力したいという現場の医師の意見を反映したものだという。またレセプトソフト「アーチャンレセプト2」に対応した「AR2 for iPad」というアプリを使えば、電子レセプトのデータ入力や閲覧がiPad上で可能だ。
 

個人、クリニック、企業でのメンタルヘルスケアをサポート

 






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日本ブレーン社のメンタルヘルスケアシステム「アン-サポ」シリーズは、個人向けの無料iOSアプリとして「アン-サポ」を提供。また、クラウドサービスとして、クリニックでの問診と診断用の「アン-サポ スマートクリニック」、企業における社員の健康管理用の「アン-サポ メンタルヘルスケア」がラインナップされている。「アン-サポ」アプリは、アプリ内で簡単な質問に答えていくことで、心の状態をセルフチェックすることができる。また、その自己診断結果を専門医に伝えることで、治療に活かすことができる。


 

エクセルで作っていた帳票をiPad上に再現可能

 






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シムトップス社の「ConMas i-Reporter」は、iPad上でカルテや問診表などを入力してデータベース化できるシステムだ。エクセルで作成した帳票データを変換し、それをiPad上で表示できる。テキスト入力だけでなく手書き入力にも対応し、紙の帳票のレイアウトの使い勝手を残したままの電子化が可能。これまでエクセルで作成していた既存の帳票を外注せずに、自分で電子化できるのは大きなメリットだ。サンプル帳票が付いた無料アプリをアップストアからダウンロードできる。


 

在宅医療に役立つモバイルプリンタ


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スター精密社の軽量・コンパクトなモバイルプリンタ「SM-S210iシリーズ」は、iPhone /iPadからブルートゥース経由でプリント可能だ。持ち運びに優れているため、在宅医療の現場などで往診先の患者に渡すメモや、レシートなどのプリントに使うことを想定している。
 

多数のデベロッパーが集結したファイルメーカーブース


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医療情報システム構築で多くの実績を持つファイルメーカー社のブースには、多数のデータベース開発者が出展していた。自らファイルメーカーを駆使してアプリケーションを作る医療関係者が多いためか、デモンストレーションには多くの来場者が足を止めていた。
 

病院内のiPad管理に役立つUSB端子付きキャビネット

 






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サンワサプライ社のタブレット収納キャビネットは10台のiPadを収納でき、扉には鍵もかけられる。各スロットの下にはUSB端子を装備し、収納時にバッテリの充電やデータ同期が行える。病院などで多数のiPadを導入する場合にはこうした備品も必要になるだろう。16台、32台収納可能な大型モデルも用意されている。同ブースでは、このほかにもタブレットの持ち出しや盗難を防ぐセキュリティワイヤや、クリック音を抑えたマウスなどを展示していた。


 

医療スタッフ同士のコミュニケーションにiPhoneを活用

 






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グローバルソフトウェア社が参考出品していたiPhone用アプリ「Quick Dr.」。医療情報の入力や閲覧に加え、フェイスブックやラインのようなコミュニケーション機能も備えている。まだ参考出品の段階のため機能は流動的だが、コミュニケーション機能については、患者の状態や気がついた点などを病院内のスタッフ間で共有するなどの用途を考えているようだ。医療従事者にとって、常に持ち運べるiPhoneを用いた医療サービスのニーズは高いという。


 

会話が困難な人を手助けする筆談アプリ


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ジャパンアイテムコーポレーション社の筆談アプリ「話せる文字パッド」は、画面の50音キーボードをタッチして文字を入力し、文がまとまったところで音声として読み上げてくれるものだ。複数の指が触れても1音しか入らないようにするなど、介護用ならではの工夫が凝らされている。価格は1000円で、アップストアで購入できる。従来は高価な専用機を使う必要があったが、iPadアプリにすることで低価格を実現できたという。



『Mac Fan』2013年10月号掲載