検査データの蓄積で患者の歯を生涯に渡って守る|MacFan

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検査データの蓄積で患者の歯を生涯に渡って守る

文●木村菱治

神奈川県伊勢原市のつじむら歯科医院では、「デンタルテン(DentalX)」というシステムを導入している。このシステムは、検査情報をiPadで直接入力し、それをMac上のデータベースで管理できる。同院は以前ウィンドウズのシステムをメインで使用していたというが、そこからなぜ今のシステムに移行したのだろうか。

虫歯の治療よりも重要なこと




神奈川県伊勢原市にある「つじむら歯科医院」へは、JR平塚駅から車で約20分ほどかかる。決してアクセスがいいとはいえないこのクリニックには、近隣からだけでなく、北海道から九州まで全国から患者が訪れる。ここは、歯科医院の患者満足度を競う「歯科甲子園・D1グランプリ」で、2011年のグランプリ部門最優秀賞・金賞を獲得した人気の歯科医院なのだ。
辻村傑院長は、多くの患者が訪れる理由を長年予防歯科に取り組んできた結果だと分析する。「おそらく予防にしっかりと取り組んでいる医院が少ないので、遠方からも患者さんがいらっしゃるのでしょう」。予防歯科では、口内の状態を良好に保ち、虫歯や歯肉炎・歯周病などの原因を作らないようにする。つまり、虫歯を治す以前に、そもそも虫歯にならないようにする医療だ。
「予防歯科の先進国であるフィンランドの人は、80歳でも平均26本もの歯が残っています。これに対し、日本人は同じ80歳でわずか6.8本しか残っていません」と辻村院長は語る。かつてフィンランドに渡り、実践的な予防歯科を学んだという辻村院長は、2000年頃から予防歯科への取り組みを開始した。
 

綿密な検査データを長期に渡って蓄積




同院の予防診療の基礎となっているのが、徹底した口内の検査だ。医師によるすべての歯および歯茎の状態のチェックに加え、唾液の成分や量、口内写真、顕微鏡による口内細菌の動画撮影など、検査項目は多岐に渡る。これらの検査結果を元に、患者個別に口内の状態改善、生活面でのアドバイスなどを行う。検査結果は、誰にでもわかりやすい形のレポートにまとめて患者に手渡される。これを定期的に繰り返すことで口内の状態変化を監視して予防管理を行っていくのだ。
「虫歯になる原因は、患者さん一人一人によって異なります。単に歯磨きをしましょうとアドバイスしても予防はできません。検査結果と対策をわかりやすい形で説明することで、患者さんも『ここを治せばいいのか』と納得します」
そのうえでとりわけ効果的なのが、過去のデータをきちんと残しておき、経過を比較できるようにすることだという。治療によってどこがどのように改善したかを具体的に知ることが、継続的な口内ケアにつながるのだ。
 

業務の速度を上げるiPad+Macのシステム




2000人以上の患者が定期的に訪れるつじむら歯科では、大量の検査データの管理が必要になる。このデータ管理に使われているのが、プラネットの「デンタルテン」というシステム。MacとiOSデバイスを組み合わせた歯科専用のデータ管理システムだ。検査データの入力とデータベースへの登録、画像管理、患者や院内用の資料の印刷といった予防歯科に適した機能が統合されている。
検査データの入力にはiPadが使われている。例えば、歯周ポケットの検査では、医師が測定したポケットの深さを口頭で読み上げると、iPadを持ったアシスタントが画面をタッチしながら即座に入力していく。デンタルテンでは、検査項目毎に専用の画面が用意され、ポケットの深さもテンキーを使わずにワンタッチで入力できる。このため、スピーディに入力作業が進むというわけだ。検査データは、無線LAN経由でサーバであるMacプロ上に保存される。
すべての検査が終了したら、iPad上で印刷指示を行えば、Macを操作することなく、患者に説明するための図入りプレゼン資料や、院内用の資料が自動的にプリントアウトされる。
口内写真や顕微鏡の動画は、Mac上でデータベースに登録する。すべての検査データは1つのデータベースにまとめられ、いつでもiPadやMacから参照可能だ。このおかげで院内のどこにいても、患者にiPad画面を見せて説明を行うことができるようになった。
 

分散したデータ管理の限界から1つのデータベースに統合




同院がデンタルテンを導入したのは約2年前。それまでは、ウィンドウズベースのシステムを使っていたが、患者が増えるにつれ、データ管理に問題が生じていたという。一番の問題は、口内写真や動画など、検査データの種類ごとにデータを保管するシステムが分散しており、入力や管理の負担が大きいことだった。
「1人の患者さんの情報を、複数のパソコンに入力しなければならないのは大きな手間でした。また、あとからデータを参照するときにも、複数のパソコンから引き出さなければなりません」。さらに、システムのトラブルも頻発し、その対応に追われることも少なくなかったという。
システムの改善策を辻村院長が探していたときに、「Macですべて一元管理できるシステムがある」と耳にしたのが、デンタルテンだった。
「院内システム全体を大きく変えることになりますが、従来の方法では限界にきていたので、思い切って導入しました」
 

患者数が増えても残業時間は減少




デンタルテンの導入効果について、辻村院長がまず挙げたのがシステムの安定性だ。「稼働してから約2年になりますが、ここまでノートラブルで動いています」。やはり業務システムで何より重要なのは、安定して稼働することである。
データベースが1つに統合されたことで、1人の患者のデータを別々のマシンに入力する作業もなくなった。これにiPadの機動性が加わり、業務の効率は大幅に高まったとのこと。
「iPadを使って、診察と同時にデータの入力ができるので、紙カルテからの転記が不要になりました。iPadでは医師の口頭による指示と同じ速度で入力できます」
導入効果は数字にも現れている。患者数が増え、売り上げも伸びている一方で、スタッフ数や残業時間は減っているという。「すべてがデンタルテンの導入効果とはいい切れませんが、システムの効率が悪ければ人員は増えていたでしょう」。特に、資料作成のためにパソコンに向かう必要がなくなったことの効果が大きいと辻村院長は分析する。
「以前は、資料作りに毎日1時間ほどかかっていました。今は検査データの入力が終わると同時に資料の印刷までできるので、検査結果を見るためだけに再度来ていただく必要がなくなりました。また、歯科衛生士が1日に看られる患者さんの数も増えています」
今後は、新しく開設するクリニックとの間でデータ共有を行い、患者がどこに行っても同じサポートが受けられるようにしていきたいという。また、同様の仕組みで予防医療を行っている各地のクリニックと一緒に症例検討会を開くなど、蓄積した情報の有効活用を目指す。
つじむら歯科におけるデンタルテン導入は、業務の効率化と営業面でのプラス効果をもたらした。クリニックの業態とITシステムが上手くかみ合った好例といえるだろう。


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検査データの入力画面には、専用のソフトキーボードが表示され、入力効率を上げている。1つの歯のデータを入れると、自動的に次の歯にカーソルが移るので、医師が口頭で指示する速さで歯科助手が入力できる。

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DentalX

画像や動画の閲覧にもiPadが活用されている。デンタルテンでは、口内の写真や口内細菌の動画を読み込んでデータベース化する。iPadを使えば、院内のどこにいても患者と一緒に検査データを見ることができる。

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デンタルテンのサーバとして使われているMacプロ。このほか、2台のiMacがクライアントとしてつながっている。画像や動画のデータベースへの登録はMac上で行う。

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つじむら歯科医院の辻村傑院長。開業当初は、治療を中心とした歯科医療を行っていたが、「地域の患者さんの歯を生涯に渡って守りたい」との思いから、予防歯科への取り組みをスタートさせたという。

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デンタルテンでは、検査結果が図入りのわかりやすい形でプリントアウトされる。患者も自分の口内の状態がひと目でわかる。

 『Mac Fan』2013年2月号掲載