定性的信用をいかに作り出すか?|MacFan

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定性的信用をいかに作り出すか?

文●松村太郎

3月のシリコンバレーは、その名も「シリコンバレーバンク」という銀行の問題で大揺れでした。この銀行は、全米16位の規模を誇り、地元でスタートアップ企業への融資を中心に、テックビジネスの発展に長年大きく貢献してきました。

しかし2022年末から、ベンチャーキャピタリストを中心に、流動性に問題があると指摘して、シリコンバレーバンクの顧客たるスタートアップの経営者が、リスクを避けるため、資金を引き揚げる動きを見せていました。

そんな矢先、シリコンバレーバンクが増資と資産売却による損失を発表したことから、取り付け騒ぎとなり、米連邦預金保険公社(FDIC)が閉鎖を宣告し、同銀行の破綻が決まったというわけです。

シリコンバレーバンクに限らない構造的な問題、すなわちインフレ抑制のための急速な利上げによる流動性の低下。そして人為的な問題。すなわちベンチャーキャピタリストのエコシステムを無視した資産保護の動きと、シリコンバレーバンクの経営陣の無策によって、リーマンショック以来最大にして、全米で2番目の規模の銀行破綻が起きました。

その後、米国の金融当局は、ジョー・バイデン大統領の声明も借りて、「預金や銀行が安全である」「預金は全額保護される」というメッセージを出し、火消しに追われています。しかし、テクノロジー企業への融資によって信頼と信用を得てきたシリコンバレーバンクが、これまでのように新しい産業を助けていくことはもはやできなくなったのではないでしょうか。

ここで「信用」という言葉がとても大きくのしかかります。辞書を引いてみると、「確かなものと信じて受け入れること」「それまでの行為・業績などから、信頼できると判断すること。また、世間が与える、そのような評価」と書かれています。今回のテーマを例に、わかりやすくいえば「貸した金が返ってくるかどうか」という話でしょう。

シリコンバレーバンクの看板商品である「ベンチャーデット(Venture Debt)」は、創業したての企業に対しても、成長していて投資家がお金を出している企業であれば、資金を融資するというものでした。ここには、定量的な判断だけでは測れない、定性的な情報も駆使しながら、スタートアップの資金調達を支えていたと見ています。

今回の破綻で、私が複雑な心境を抱いたのは、その定性的な価値感から恩恵を受けてきた投資家が、定量的な価値判断によって、シリコンバレーバンクの信用のネットワークを破壊した形になったからです。

たしかに、定量的な価値判断、すなわちクレジットヒストリーや資産状況などを背景にした信用情報の活用は、日本でも一般的に広く使われています。それによってお金が借りられず、家が買えなかったり、事業を始められなかったり、はたまた事業を継続できなくなったりすることは、決して珍しくはありません。

定量的な信用情報は、確かに金融機関を守るかもしれません。しかし、その情報の価値が低い人、あるいは若い人や企業で情報そのものを持たない人にとっては、大きな機会損失となってしまうでしょう。

実は、ゴールドマン・サックス・グループとアップルは、このことに気づいていることから、独自のクレジットカードの取り組みを始めたのではないかと考えています。アップルが自社の顧客に定性的な信用を与えているとはどういうことなのか? それは次号で詳報したいと思います。

 

3月10日に経営破綻を発表したシリコンバレーバンク。米国史上2番目の規模の銀行破綻となった。
【URL】 https://www.svb.com

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。