世界初“充電不要”の革命的ウェアラブルデバイスに隠れた思想|MacFan

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世界初“充電不要”の革命的ウェアラブルデバイスに隠れた思想

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

昨年テック界隈で話題になった「24時間365日充電不要」を謳う新しいスマートトラッカー「MOTHER Bracelet」。一般販売後も依然として人気の集まるプロダクトは、いかにして技術的な課題を克服し、世に出たのだろうか。充電不要の仕様にこだわる理由や、背景に隠れた必ずしも資本主義的でない思想について、株式会社メディロムを取材した。

 

 

24時間365日充電不要

2021年夏、クラウドファンディングサイト「マクアケ(Makuake)」で、ある商品が話題になった。「24時間365日充電不要」を謳う株式会社メディロムのスマートトラッカー「マザーブレスレット(MOTHER Bracelet)」だ。

ガジェット系のクラウドファンディングでは、大言壮語的なプロモーションが行われ、実際に商品が届いたあとで批判が寄せられることが少なくない。同製品にも懐疑的な見方はあったが、その仕様に期待が高まり、1292人から約5600万円という多額の支援を集めた。

その後、同製品は無事、2022年3月に先行予約分が出荷された。5月からはさらにブランドサイトでの予約受付を開始、初回出荷分は1日で完売したという。それから半年、同製品のネガティブなニュースも聞こえず、つまり「24時間365日充電不要」は本当だったという目算が高まった。

技術的な課題をいかに克服したのか、後発のプロダクトがシェアを広げることはできるのか、同社CEOアシスタント兼マザー開発責任者・植草義雄氏に話を聞いた。

 

 

2000年7月創業の株式会社メディロム。「Re.Ra.Ku」ブランドを中心にしたスタジオ運営事業を手がけながら、2015年よりヘルステックビジネスに参入。健康管理アプリ「Lav」は企業や健康保険組合の特定保健指導にも利用される。2020年から「MOTHER Bracelet」でデバイスの開発・提供をスタートさせた。[URL]https://medirom.co.jp

 

 

株式会社メディロムのCEOアシスタント兼MOTHERチームGM開発責任者の植草義雄氏。

 

体温と気温の差で発電

マザーブレスレットの最大の論点は、「24時間365日充電不要が事実なのかどうか」ということだろう。そもそも、同製品はいかにしてこの仕様を実現しているのか。“充電不要”のために搭載された発電機能は2つある。

1つ目は「温度差発電」。物体の温度差を電圧に変換する「ゼーベック効果」という現象を利用している。米マトリックス・インダストリーズ(MATRIX Industries)社との提携により共同開発した技術で、アクティビティ・トラッカーへの搭載は世界初。気温と体温との差が1度以上あれば発電可能だという。

2つ目は、「太陽光発電」。本体表面のソーラーパネルによる。温度差発電は、当然、気温と体温の差が小さくなる夏には発電量が下がる。そこで、真夏の屋外などでは、太陽光発電でそれを補っているという。

では、この2つの発電機能により、「24時間365日充電不要」は実現できているのか。現在は一般販売の購入者の手元に届いてから約半年ほどで、植草氏は「現在もユーザからデータを集め続けている段階」としつつ、こう説明する。

「ほとんどの購入者の方には、今のところ一度も充電することなく、着用いただいています。使い方によって、たとえば温度差も太陽光も少ない環境で着用するなどの場合では、数カ月で充電が切れてしまうといった報告もわずかにあり、そのときは充電が必要です。データを集め、より不便なく着用できるよう、改善を続けます」

本体の裏には多くのアクティビティ・トラッカーがそうであるように、充電ポートがある。しかし、その使用頻度は、他社の製品より明らかに低い。

 

「充電」がネックに

メディロム自体が、マザーブレスレットへの信頼性を担保していた面も少なからずあるだろう。同社は2022年3月末現在、全国に300店舗以上を構えるリラクゼーションスタジオ「リラク(Re.Ra.Ku)」を、2000年から運営している。街中で印象的な緑のブランドカラーを見かけたことがある人も多いはずだ。

同社は2015年からヘルスケアアプリ「Lav」でヘルステック事業にも参入。チャットで管理栄養士やセラピストによる個人指導を受けられるアプリで、リアルとデジタルの両面で健康づくりに寄与してきた。そんな同社が次に参入したのが、デバイスとしてのマザーブレスレットだった。

もともと「Lav」アプリでは、歩数や睡眠状態などのヘルスケアデータを利用。スマートフォン単体では得られるデータが不十分であるため、他社のアクティビティ・トラッカーなどをAPI連係させて対応していた。

ここで、従来のアクティビティ・トラッカーには「利用を中断してしまう要因が主に2つあった」と植草氏。一つは充電のために外したことをきっかけに着けなくなってしまうこと。もう一つは、充電する間はデータを計測できないこと。これらの要因はともに充電という行為によるものだった。

そこで生まれたのが「充電不要」のコンセプト。病院、介護施設などのBtoB領域からも問い合わせが多いという。またこの場合、常に同製品を身につけることになるため、ファッション性も高められており、ユナイテッドアローズとのコラボモデルも人気だ。

 

設計の背景に「思想」

マザーブレスレットには温度、加速度、ジャイロスコープ、心拍などのセンサが搭載され、「歩数」「睡眠」「体表温」「心拍数」「消費カロリー」の5項目を測定することができる。一方で、誤解されがちなこととして、腕に着けるリストバンド型ではあるが、スマートウォッチではない。つまり、時計機能はなく、表面も液晶ではない。しかし、実勢価格は4万4000円(税込)と一般的なアクティビティ・トラッカーと比べると高価にも思われる。

逆に言えば、このように“特化型”のデバイスが話題になっていること自体、行き過ぎた高機能へのアンチテーゼになっている。

技術的に今の製品のサイズでは液晶や時計機能を搭載しづらいことや、生産状況により価格を抑えにくいことを差し引いても、植草氏の「機能を増やす方向でほかのアクティビティ・トラッカーと競っても、コモディティ化するばかりで埋没してしまう」という指摘は頷けるものだ。

そこで競合優位性になり得るのが、同製品のもう1つの特徴だ。同製品の管理アプリ「マザー(MOTHER)」では、健康にいいアクティビティの成果が「エナジー」としてポイント化されてアプリに蓄。エナジーを誰かに贈ったり、社会活動に寄付したりできるのだ。

「自分が健康になるだけでなく、他者に何かを“giving”できる。当社の企業理念に通じる考え方を体現したシステムでもあります」(植草氏)

支援先には学校の設立や被災地支援活動団体、女優・タレントの藤原紀香さんが主宰する「スマイルプリーズ(Smile Please)世界こども基金」などがある。

ヘルスケアデータは今、アップルを含め、デバイスの面で圧倒的シェアを持つGAFAなど世界的大企業の独壇場になりつつある。

そんな流れに抗うのが同製品のような「機能を絞ること」「“giving”できること」といった情緒的価値だとしたら新しい。今後の市場を占う意味でも目が離せないプロダクトだと言えるだろう。

 

 

「FitStats」では、生活者のヘルスケアデータを独自のアルゴリズムで数値化し、健康状態を可視化。サービス内の行動に応じたポイントを得られる。データは生活者が許可した企業に公開され、個人に合った情報提供に活用。生活者と企業の安全・安心な双方向コミュニケーションを実現する。ヘルスケア・フィットネスアプリ「FiNC」内から、誰でも無料で利用できる。 [URL]https://mother-bracelet.com

 

 

「ファッションを楽しみながら健康な生活を送りたい方へ届けたい」という思いからユナイテッドアローズとのコラボが実現。カラーは通常モデルのマットブラック、同ブランドを象徴するオレンジ、日常に馴染みやすいベージュの3色展開。 [URL]https://mother-bracelet.com/pages/united-arrows

 

 

軽くて小さいので腕に馴染む。バンドは交換可能で、皿洗いや風呂掃除はもちろん、入浴時も影響のない50m防水に対応。

 

 

「MOTHER Bracelet」と連係する専用アプリ。各種データを確認でき、iOSの「ヘルスケア」とも連係。日々の目標設定が可能で、たとえば歩数の目標を達成するとMOTHER Braceletから振動とLEDの点滅で通知される。アクティビティ(ランニング、ウォーキング、インターバルトレーニング)の計測と目標設定、通知も可能。利用者同士の「友だち機能」、獲得したポイントを運用する「エナジー機能」もある。

 

「MOTHER Bracelet」のココがすごい!

□24時間365日充電不要を謳うスマートトラッカー
□体温と気温の差で発電し「充電」のネックを解消
□アクティビティがポイント化され寄付などの形で社会貢献できる