宮城県のICT教育を牽引する理科と情報科の二刀流教師|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

宮城県のICT教育を牽引する理科と情報科の二刀流教師

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

すべての都道府県において、の公立高等学校では2022年度1年生の1人1台環境整備が完了予定だ。宮城県の県立学校では5年前から端末整備を始め、教科指導におけるICT活用を「MIYAGI Style」と名づけ推進している。MIYAGI StyleスタイリストとしてICT教育の普及に努める宮城県古川黎明中学・高等学校の奥山敏基教諭に話を聞いた。

 

 

MIYAGI Style

2022年度中に、政令指定都市を含むすべての都道府県において、公立高校の2022年度1年生の1人1台環境の整備が完了する予定だ。さらに2024年度までに全学年の1人1台環境の整備が完了予定となっている。そのような中、宮城県の県立学校では5年前から端末整備を始め、教科指導におけるICT活用を「MIYAGI Style」と名づけ、教育の情報化の3つの分野「情報教育」「教科指導におけるICT活用」「校務の情報化」を推進している。MIYAGI Styleを広める教職員を「スタイリスト」として2018年度に7名を選出し、定期的に研修会を開催。そのうちの1人が宮城県古川黎明中学・高等学校の奥山敏基教諭だ。宮城県立学校のICT教育普及のための研修会コンテンツを作成したり、研修会の講師を務めたりしてきた。

「ICT環境が整備されても、実際に使わないと意味がないですし、整備しただけでは使われないので、県や校内での研修会の充実が重要だと考えました。そこで研修会用のコンテンツを開発し、当時iTunes Uに公開。私自身の授業も、一斉学習でのICT活用から始めました。今では、協働学習や個別学習にもICTを取り入れています」

宮城県最初の公立中高一貫校である同校では、2015年に宮城県の「ICT利活用授業力向上プロジェクト事業」の採択を受け、ICT活用を始めたという。端末はiPadが支給され、一部の教員で実証実験を進め、実証実験後にWi-Fiのアクセスポイントを入れ、教員にiPadを整備した。生徒用のiPadは、共有iPadから活用を始め、今年度の1年生に1人1台BYAD(Bring Your Assigned Device)で購入してもらい、1年生は1人1台となった。

「本校のICT環境は、宮城県の整備に合わせて各クラスにWi-Fiのアクセスポイントがあり、電子黒板機能付きのプロジェクタ、プロジェクタの映りがきれいな映写兼用黒板、アップルTVを整備しています。端末はiPad(第9世代)を推奨機種として、購入してもらいました。64GBのWi-Fiモデルで、それ以上の上位機種を使いたい生徒は学校のWi-Fiにはつながりませんが、持ち込んでよいことにしています。宮城県の県立学校には、各機器の台数に違いはありますが、本校と同じように整備がされています」

教員研修では、ICT教育の必要性やiPadアプリの使い方についての講座を行ってきたという奥山教諭。また、生徒にはデジタルシティズンシップの重要性を常に伝えているため、端末には制限をかけず、アプリのダウンロードも自由に許可しているという。

 

奥山敏基教諭

宮城県古川黎明中学・高等学校理科・情報科教諭。大学卒業後、宮城県内の高校に勤務したあと、同校に赴任し14年目。2018年度より「MIYAGI Style スタイリスト」として宮城県立学校のICT教育普及のための研修会コンテンツを作成、研修会の講師も務める。Apple Distinguished Educator 2019。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

ノート代わりのiPad

宮城県ではグーグルアカウントが全員に発行されており、「グーグル・フォー・エデュケーション(Google for Education)」を導入している同校だが、生徒とのやりとりは主に「ロイロノート」を利用している。理科と情報科の教員免許を持つ奥山教諭は、どちらの授業においても積極的にiPadを活用しているそうだ。

「理科では『キーノート(Keynote)』を使って、化学反応に関する動画を作成して見せることから始めました。最初は私が作成していましたが、現在は生徒が動画を作成するなど理解を深めています。化学反応を理解していないと動画が作れないので、動画を作ることによって理解度が可視化され、生徒がつまずいているポイントがわかるようになりました。元素図鑑を作ってみるという夏の宿題を出したこともあります。

情報科の授業では、iPadでグーグルスライドを使ってWebページの作成を教えたこともあるという。

「普段の授業ではキーノートを活用することが多いのですが、社会に出たときを想定し、グーグルスライドを活用しました。提出物もiPad経由ですし、iPadがノート代わりにもなっているので、紙のプリントだったものはデータで配付しています。今では直接ペンシルで書き込んでいる生徒がほとんどです」

2022年度から高等学校情報科に共通必履修科目「情報I」と選択科目「情報Ⅱ」が新設され、情報Iで問題解決のためのプログラミング、情報Ⅱで情報システムのプログラミングを学ぶこととしている。同校では、プログラミング学習を「スウィフト・プレイグラウンズ(Swift Playgrounds)」で行っているそうだ。

「生徒はヒントを見たり、話し合ったりしながら、どんどん先に進んでいきます。進捗状況の把握と振り返りは、『マイクロソフト・フォームズ(Microsoft Forms)』を活用中です。次の展開としては、スウィフト・プレイグラウンズを使ってドローンを飛ばそうと思っています。プログラミング学習にしても動画作成にしても、デジタルネイティブの生徒たちは我々が教えなくてもできてしまいます。そのため最近は、教育の方法においても見直しているところです。これまでは方法を指定して取り組んでもらうことが多かったのですが、最近は反転学習など課題を用意し、方法も含めて生徒に委ねる形が増えてきました」

 

消費者ではなく生産者へ

これまで同校の情報化推進リーダーを担ってきた奥山教諭だが、現在は授業改善や公開授業研究会など、探究とICTの融合を推進する役割に移行している。そんな奥山教諭の目下の展望は、プログラミング的思考を高校でも育成していくことだという。2020年に小学校でプログラミング教育が必修化されたことを受け、奥山教諭は高校でも情報科だけでなく、化学の授業など高校の教科の中でプログラミング的思考を育成できないかと模索している。

「スマートフォンの登場でとにかく便利な時代になりましたが、生徒にはただ消費する側に回るのではなく、自分で作る側に回ってほしいという思いがあります。そういった意味で、プログラミング的思考を小学校だけでなく、高校も含めて継続的に育成していけるとよいのではないかと考えています。スキルだけでなく、何のために作るのか、作ることでどのような課題解決につながるのかという思考を育成していきたいです。小学校のプログラミング教育が高校で実を結んで、自分でアプリを作って課題解決ができるようになると、『消費者』ではなく『生産者』になっていくのではないでしょうか。本校では、探究力を持ったイノベーションリーダーの育成を目標に掲げていますが、そこにもつながると思います」

 

 

今年度の古川黎明高等学校の1年生は、1人1台のBYAD(Bring Your Assigned Device)でiPad(第9世代)を整備。64GBのWi-Fiモデルを推奨機種としている。

 

 

情報科の授業ではSwift PlaygroundsやXcodeを使用し、アプリ制作を行った。探究の時間には、課題解決のためのアプリを制作する生徒も出てきているという。

 

 

理科の授業ではKeynoteを使用し、化学反応の様子を動画で作成。化学反応への理解がないと動画の作成ができないため、理解度の可視化にもつながるという。

 

 

理科の授業の中での課題例。家の中にある「合金」をiPadで撮影し、Keynoteのプレースホルダを使い、まとめるという内容だ。

 

 

MIYAGI Style スタイリストとして宮城県立学校のICT教育普及のための研修会コンテンツを作成したり、研修会の講師を務めてきた奥山教諭。

 

奥山敏基教諭のココがすごい!

□「MIYAGI Style スタイリスト」に選出され、宮城県のICT教育を推進している
□理科と情報科を受け持ち、両授業で積極的にiPadを活用している
□校内だけでなく、県の研修会の講師も務めている