Appleを学ぶ|MacFan

文●松村太郎

筆者は2020年から、東京・墨田区に新設されたiU(情報経営イノベーション専門職大学)で専任教員を務めています。そこで“教鞭をとっている”というと一方的に聞こえますが、実態はそうではありません。どちらかというと、学生とともに切磋琢磨し、自分も“泥んこ”になりながら、いろいろなことにトライをしているーーそんな日々であるといったほうが正しいかもしれません。

イノベーション、デザイン思考、ビジネスの分析、ビジネスモデルの構築など、学生たちが起業を体験することで、在学中、もしくは卒業後にその経験を活かすことができるように、知識のインプットと体験的な学びを中心に提供しています。

iUができてから丸3年が過ぎ、いよいよ2023年度は一期生が4年生になり、2024年にはとうとう卒業を迎えます。そんな彼らに対して、このタイミングで何を教えるべきなのか。考えた末にたどり着いたのは、「アップルを学ぶ」ということでした。

アップルはテクノロジー企業であり、またハードウェアからソフトウェア、プラットフォームまでカバーする、もっとも老舗のビッグテックです。そもそも、複数の商流がアップルのビジネスをもとに構成しているといっても過言ではなく、ビジネスモデルを学ぶうえで非常に有益な事例だと言えます。

かつて会社を興したスティーブ・ジョブズという天才が引っ張ってきた経営面はもちろん、追放からのCEO復帰というヒストリーにおいても、リーダーシップや組織論として注目できるでしょう。さらに、ジョブズ没後のアップルが“1人の天才”から“集団としての天才”へと組織が生まれ変わっていった過程には、組織の在り方についての大きな学びがあります。

顧客中心に新しいプロダクトやサービスを作り出す手法である「デザイン思考」は、アップルがもっともわかりやすい事例を作り出しています。近年では、特にエアポッズ(AirPods)が秀逸で、ペアリングや接続、充電、バッテリと、ワイヤレスヘッドフォンが抱えていた“苦痛”を取り除く製品として世に放たれ、ユーザから大きな支持を得ました。

また昨年、欧州議会がEU内で販売されるすべてのモバイル機器などにおいて共通の充電器としてUSB│Cを導入する新法案を本会議で可決したことが大きな話題となりました。それを受けてアップルはどうするのか? ほかにも、日本を含む各国で進んでいる、公正で自由な競争環境を確保するため、アプリのサイドローディング(アプリストアを介さずにアプリをインストールする方法を用意すること)をアップルが許可するのかといった議論など、ビジネスを行ううえで避けられない問題にも触れられます。

アップルの周囲にいる競合企業やアプリ開発者、サプライヤー、ユーザなどを分析するとなると、アップル以外の企業のビジネスモデルや競争環境などに踏み込んでいく必要があります。Eコマース、デジタルマーケティングや広告、製造に関するサプライチェーン、自動運転、腕時計市場、気候変動への対策、米中の覇権争いなど、アップルが参入する、もしくは関わりのある分野は膨大で、これらをすべて学ぶことは、4年間でも難しいかもしれません。

それでも、学生たちにアップルを学んでもらいたいのは、この企業がそれだけ「ビジネスの入口」として極めてわかりやすく、多彩な興味を満たしてくれる存在になっているからです。アップルを学んだ学生たちが、どんなビジネスを創造するのか、アップルを超える企業をつくるのか、楽しみでなりません。

 

墨田区初の大学として開学したiU。Appleという企業は、多くの学生にとって重要な「教材」となるのです。
【URL】https://www.i-u.ac.jp

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。