生花店でのiPad活用に見る「小規模店舗におけるDXの必要性」|MacFan

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生花店でのiPad活用に見る「小規模店舗におけるDXの必要性」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

2013年という早い時期からiPadを業務デバイスとして活用する生花店「ex.flower shop & laboratory」。同店舗を運営する株式会社BOTANICでは、iPadを使った決済や商談、生花業の課題である在庫管理の解決に取り組んでいる。小規模店舗ならではのiPadの活用方法は、生花店だけでなく飲食店などの他業種でも参考になる部分が多いはずだ。

 

 

2013年からiPadを活用

株式会社BOTANICは、生花店「イクス・フラワーショップ&ラボラトリー(ex.flower shop & laboratory)」を中目黒、代々木上原、蔵前に展開する企業。店頭販売のほかにも、企業オフィスや店舗などの装飾を行うほか、オンラインストアやSNSでのD2C(オンライン直販)や生花のサブスクリプション「リフト(LIFFT)」「霽れと褻(ハレとケ)」などのサービスも展開している。

同社が運営する店舗では、2013年という早い時期から決済サービス「スクエア(Square)」を導入している。レジ端末として、スクエアリーダー(クレジットカードおよびタッチ決済を行うための読み取りデバイス)とiPadを組み合わせて活用しており、同社のCEOである上甲友規さんはこう話す。

「スクエアを導入したのは、当時では珍しくiPadをレジ端末として利用できたからです。店舗ではすでに業務ツールとしてiPadを使っていたので、活用の幅が広がると思いました。また当時、スクエアの導入コストが同業他社のサービスと比べて安価だったのも選定した理由のひとつです」

なお、実際の店舗での決済時には、生花の包装や受け渡しを行うカウンター下からiPadとスクエアリーダーを取り出して利用しており、カウンターには固定の場所を作っていない。フレキシブルに利用することで、業務スペースが確保されるのが利点のひとつといえる。

また同サービスは、操作体系がシンプルな点が便利だったという。通常業務で使い方に困ったことがないほか、入社したばかりのスタッフでもトレーニングの時間を取らなくていいことは、顧客と顔を合わせて接客する現場において助かる面が多いそうだ。

また先述のように、同社はiPadを主な業務ツールとして利用している。メールや売上データを確認するなどのパソコンライクな使い方をしているほか、生花を写真で撮影し、それをアイクラウド(iCloud)に保存している。同社にとって、この“いつでも写真を表示できる”という点がiPadの最大の魅力という。

「たとえば、企業の方からオフィスや店舗の装花や植栽をご注文いただきます。過去の実績の写真の中からイメージに近いものをお見せして、どのような装飾にするか話し合うのですが、iPadなら花の色合いが損なわれず美しく表示できます。デザイン性が重要な私たちの仕事にとって必須のツールになっていました」

 

 

ex.flower shop & laboratory NAKAMEGURO

住所●〒153-0061 東京都目黒区中目黒3-23-16 3F
営業時間●11:00~19:00(定休日なし)
TEL●03-3712-2855
URL●https://www.ex-flower.com

花と緑の専門店。「花屋として、花について正しい知識を持ち、その魅力を誰よりも深く理解すること。一輪一輪の色や形、香り、一本一本の佇まいと状態、生産者のこだわりと想いに目を向けること。全ての花を主役にできるよう、技術を磨くこと。そんな花屋としてのあたりまえを見つめ直し、花屋の新しいスタンダードをつくります」をモットーに、都内に3店舗を展開。

 

 

在庫把握が難しい特殊な業界

上甲氏によると、生花店で利益を出すには廃棄のロスをいかに減らすかが鍵になるという。これを目指すためには正確な在庫の把握が必要になるが、生花店にとって大きな難関となっている。

「生花だけでも常時100種類近くを扱っています。同じお花で数十の品種がある場合もありますし、しかも扱う種類は季節によって変わっていきます。直近の11月に仕入れた生花と植物の商品種類数は1000種類を超えています」

さらに、生花は本数が商品単位にならない場合も多い。たとえば、カスミ草は花束やブーケで複数本を使うことが多く、1本単位で販売することは少ない。つまり、一般的な商品のように「今日の販売数は何個」と数えるのが難しいのだ。

そのため同社では、仕入れた商品と廃棄した商品をiPadで撮影している。スタッフは写真を見れば次に入荷するべき数がわかり、種類ごとにおおよその在庫量を把握できるのだ。この作業にスタッフの負担はあるものの、ロス率を大きく下げるために大きく役立っているのも事実という。

 

生花業は“仕入れが8割”

品質の高い商品を生花市場で仕入れるには、生産者まで意識する必要がある。上甲さんによると「在庫データを追いかけていくと『この時期にあの生産者さんがつくった品種は品質がよい』などの傾向が見えてきます」という。ここで言う“品質”とはたとえば日持ちの長さを指し、品質のよい生花であれば1週間以上は美しい状態を保つが、そうでないものはすぐにしおれてしまうこともある。

ここで重要なのは、生産者ごとの品質をスタッフは体感で把握しており、経営に携わる上甲氏はそれをデータで確認していることだ。上甲氏はiPadを使ってエクセルで入荷および廃棄リストを作成しており、データを確認して仕入れ戦略を考えたうえで、それをスタッフと共有して現場感覚の裏付けをとっている。スタッフと経営者という立場は違っても、体感とデータを組み合わせることで共通言語が生まれることになる。これにより、たとえば比較的長持ちする生花を販売できるようになる。購入後のユーザ体験が豊かになると、ブランドの信頼度を高めることにも直結していくのだ。

また、一般的な生花店の場合、仕入れを担当するのは10年以上の経験を積んだベテランというのが常識だそう。しかし、上甲氏によれば「私たちの店舗では、より経験年数の短い若いスタッフも買い付け業務を担当しています。年数をかけて培った経験はもちろん大切ですが、データ分析で補うことができる部分もあると考えています。生花業では“仕入れ8割”という言葉があるとおり、なによりも仕入れが重要だということです。お客様からは直接見えない部分ですが、よい花屋さんほど努力をしていると思います」ということだ。

なお同社の3店舗は、いずれも感度の高い地域に出店している。たとえば中目黒店は、アメリカで誕生した人気コーヒーショップ「ブルーボトルコーヒー」の上階というロケーションだが、場所柄ゆえに商品が高価格帯かというと決してそうではない。それは、経営者目線でのデータ活用とスタッフが実務で学んできた経験値を組み合わせてロスを減らし、価格を抑える努力をしているためである。

大規模な生花チェーンから個人店までさまざまな生花店が存在するが、ビジネス規模に応じて業務が単純化されるわけでは決してない。中~小規模の店舗において効率性を追求するためには、複数の用途で活用できるiPadなどの業務デバイスが起点になり得るのは同社の例からもわかるだろう。業務デバイスを同社のように積極的に活用することで、これまでの“データだけ”“感覚だけ”の一歩先に進むことができるのだ。

 

 

iPad、Squareリーダー、キャッシュドロワーで決済を行う。Squareのシステムは感覚に利用できるUI(ユーザインターフェイス)かつ、入店したてのスタッフでも問題なく使える点が魅力のひとつだという。

 

 

株式会社BOTANICの上甲友規CEO。生花業に魅力を感じ、初代CEOとともに同社を創業。ミッションは「花のある暮らし」を日本に定着させること。

 

 

扱う商品種類が膨大なため、生花店にとって在庫管理は大きな課題になっている。業務負担は決して小さくないが、管理を最適化したことで戦略的な仕入れが可能になり、品質の高い生花や植物を揃えられるようになった。

 

 

サイボウズの従業員に対して行われた「CYODによって会社への信頼感が向上したか」を問う調査への回答。企業がCYODを導入することで従業員の業務効率が上がるほか、企業自体へのロイヤリティ(愛着や親近感)向上にも期待できそうだ。

 

 

同社運営のオンラインショップ「LIFFT」では、花や関連商品の販売に加えて、サブスクリプションサービスを展開。一般的な生花店では入手しづらい花を生産者から直接購入し、毎月届けてくれるのが特徴だ。【URL】https://lifft.jp/

 

 

BOTANICのココがすごい!

□業務ツールとしてiPadを導入し、決済や事務作業、商談に活用
□iPadで在庫を撮影することで必要な入荷量を視覚的に把握
□経営者と店舗スタッフの意識をすり合わせるためにデータを活用