ジャパン・ツアー|MacFan

文●松村太郎

2022年12月12日からの1週間、アップルのティム・クックCEOと同社ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのグレッグ・ジョズウィアック氏が、日本を訪問しました。筆者はほとんどの日程を帯同し、世界トップ企業のナンバー1、ナンバー2が、日本で何を見聞きしたのかを追いかけました。

2人のエグゼクティブはまず熊本県に入り、13日朝に熊本市立五福小学校を視察。次にiPhoneのカメラに用いられるセンサを10年以上にわたって製造するソニーセミコンダクタソリューションズの工場を視察しました。

その日のうちにすぐに東京へ移動し、アップル銀座、アップル表参道を訪問。フルート奏者のCocomiさんのライブを最前列で楽しむ姿がありました。

翌日14日にはゲームメーカーのコナミやグラフィックデザイナーのVERDIさんのもとへ訪問。アップル製品を用いたクリエイターの現場を視察しました。また、同日にはアップルが横浜市・綱島に開設しているテクノロジーセンターも訪れています。

15日は、朝からアプリ開発者からAI(人工知能)やAR(拡張現実)を駆使したアプリのプレゼンテーションを受けた後、岸田文雄首相と面会。夜はアップル丸ノ内で、海外で活躍する日本人クリエイターとともにフォトウォークを楽しむなど、東京を満喫したのでした。

最終日となる16日は、アップルウォッチ・ウルトラ向けのバンドを製造する福井県越前市にある井上リボン工業を訪問し、その製造工程を見学。その後スティーブ・ジョブズも愛したという永平寺を訪れ、全日程を終えました。

クック氏は、サプライヤー、アプリ開発者、クリエイター、そして小学生とまんべんなく対話を実現しており、かつiPhone、iPad、Mac、アップルウォッチ、プロ向けクリエイティブアプリと、関連する製品ラインも網羅する、日本とアップルのつながりをPRする「完璧な1週間」を過ごしたと言えます。

中でももっとも印象深かったのが、福井の井上リボン工業への訪問でした。同社の技術に目をつけたアップルは、アップルウォッチ発売前から数年間にわたり、特徴的なバンドを作るべく取り組みを始めていたといいます。その製造においては、繊維業界の常識や価値観を覆すレベルでの精度や偏差の基準を達成するイノベーションがありました。

アップルはファミリービジネスであっても、デザインと製品の実現のために研究にとことん付き合い、コラボレーションをするのです。その結果生まれたのが、軽くて丈夫で、一体的に織り上げられた不思議な構造のアップルウォッチ・ウルトラ向けのアルパインループでした。

ティム・クック氏は「井上リボン工業との深くて長いコラボレーションによって、クラフトマンシップと大量製造を両立してきた」とコメント。井上リボン工業でも、時計の主役として表に出る製品を作ること、また世界中の人々の腕で活躍していることを誇りに思っていたといいます。

クック氏は、「コラボレーション」は、社外のサプライヤーとだけではなく、アップル社内での働き方でも重視してきたと表しています。その証拠に、熊本の五福小学校の教室で行われた、iPadを用いた児童たちによる学びのコラボレーションの様子に驚き、目を輝かせていました。

社内、社外、そして製品を使うユーザにまでも、アップルの「カルチャー」がにじみ出ている点は、ブランドという表層的な言葉では言い表せない、アップルの強さを物語っているようです。

 

 

ティム・クックCEOは福井県の井上リボン工業を訪問。Apple Watch Ultra用バンド「アルパインループ」の繊維部分の製造過程を見学しました。
【URL】https://twitter.com/tim_cook/status/1603661976386707456

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。