グループ会社100社の尊重に必要なのは「一元管理」ではなく「一元把握」|MacFan

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グループ会社100社の尊重に必要なのは「一元管理」ではなく「一元把握」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

株式会社サイバーエージェントとグループ企業100社以上を合わせると、管理対象となる社用デバイスの数は1万4000台。 デバイス調達と利用状況管理は本社が取りまとめているが、それ以外の大部分はグループ会社の裁量や運用方法を尊重している。 この“管理”と“裁量”のバランスをどのように確保しているのか。同社グループIT推進本部の担当者に話を伺った。

 

 

グループ会社の多さゆえの課題

株式会社サイバーエージェントは、グループ会社100社以上とともに、主にインターネット広告/メディア/ゲームといった領域で事業を展開している。グループ会社の中には、営業職が中心で社用デバイスを事務処理に使うだけという企業もあれば、ゲームや技術開発などにあたってハイスペックなデバイスを必要とする企業もあり、約4年前まではグループ会社それぞれの事情に応じて個別にデバイス調達/管理を行っていた。

しかし、サイバエージェント本社のグループIT推進本部に所属する泉久保敏明氏によると「弊社グループでは、事業部を異動するのと同じく、グループ会社間での転籍も頻繁に行われます。この管理体制では、従業員が転籍する際のデバイスの取り扱いに問題がありました」という。たとえば、転籍した従業員が元会社へのデバイス返却処理を忘れてしまうと、社内での置き場所がわからない、デバイスが見つかっても誰が使っていたものかわからないなど管理上の問題が発生する。万が一、社外で紛失していた場合は情報漏洩の抜け穴になる懸念もあった。

そこで約4年前、グループIT推進本部はグループ全体のデバイス利用者/利用状況を把握するための仕組みを構築した。本社でのデバイス管理に利用していたセキュリティツールとMDM(Mobile Device Management)ツール、資産管理ツールを中心にデータを取得し、それをクラウドデータベース「スノーフレイク(Snowflake)」に取り込む形で、グループ全体の従業員1万人弱が利用するデバイス1万4000台の利用状況把握を行っている。これにより、電源が一定期間入っていないデバイスを抽出し、グループをまたいで利用者に返却を促すなどの管理が可能になった。

さらに同部署では、グループ全体で内蔵ストレージの暗号化や「グーグル・ワークスペース(Google Workspace)」の利用も促した。現在では、グループ全体でデータをクラウド上に保存しつつ、内蔵ストレージに置いたデータも暗号化されている状態を実現できている。行方不明のデバイスを生じさせないほか、万が一の場合でも暗号化されていないローカルデータは存在しないという二重、三重の対策が行えるようになったのだ。

 

それぞれの要求に応える

従業員の転籍が多い同グループでは、デバイス調達に関する問題も起きていた。従業員としては元々の所属会社で使っていたデバイスを転籍先でそのまま利用できれば楽だと感じるが、これは会社資産の譲渡にあたるため会計上の処理や手続きが複雑になる。しかし、元々の所属会社で使っていたデバイスを返却して、転籍先で新たにデバイスの支給を受けるのもやはり手間がかかる。もしも転籍先での調達が間に合わなかった場合には、業務に空白の時間も生まれてしまう。

さらに、同グループではインターネット広告におけるビッグデータや、ゲーム開発における3DCGなどを扱う頻度が高い。それらの用途に見合うスペックのデバイスを購入しようとすると、消耗品として経費処理が行える上限額では足りなくなっていた。上限額を超えると会計処理上は固定資産として減価償却を行う必要があるため、デバイスに消耗品と固定資産が混ざった状態となり会計処理の混乱を招いていた。

そこで、本社同部署はグループ全体のデバイス調達に関しても舵をとった。会計上の手間がかかる購入方式から、ウィンドウズ(Windows)はレンタル、Macは後述のオペレーションリースに切り替えたほか、デバイス導入から3年経ったタイミングで、新しいデバイスに交換することを標準と定めた。

 

本社が貸出プラットフォームに

この方式に切り替えたとき、同部署は非常に賢い仕組みを構築した。レンタル/オペレーションリースの契約は本社が一括で行い、本社およびグループ会社にデバイスを支給。グループ会社からは利用デバイスに応じた利用料を徴収する形にした。つまり、本社がプラットフォームとなり、グループ会社はデバイスのサブスクリプション契約をするイメージで、この仕組みがグループ会社におけるデバイス運用の自由度を高めることになった。

「コストを抑えるためにデバイスを5年くらいは使おうと考えるグループ会社もありますし、一方でM1/M1プロマックス/M2チップを搭載するMacのような最新のデバイスを使う必要がある場合は3年が経つ前でも新しいデバイスに交換しています。回収した古いデバイスは本社の在庫として預かり、高スペックを必要としない従業員に支給します。それぞれの会社単位でなく、グループ全体でデバイスをうまく融通しましょうという考え方に改めたのです」(泉久保氏)

Macに関しては、アップルが提供している法人/教育向けオペレーションリース「AFS(Apple Financial Services)」を採用した。これは、デバイスの残存価値を想定して分割で支払い、一定期間後にデバイスを返却する制度。たとえば、20万円のMacBookが3年後に6万円の残存価値がある場合、差額の14万円分を3年(36カ月)分割で支払い、3年後にデバイスを返却する。アップル製品は数年後でも残存価値が高い場合が多いため、トータルでの支払い金額が抑えられるほか、大量導入時も大きな出費にならず予算確保が容易になる、支払いを平準化できるなど多くのメリットがある。

グループ会社がMacとウインドウズを両方導入しようとした場合でも、本社をプラットフォームとして機能させる仕組みにはメリットがある。グループ会社から見れば、本社の調達方法にかかわらず従来のように使用分の料金を支払えばいいだけで、会計の項目は変わらないためだ。また、この制度に切り替えたおかげで、同グループでは「OYOD(Order Your Own Device)」に近い制度を導入できている。希望デバイスやスペックを申請すれば、金額にかかわらず必要な環境を用意してもらうことができ、Macとウインドウズの比率はグループ全体でほぼ半々だ。さらに、紛失/情報漏洩リスクの観点からデバイスの持ち歩きは推奨しておらず、テレワークなどで利用する場合は別途2台目を申請することも可能。現在、グループ全体でのデバイス支給台数は平均で1.4台を超えている。

 

管理と裁量のベストバランス

本社のグループIT推進本部は、グループ全体のプラットフォームとしてデバイス調達から管理までの基本的な運用ルールを定め、具体的な運用方針は各社の裁量に任せている。同部署が厳しく管理するのは、企業として致命的な問題になりかねない情報漏洩を中心としたセキュリティに関わる部分だけ。たとえるならば、米国の連邦政府と州政府のような関係で、必要十分な管理と現場の裁量のベストバランスを強く意識しているのが特徴だ。同部署の鷹雄健氏によると「サイバーエージェントは個人・事業部・グループ会社それぞれの裁量を重視しています。本社で厳しく管理しようとすると、どうしても現場のスピード感が犠牲になってしまいますが、それは絶対に避けなければなりません」ということだ。

情報システム部門や総務部門などの管理サイドは、情報漏洩リスクやイレギュラーな状況を避けるために厳格なルールを定めたがる傾向にある。しかし、これは時として現場の作業効率を悪化させ、従業員の不自由さや業務効率の悪化を招くこともある。そのような典型的な日本企業にとって、同グループの事例は大きい示唆を与えてくれるだろう。

 

写真は、エンジニア用のM1 Max(定価約50万/台)。本社のグループIT推進本部では、グループ全体で不要となったデバイスを預かって在庫として確保し、その在庫を必要とするグループ企業に支給している。これが一種のバッファとして機能しており、グループ全体でデバイスを使い回すことが可能になった。

 

 

同グループで実際に支給されているMacBook。業務ツールとして「Google Workspace」が推奨されているため、構成は非常にシンプルだ。Microsoft OfficeやAdobe製のソフトなどを導入したい場合は、必要に応じて申請する。

 

 

写真は、本社の会議スペース。西永裕樹氏によると「社内デバイス管理に加えて、社内システムを構築するのも私たちの仕事です。たとえば、会議室の空き状況がわかる入室管理システムも私たちで作っています」ということ。必要に応じて、システムや機能を自分たちで追加開発している。

 

 

左から、株式会社サイバーエージェントのグループIT推進本部に所属する泉久保敏明氏、西永裕樹氏、鷹雄健氏。

 

 

サイバーエージェントのココがすごい!

□デバイス1万4000台の利用状況を本社で把握する仕組みを構築
□デバイス調達を本社に一元化し、グループ会社の負担を軽減
□利用年数や採用デバイスはグループ会社の裁量で自由に決定