セコムのアプリがスマートロックを解錠し、歩数をカウントする理由|MacFan

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セコムのアプリがスマートロックを解錠し、歩数をカウントする理由

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

「ホームセキュリティ」という言葉は、実は業界の第一人者であるセコムが、約40年前に生み出した造語だ。この言葉が普及し、家を守るサービスが当たり前になった昨今、同社はさまざまな取り組みに注力している。既存のサービスをより便利にするIoTだけでなく、もっと広い意義のものまで–その真意を問うた。

 

 

「歩数」も見守り

あのセコムが利用者の「歩数」を見守っているという。iPhoneやアップルウォッチ(Apple Watch)と連係し、ヘルスケアのデータを利用。「今月の歩数が27万歩達成しました」「この調子で定期的な運動を継続していきましょう」などとユーザを励ましているのだ。

猫も杓子もヘルスケア|そう合点するのは早計だ。今や社名やサービス名が「防犯」の代名詞となり、国民的なサービスであるセコム。同社がヘルスケア領域に乗り出すには、もちろん理由がある。

同社の主力商品の一つである「ホームセキュリティ」のスマートフォンアプリ、およびiPhoneやアップルウォッチ専用として提供される「SECOM カンタービレ」アプリの概要や開発の経緯について、担当の山田明弥氏に話を聞いた。

意義がすぐにはわかりにくい取り組みは、防犯が当たり前になった社会において、セキュリティのリーディングカンパニーとしての責任感の表れでもあった。

 

セコム株式会社は、1962年に日本ではじめての警備保障会社として創業。「あらゆる不安のない社会の実現」を社会的使命とし、「社会にとってよりよいサービスを創り上げたい」という強い想いを持って、社会に信頼される確かな安心を提供する。

 

 

セコム株式会社のホームマーケット営業本部・パーソナルマーケット推進室主任の山田明弥氏。「SECOMカンタービレ」アプリの主要開発メンバーとして活躍。

 

 

財産から生命まで

今ではすっかり一般化した「ホームセキュリティ」という言葉。商店や銀行ではなく、家庭にセンサや防犯カメラを設置し、通報があれば現場に急行するようなサービスは、かつて当たり前のものではなかった。そもそも、この言葉自体、1981年にセコムが家庭を対象に販売を開始したオンラインセキュリティシステムを指す造語。 ​​市場自体を創り出し、同社によれば現在約150万件の家庭に導入されているという。

超高齢化が進む日本社会に対応するように、現在はオプションサービスの「安否みまもりサービス」も人気だ。離れて暮らす家族などについて、一定時間、家の中で人の動きが検知されないと、異常信号がセコム側に送信される。同じくオプションには、急病時などに救急信号を送信するサービスや、ガス漏れを監視するサービスもある。

近年は「セコムメディカルサポートセンター」の看護師に電話で24時間の健康相談ができるサービスも展開する。また、本連載でも過去に取り上げたように、訪問看護サービスや訪問介護サービスを展開するセコム医療システム株式会社を子会社に持つ。

こうして、セコムは1980年代以降、私たちの財産だけでなく、生命も見守る企業として、社会に浸透してきたと言えるだろう。「ホーム」という場をある種のプラットフォームとし、安全・安心を軸にさまざまなサービスを、地続きに提供してきている。

さらに、その形は時代に合わせ、より便利に進化している。利用者宅には侵入を検知する空間センサや煙センサ、非常ボタンといった機器を司るコントローラが設置されるが、その操作をスマホから可能にする「SECOMホームセキュリティ(Home Security)」アプリを配信。「セコムをしたか」が気になったときなど、状況を確認したり、セキュリティの警戒や解除操作などをしたりできる。カメラの映像をスマホで確認したり、家族の帰宅をプッシュ通知したりすることも可能。

前述した「安否みまもりサービス」を契約のうえ、「いつでもみまもり」アプリを利用すると、離れて暮らす家族の活動量や室内の温湿度までスマホで確認することができる。

最近では、「SECOMホームセキュリティ」アプリとは別にiPhoneおよびアップルウォッチ専用アプリ「SECOM カンタービレ」を発表。このアプリではアップルウォッチでもホームセキュリティを操作できるほか、自宅と一定の距離になるとセキュリティのセットや解除操作を促したり、スマートロック「キュリオロック(Qrio Lock)」とアプリ連係し、これを操作したりできる。鍵やスマートフォンの取り出しも不要になり、従来のセコムの体験をより便利にするためのものと言えるだろう。

 

情緒的価値の創造

こうしたサービスは、これまでのセコムと地続きだからこそ、わかりやすくもある。意外なのが「SECOMカンタービレ」アプリが備える、冒頭で紹介した「歩数のカウント」などの機能だ。iOSの「ヘルスケア」と連係し、ほかにも睡眠レポートなど、セコムから健康をサポートするメッセージが届くのだ。

また、歩数などの目標を達成し、アプリで集めたポイントで、アプリのホーム画面内に建てられた「家」を自分の好みにカスタマイズする機能もある。言うなれば「家を育てる」ゲームであり、健康的な行動を促すゲーミフィケーションを取り入れていると見ることもできる。こうなってくると、セコムがなぜ、こうした事業を行うのか、判然としない。軸が「ホーム」というプラットフォームから、個々の「人」に移っているようにも感じられる。

その理由を、山田氏は「便利かどうかだけにこだわると『機能の多いリモコン』になってしまうから」と説明する。

セコム自身の手によって、ホームセキュリティは社会に浸透した。こうした場合、ともするとどうしても既存サービスにオプションをつけてより便利に、という方向を目指すが、それが行き着く先では、かえってサービスが過多となり魅力を失うということがあり得る。今必要なのは「お客様一人ひとりの多様化するニーズに応えること」だと山田氏は話す。

そこで今、セコムが主力商品の開発と並行して注力するのは、「うれしい」「楽しい」「心地よい」といった情緒的価値の創造、そしてそれによる新しい市場の開拓とユーザ体験の向上だ。その取り組みの一環で、セコムは「オープンイノベーション」として、他社と積極的な協業をして、これまでのセコムにないサービスを提供している。スマートロックは協業成果の一つだが、より意外なものもある。

たとえばソニー株式会社の自律型エンタテインメントロボット「アイボ(aibo)」だ。ソフトウェアAPI​​を活用した「aiboのおまわりさん」と「SECOMホームセキュリティ」アプリ​​と連係することで、アイボが“番犬”として特別な振る舞いをするようになる、というもの。外出時、セキュリティをセットすると「アイボ」が遠吠えをして楽しくお見送りをしてくれる。童謡「犬のおまわりさん」のメロディが流れたり、家族の様子を確認できた場合に、敬礼のポーズをしたりする仕様も取り入れられた。

アイボが番犬になることやアップルウォッチを連係することで、これまでセコムの利用を考えていなかった層にリーチしたり、それ自体の体験を求める利用者が増えることもあるだろう。

一方で、人々の安全・安心を守るという事業をする以上、手をこまねいて縮小を受け入れるわけにはいかない。時代の変化とともに、高齢者や若者が求める安全も変化していき、セキュリティサービスも多様なニーズへの対応が求められる。セコムのユニークな取り組みは、こうした未来への責任感が、世の中にイノベーションをもたらすことの証左であると言えるだろう。

 

 

離れて暮らす家族とのつながりを感じる「いつでもみまもり」アプリ。セコムのセンサが検知したデータをもとに、家族の様子を多彩なアニメーションで緩やかに伝える。生活リズムをグラフで表示する、温湿度センサにより測定した室内の温度と湿度をグラフで表示するなどの機能がある。​

 

 

SECOM カンタービレ

【開発】SECOM Co.,Ltd.
【価格】無料
【場所】App Store>ライフスタイル

Apple WatchやiPhoneで「セコム・ホームセキュリティ」を使用できる「SECOMカンタービレ」アプリ。このアプリからの通知によりApple Watchをタップするだけでセコム・ホームセキュリティの警戒・解除の操作が可能。iPhoneアプリでも操作でき、操作キーを持つ必要がなくなる。​​

 

 

「SECOM カンタービレ」の健康レポート画面には、その日の消費カロリーや歩数、昨日の睡眠時間、最後に測定された血液中の酸素レベルが表示される。なお、セコムのある毎日で「歌うように」「滑らかに」ライフスタイルを向上させるという意味で「SECOMカンタービレ」と命名された。

 

 

「SECOM カンタービレ」のココがすごい!

□ セコムの各種センサをコントロールするシステムをスマホで操作
□ スマートロックアプリと連係し、Apple Watchからも操作可能
□ 従来のセコムにない路線をあえて開拓、多様なニーズを受け止める