大きな潮目の変化と備え|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

大きな潮目の変化と備え

文●松村太郎

iPhoneには「スクリーンタイム」という機能が搭載されていて、どのアプリをどれだけの時間使用したかという統計情報をユーザに提供してくれます。私はこの夏休みの数日間に、デジタルデバイスにまったく触らない日や時間を作る│いわゆる「デジタルデトックス」に取り組み、iPhoneの使用時間を前の週と比較して83%も減らすことができました。

ただ、普段から接する機会のある大学生に聞けば、「スマホを生活から取り除くことなんてあり得ない」と言います。それはスマホ依存症でも何でもなく、もともとスマホを基盤に生活が成り立っているからであり、つまり「デジタルデトックス」ができる時点で、彼らとの世代の差を痛感せざるを得ませんでした。

引き続きスマホは生活の中心になりますが、iPodの機能がアプリ化してiPhoneに備わったように、iPhoneの役割の大半も、将来は何か別のデバイスに内包される可能性だってあります。そのもっとも有望な候補は今のところ「アップルウォッチ(Apple Watch)」でしょうが、そうなるのはまだ先の話になりそうです。

スマートフォン市場は向こう5年間にわたり、5Gへの移行で買い替え需要が旺盛です。iPhoneもその波に乗りつつ、シェア拡大を模索しています。直近の決算発表でもアンドロイドからの乗り換えは2桁成長が続いていると伝えられました。このように盤石に見えるiPhoneのビジネスですが、気がかりなのが「製造」における問題です。

アップルは毎年、約2億台近くのスマートフォンを製造/販売してきました。原料の調達からユーザの手元に届くまで精密に設計されたサプライチェーンは、中国を中心に組み立てられています。

しかし、2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大によって半導体を中心に調達が難しくなったこと、またウクライナ紛争によってバッテリの素材となるニッケルが高騰したことなどが大きく製造に影響を与えているのです。

そうした中で、さらなる地政学リスクも起きています。米国下院議長の台湾訪問をきっかけとした中国との緊張です。これはアップルのサプライチェーンに直接打撃を与えるリスクとなります。たとえばデバイスの心臓部であるアップルシリコンは今、台湾のTSMCで製造し、それを中国に運んで組み立てています。台湾製の物品を中国へ運べないという制限がかかった場合、iPhoneやMac、iPadと入った主要製品が出来上がらなくなり、デバイスからの収益を大きく毀損することになるのです。

iPhoneを組み立てている製造会社の御三家としては「フォックスコン(Foxconn)」「ペガトロン(Pegatron)」「ウィストロン(Wistron)」が挙げられますが、彼らは2020年からインドへの投資を増しており、製造の分散化に手を付け始めていました。それと同時に部品の調達についても、米国や日本などの割合を増やすなど、中国依存を和らげる努力をしています。

特に米国向けには先端製造業ファンドを通じて、iPhoneなどの製品が競争差別化可能となる高付加価値の材料・パーツの調達をリスクの低い米国に求める準備をしてきました。さらに、製品回収と素材のリサイクルを進め、クローズドサイクルの実現を目指しているのは環境施策だけでなく、資源調達が難しくなることへの備えなのだと考えられます。

アップルはこうした転換を、コロナ以前の5年以上前から取り組んできました。それでも追いつかないほどに、世界情勢は大きく、そして素早く変化しているのです。

 

Appleシリコンは台湾のTSMCで製造されています。国際情勢の変化によって、Apple製品の“心臓部“の製造に大きな影響を及ぼすでしょう。【URL】https://www.tsmc.com/japanese

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。