iPadだからできる「つながり」と「表現」を活かした唯一無二の国語授業|MacFan

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iPadだからできる「つながり」と「表現」を活かした唯一無二の国語授業

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

大阪府にある関西大学初等部は、日本で10校しかない「Apple Distinguished School」の認定を受けている。同校の国語科教員として、iPadを活用し子どもたちの創造力を引き出す金本竜一教諭は、もともとテクノロジーに疎かったという。ロールモデルとなる同僚との出会い、iPadの可能性に触れたことで進化した金本教諭の実践に迫る。

 

 

ADEが5名在籍する小学校

大阪府高槻市にある関西大学初等部は、アップルが考える革新的な教育機関「ADS(Apple Distinguished School)」の認定を受けている。アップル製品・サービスを先進的に活用し、教職員がiPadやMacに成熟していることなど、ADSの認定にはいくつか条件があり、日本の認定校は10校と限られている。

加えて同校は、アップルから認定を受けた教員「ADE(Apple Distinguished Educator)」が5名在籍している稀有な小学校だ。児童の端末は共有iPadからスタートし、2020年度より各家庭に購入してもらい1人1台環境を整備した。同校のADEの1人である金本竜一教諭は、共有iPadから1人1台に変わったことで、子どもたちの学習環境に大きな変化があったと語る。

「共有iPadは、あくまで学校のものという認識ですよね。それが自分の持ち物になったことで、iPadを文房具のような学習ツールの1つとして子どもたちが認識したように思います。また低学年は学習のサポートを保護者に協力してもらうことが多いのですが、保護者との連携にiPadが大いに機能しました。たとえば私が担当する国語科では、宿題として本読みの様子を動画で撮影し提出してもらっています。このような宿題も共有iPadではなく、所有のiPadだからこそ実現したことです」

今でこそアップル製品を教育現場で活用している金本教諭だが、同校に赴任するまでiPhoneすら使ったことのないアナログ派だったというから驚きだ。

「アップル製品が中心となっている学校に、iPhoneすら知らない人間がきて、今ではADEの認定を受けている。その変化に自分でも驚いています(笑)。そうなったのは、同僚の先生方の存在が大きかったと思います。それまでの私は、協働的な学びに価値をおく21世紀型スキルの育成に変革していく必要性は感じていたものの、自分の中でそれを推進する道具も手立ても持ち合わせていませんでした。しかし、同僚の先進的な取り組みに触れ、意識が変化していきました」

金本教諭は高知県の中高一貫校で国語科教諭として勤務したあと、奈良県の小学校を経て同校に赴任。それまではICT教育に取り組んだことがなかったそうだ。先進的な実践を行う同僚に感化され、担当の国語科の授業からiPadの活用を始めた金本教諭の実践を加速させたのは、iPadを直感的に使いこなす子どもたちの姿だった。

「大人が教えなくても子どもたちが自然にiPadを使いこなしている姿に、私が子どもたちの可能性を勝手に狭めていたのだと気づかされました。中学校で国語を教えていた頃は、いかに丁寧に生徒に説明するか、それだけだったのですが、今は創造的かつ協働的な国語の授業を目指しています」

 

金本竜一教諭

関西大学初等部教諭。高知県の中高一貫校で国語科教諭として勤務した後、奈良県の小学校を経て、関西大学初等部に赴任し8年目。国語科を担当。Apple Distinguished Educator 2019。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

学びが教室を越えていく

同校は、教科ごとに専門の教員が指導する教科担任制を小学1年生から採用している。全国的にも珍しい取り組みだ。金本教諭は、国語科の教員としてさまざまな学年で実践を行ってきた。

「子どもたちに本を読む習慣をつけてもらうために、国語科では定期的に読書の宿題を出していました。これまではどうしても、本を読むことが孤独な学びになっていましたが、子どもたちの感想をiPad上に共有することで、保護者の方にもコメントを入れていただくことができ、子ども・保護者・教員が空間を越えてつながり、一緒に読書を楽しむことができるようになりました。学びが教室を越えていく感覚を味わえたのは、iPadだからこそだと思います」

学びが教室を越えていく取り組みは、ほかにもある。小学5年生の俳句の授業では、オリジナルの俳句を作り、デジタルカードとして表現した。さらにデジタルカードをアルバムに共有し、それぞれの俳句に対して、フィードバックコメントを入力し合うことで交流を図った。

6年生の道徳の授業では、「なりたい自分」についてキーノート(Keynote)のスライド1枚にまとめた。それで終わりではなく、キーノートを全員で共有することで、互いの「なりたい自分」に対して、吹き出しでメッセージを送り合ったのだ。

「あたたかい応援メッセージに溢れたスライドを見て、子どもたちは『お守り』を手に入れたように、とてもうれしそうでした。場所も時間も選ばずに学ぶことのできるiPadは、今の私の授業作りの武器になっています。この取り組みでいえば、こちらの準備はキーノートで真っ白のスライドを人数分用意し共有するだけなので、教員側の授業準備の負担も短縮され、仕事の効率も上がりました」

 

つながりと表現のツール

つながりを生み出すツールとしてiPadに可能性を感じている金本教諭だが、表現の幅を広げるツールとしても活用している。たとえば小学6年生の短歌を作る単元では、短歌ムービーの制作を行った。

「これまでの学びでは、短歌を作って書いて貼り出すのが一連の流れでした。ところがICTを活用することで、短歌を作って読み上げて動画にまとめることができ、表現の幅を広げられるのです。たとえば、寂しげな短歌であれば自分の声の調子を工夫したり、背景にどのような写真やイラストを用意するかを考えたりしていきます。そうすることで、オリジナルの短歌を創作する際に、思考するだけでなく、どのようなアウトプットにするかを思考することにもなり、子どもたちの思考力が育まれる機会が増えました」

アウトプットの方法を子どもたちに委ねることで、想像を超える作品も多く生まれているそうだ。小学5年生の言葉の種類を学ぶ単元では、和語・漢語・外来語の違いをクイズにする実践を行った。すると、キーノートのアニメーション機能をうまく使い、大人顔負けのゲームを作った児童もいたという。子どもたちのクリエイティビティを引き出す授業作りを続ける金本教諭だが、これからはもっとダイナミックに子どもたちの学びのサポートをしていきたいと語る。

「これからは、教科書を教えていく学びから、探究的学習の中で各教科を学ぶ形に転換していくと思います。たとえば、探究する題材は子どもたちの中から生まれて、その題材を深めていくときに誰かにインタビューする必要が出てきたら、国語の授業でインタビューの仕方を学んだり、文献の読み方を学ぶのです。小学生は特に先生に言われたことよりも、自分で気づいた学びのほうが、当然自分のものとして蓄積されていきます。そういう仕掛けをどう作っていくかが、これからの授業作りにおいて大切な視点になります。だから、ICTの活用においても、国語という教科の中でICTをどう使うかではなく、探究的な学びをアシストするツールとして、時に文房具のように、時に表現ツールとして活用されていくものだと思います。これからもダイナミックな視点で、子どもたちの学びを支えていきたいです」

 

関西大学初等部では、iPadを入学時に購入してもらうことで1人1台環境を実現。キーボードやペンシルは任意としている。

 

 

和語・漢語・外来語の違いをクイズにする小学5年生の実践。Keynoteのアニメーション機能を駆使し、大人顔負けのゲームを作る児童も。

 

 

小学5年生の俳句の授業では、オリジナルの俳句をデジタルカードに表現。アルバムに共有し、それぞれの俳句に対して、フィードバックコメントを入力し合い、交流を図った。

 

 

6年生の道徳の授業では、お互いの「なりたい自分」に対して、吹き出しでメッセージを送り合った。児童同士のあたたかい応援メッセージが並ぶ。

 

 

iPadは「つながりを生み出すツール」と語る金本教諭。それぞれの作品に対して、フィードバックし合うことで、メタ認知の効果も期待できる。

 

金本竜一教諭のココがすごい!

□ iPhoneすら使ったことがない状況から、ADEの認定を受けるまでに至った
□ 国語×iPadで創造的かつ協働的な学びを作り続けている
□ 子ども・保護者・教員をつなぎ、教室を越えた学びを実践している