freeeが1700名規模でのCYODを成功させた3つのカギ|MacFan

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freeeが1700名規模でのCYODを成功させた3つのカギ

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

freee株式会社では、従業員が業務で利用するデバイスを選択できるCYOD(Choose Your Own Device)を導入している。従業員はMac/Windows/Chromebookを選択できるが、デバイス管理部門の手間が増えるのは必至だろう。このような状況をfreeeはどう乗り越えたのか。CYODを成功させる秘訣を聞いた。

 

 

CYODを大規模な人数で導入

決算処理などを行えるクラウド会計ソフト「フリー会計(freee会計)」をはじめとしたサービスを展開するフリー株式会社(以下、フリー)では、業務用デバイスを従業員自らが選択できるCYOD(Choose Your Own Device)制度を導入している。デバイスの配付対象は従業員と業務委託先を合わせて約1700人で、800台のMac、700台のウインドウズ(Windows)PC、200台のクロームブック(Chromebook)を配付している。

デバイスを利用する従業員目線で見た場合、CYODは理想的な制度だ。使い慣れたデバイスを選択することで業務習熟までの時間が圧倒的に短くなり、業務上の不必要なストレスも軽減される。しかし、問題は各種デバイスを管理する部門の手間だ。Macとウインドウズだけでも担当者の手間は二重になるため、多くの管理者は「CYODが従業員の生産性を上げることは百も承知だが、実現は難しい」と考えているだろう。フリーの場合は、この課題を3つのポイントで賢く解決している。

 

キッティング作業の自動化

デバイス管理を行うMDM(Mobile Device Management)ツールとして、フリーではMacに「Jamfプロ(Pro)」、ウインドウズに「アクティブ・ディレクトリ(Active Directory)」と「グーグル・ワークスペース(Google Workspace)」、クロームブックに「グーグル・ワークスペース」を導入している。管理は相当な手間だと思いきや、CYOD関連業務を担当する同社のコーポレートIT・信本浩貴氏によると「大変なのは実は最初だけで、そこさえやりきってしまえば日常的な管理の負担はさほど大きくないんです」ということだ。

その理由は「キッティング作業の自動化」だ。管理ツールごとに従業員アカウントのリストやインストールするソフトなどを設定する必要があるものの、この作業を一度行っておけば、デバイスの開封から従業員アカウントの設定、必要なソフトのインストールは自動化できる。管理担当者はデバイス起動後にソフトのインストール完了を待ち、最後に問題がないか確認するだけで作業は完了。信本氏が言うように、自動化構築にのみ負担が発生する形になる。

 

クラウドツールの積極採用

しかし、MDMツールそれぞれの設定という手間を受け入れてまで、フリーがCYODを採用する理由はどこにあるだろうか。これに対し、コーポレートIT部門の宮本大地氏は「これには弊社の昔からの文化が大きく影響していて、創業メンバーは初期から自分の好きなデバイスを使っていました。従業員にはエンジニアが多いため開発環境が構築しやすいMacを選択できるのは必須ですし、実際にMacを選ぶ場合が多いです」と言う。CYODを導入して快適な環境で業務にあたるという考え方は、フリーでは当たり前の発想なのだ。なお、エンジニア以外の従業員に関しても、Macのほうが手持ちのiPhoneと連係しやすいなどの理由でMacとウインドウズを選ぶ人はほぼ半々になっている。

一方、CYODで問題になりそうなのはソフトの仕様差だ。たとえば、OSごとに「エクセル(Excel)」ソフトの仕様は異なるため、デバイスによってはデータ表示が崩れてしまうなどのトラブルが予想できる。しかし、フリーではグーグル・ワークスペース(Google Workspace)を業務ツールに採用しているため、OSやデバイスに依存しない環境が整っている。社外とのやりとりが多い従業員には「マイクロソフト365(Microsoft 365)」を別途配付をしているため、CYOD導入による社内外のトラブルは特段起こらないそうだ。また、このようなクラウドツールを積極的に利用する環境のおかげで、デバイスの内蔵ストレージに初期インストールされるソフトはきわめて少なく、所属部署によって必要な数種類やセキュリティソフトに限られている。

 

ローカルデータを自動削除

さらに、フリーではソフトに加えてストレージもクラウド化を進めている。書類や社外から受け取ったデータはデバイスの内蔵ストレージに保存せず、必ず「グーグル・ドライブ(Google Drive)」に保存しているという。しかも、デバイスをシャットダウンすると内蔵ストレージ内のデータは自動的に削除されるという徹底ぶりだ。この「内蔵ストレージにデータを残さない」という方針は、単純に内蔵ストレージの容量を圧迫せずデバイスを快適に使えるというだけの話ではない。これ以外にも数多くのメリットがあり、フリーがCYODを成功させた鍵もここにある。

もっとも大きいメリットとして挙げられるのは、万が一デバイスを紛失してもデータの流出を避けやすいこと。内蔵ストレージにデータが何も入っていないのだから流出のしようがないのだ。加えて、必要とされるデバイスの処理能力は部署によってさまざまだが、ストレージ容量は最小構成でよく導入コストも下げることができるほか、故障時などのデバイス交換も非常に楽という点も大きいメリットだ。デバイスを交換した場合でも、従業員それぞれのアカウントでクラウドツールにログインするだけで、それまで使っていた環境が即座に構築できる。そのほかには、管理上のルール構築や扱いが悩ましいUSBメモリやポータブルストレージといった記憶媒体の使用を避けられることもメリットだろう。

 

成長後の未来に先回りで対応

同社のコーポレートIT部門は、6人のエンジニアと5人のヘルプデスク担当という計11人で構成されている。エンジニア6人はそれぞれMac、ウインドウズPCなどデバイスで担当を分けているのではなく、全員がすべてを管理できる体制を目指している。

「フリーはいまだに成長を続けていて、今でも従業員数が増え続けています。今後は自動化をさらに進めていき、従業員数3000人くらいまでは今の11人体制で進めようと考えています。CYOD以外には、企業合併(M&A)時のシステム統合や海外拠点のインフラ構築も私たちの仕事です。特にM&Aによる合併は社内でも秘密事項で、私たちが知るのはM&Aが成立したあとという場合も多いんです。どのような企業とのM&Aであっても、短期間で対応できる仕組みを構築しようと挑戦しています」(宮本氏)。

社内のプロジェクトとして承認されているわけではないが、コーポレートIT部門では「CYODに関するノウハウを外販できないか」と話しているという。フリーで展開するサービスのひとつに、顧客のデバイス管理支援が含まれる可能性があるのは興味深いことだ。ゆくゆくはMDMツールやクラウドツールのベンダー、もしくはITコンサルタントに近い事業などに発展していき、現在のクラウド会計サービスなどと合わせて最適な提案を行えたらとても面白そうだ。

ここまで見てきたように、同社のコーポレートIT部門は“現状に対応する”という発想で動いているわけではない。CYODに関してトラブルが発生しそうな点はキッティングの自動化や業務ツールのクラウド化で先回りして回避しているほか、フリーの成長や事業拡大を見越している点も含めて“未来に対応する”という視点を持っている。コーポレートIT部門として何をすべきか逆算して業務に臨んでおり、この考え方こそが大規模なCYODを可能にしているのだ。

 

 

同社のコーポレートIT部門に所属する信本浩貴さん(左)と宮本大地さん(右)。CYODで大変なのは最初の自動化構築作業だけで、それが完了した今では負担を感じることは少ないそうだ。

 

 

同社で配付されるMacBookのデスクトップ画面。「Google Workspace」をはじめとしたクラウドツールを導入しているため、初期セットアップ時にインストールされるソフトはごくわずかなものに限られる。

 

 

同社は個人事業者向けのクラウド会計ソフト「freee会計」からサービスをスタートし、今では給与計算などの関連業務分野もカバーしている。現在でも成長が続いており、従業員はかなりのペースで増え続けているそうだ。 【URL】https://www.freee.co.jp/

 

 

freee本社の業務スペース。大幅にリモートワークも取り入れられており、現在はオフィスのあり方を再定義している最中だ。同社のコーポレートIT部門でも、働き方に合わせたCYODやITインフラ整備の重要度が高まっていることを実感しているという。

 

freeeのココがすごい!

□大規模なCYOD実現のために、キッティング作業を自動化
□業務にクラウドツールを導入し、ダウンロードするソフト数を削減
□オンラインストレージの活用により、デバイスに依存しない環境を構築