3年ぶりに見た サンノゼの衝撃|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

3年ぶりに見た サンノゼの衝撃

文●松村太郎

アップルが現地時間6月6日から1週間に渡って開催した「WWDC(世界開発者会議)22」は、直近2年間で続けてきたオンラインでのセッションやコミュニケーションを核とする、いわゆるバーチャル開催を踏襲しつつも、開発者と報道陣を合わせて1000人規模を本社アップルパーク(Apple Park)に招くことでリアル要素を取り入れる“ハイブリッド開催”となりました。

開発者はWWDC初日の基調講演やプラットフォームの概要説明といったプログラムの参加はもちろん、その前日にデベロッパーセンターへの訪問、翌日には役員出席のポッドキャスト収録が盛り込まれるなど、開発者の生の反応を見たいというアップルの狙いを感じました。

その証拠に、新しいMacBookエアのタッチアンドトライ会場にいたアップルのフェローであるフィル・シラーは、「今回のイベントの印象、どうだった?」と聞いてきました。製品のグローバルマーケティングという立場から、イベントや顧客との関係性を担当する役割に変わり、特に開発者を含む参加者がイベントをどう感じたのかが今回のWWDCにおける最大の関心事だったのでしょう。

今回のイベントで興味深かった点は、開発者や報道陣をアップルパークの主たる建物である巨大な「ループ・ビルディング」に招き入れたこと。これは2017年のオープン以来はじめてでした。通常の発表イベントは、専用施設であるスティーブ・ジョブズ・シアター(Steve Jobs Theater)で行うのが常でしたが、1000人収容のホールであるものの室内であり、コロナ禍でなかなか人を招き入れるにはリスクが高いと判断したのだと推測します。

そこで今回は、4階分の吹き抜け、かつ数十メートルもの巨大な壁面を解放できる社員食堂「カフェMac(Cafe Mac)」を活用し、半屋内・半屋外のような空間で1000人規模のイベント開催にこぎつけました。本来は気候の良いカリフォルニアを存分に楽しめる飲食空間を提供するための設計ですが、感染症対策に気を配るイベントとの相性が抜群だったのです。

アップルパークの施設の懐の深さを感じる一方で、ショックだったのはサンノゼの街でした。定宿だったサンノゼ中心部でもっとも規模が大きいホテルは倒産して2年間閉鎖され、ホテルチェーン大手のヒルトン傘下に入ってやっと2022年春に再開業したばかりだといいます。そのエリアにあった飲食店やスーパーマーケット、無印良品などの店舗もすべて閉店し、誰も人が歩いていない廃墟の中を、ピカピカに磨かれた路面電車が寂しく走る風景が広がっていたのです。

日本からすれば、「米国は給与も物価も上昇し、日本と対照的に景気が良い」という見方が強いでしょう。そうした好況を牽引するテクノロジー企業のお膝元シリコンバレーの最大都市が廃墟になっていることなんて想像すらしていませんでした。少なくとも、筆者が米国で過ごした8年間に、そんな光景を目にしたことはなく、衝撃も大きかったのです。

賃金と家賃の高騰に加え、新しい生活様式で人々が街に出なくなったことで、店舗を維持することが不可能になったのでしょう。より新型コロナウイルスの感染影響が強い米国の都市においては、人々の生活が街から家へ、あらゆる活動と消費がリアルからオンラインへとシフトしているのだと思い知らされました。

世界中に影響を与えた新型コロナウイルスのパンデミック。世界はすでに新たな動きがあり、日本もより大きなショックに備えておくべきかもしれません。

 

WWDC22の基調講演は、オンライン配信に加え、一部の開発者や報道陣を招いて現地パブリックビューイングが行われました。Apple Park内の会場はさながら「野外フェス」のよう。

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。