授業で部活で欠かせない! 情報科教諭による学習者主体のiPad活用|MacFan

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授業で部活で欠かせない! 情報科教諭による学習者主体のiPad活用

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

「世界に貢献する人」を人材育成像に掲げる札幌日本大学中学校・高等学校は、2019年度より全校生徒にiPadを整備。同校の横尾圭二教諭は、技術科・情報科の教諭としてiPadを活用した学習者主体の授業に取り組んでいる。授業だけでなく部活動でのICT活用を推進する横尾教諭の実践に迫った。

 

 

3つの「教」を拡張

札幌日本大学中学校・高等学校は、2019年度より3年かけてiPadを生徒1人1台、貸与で整備した。非常勤講師含め、すべての教職員にもiPadを貸与し、現在は約1500台のiPadが稼働している。端末整備を推進した横尾圭二教諭は、現在もICT教育部長として、「教室・教材・教師」という3つの「教」を拡張し続けている。

「これまでの学校教育は、教室・教材・教科書の3つの『教』に限定されていました。しかしICT教育は、場所も、教える人も、学ぶ素材も、すべてが無限大です。iPadの一斉導入にあたり、端末やアプリの使い方などのサポートが必要になりますが、短い解説動画を作成して校内で共有し、先生も生徒も必要な情報を自分で見つけて視聴してもらうようにしました。また毎月、ICT教育部として校内報『教育と創造』を発行し、ICTの可能性を教職員に伝えています」

中学の技術科、高校の情報科を担当する横尾教諭は、iPadを活用した学習者主体の授業に取り組んでいる。中学の技術・家庭科の一単元では、「これからの新しい住居、建物を考えよう」をテーマに、現在の住宅の問題を洗い出し、解決策を考え発表するプロジェクト型学習を行った。その際には、プログラミングが体験できるIoTブロック「MESH」と、レゴブロックを使用したという。

高校の情報科の授業では、生物の授業とコラボレーションし、世界の貧困問題を解決する方法を考える授業を実施した。畜産によって排出される温室効果ガスは、乗り物が排出する量よりはるかに多いという現状を伝えたうえで、肉の代替としての大豆に着目。生物の授業で大豆の品種や成分、育て方を調査し、情報の授業で地理情報が取得できるアプリ「ArcGIS Survey123」を用いて、大豆栽培を記録・分析したそうだ。最終的には栽培した大豆で豆腐作りにも挑戦。教科書の内容にとらわれず授業をデザインすると、必然的に他教科と横断した取り組みが増えていくという。

 

横尾圭二教諭

札幌日本大学中学校・高等学校情報科教諭/ICT教育部長。同校にて、中学校技術・高等学校情報・探究、SSH(コンピュータサイエンス分野)を担当。硬式野球部・ロボット部顧問。創造力の拡張プログラムを校内の教員たちと開発中。Apple Distinguished Educator 2019。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

野球部のiPad活用

横尾教諭のiPadを活用した実践は、授業だけに留まらない。ロボット部と野球部、2つの顧問を兼任している横尾教諭は、野球部のトレーニングやミーティングにもICTを取り入れている。

「これまでトレーニングの積み重ねによって高めていた選球眼や、走塁や守備における判断力を、自立学習型能力開発プラットフォーム『テラス(TERRACE)』を活用して鍛えられるようにしました。昼休みの隙間時間を活用してパフォーマンスを高めることで、全体の練習時間を削減でき、個別課題のための練習時間を創出できるのです。特別な装置や移動を必要とせず、隙間時間を効率的かつ持続的に行える点が役立っています」

甲子園を目指す同校野球部には約80名の部員が在籍しており、新型コロナウイルスの感染予防の観点から、練習後のミーティングをオンラインに切り替え、どこにいても参加できるようにした。オンラインミーティングは「三密」を回避できるだけでなく、部員一人ひとりが自身の意見や感想を書き込み、共有できるメリットもある。トレーニング中に欠かせない「1、2、3」という掛け声も、iPadに収録した音声で代替しているそうだ。授業だけでなく、課外活動にもiPadは欠かせない。

横尾教諭の実践に共通しているのは、学習者主体の学びを主軸に実践をデザインしていることだ。その転機となったのは、前任校の教頭先生の一言だった。

「28歳の頃、僕の情報の授業を見学した教頭先生に、『横尾さん、生徒の顔を見てごらん。ただやらされているだけだよ』と言われて、ショックを受けたんです。当時は教員の仕事にも慣れてきて、自分の型ができ始めていた頃ですかね。そんなときに指摘された一言に、これではいけないと奮起したのを覚えています。私たち教員も『どのように授業を組み立てるか』という授業デザインが、これまで以上に問われているのだと感じています。アイデアを出し、人脈と情報を駆使して、授業を作る必要があるでしょう」

現在は、掲示板アプリ「パドレット(Padlet)」を活用して、宿題や提出物、時間割を一覧で「見える化」し、保護者とつながるツールとして運用を始めている。情報が一元化されているため、保護者からも好評だという。

 

教育を語るコミュニティを育成

横尾教諭は、前任校でのiPadを活用した実践が評価され、2019年にADE(Apple Distinguished Educator)の認定を受けた。

「ADEの先生の中に、教科書の内容だけを教えている人はいません。教科書の外にある知識や出会い、創造的な学びを提供している人しかいないんです。オーストラリアで開催されたADEインスティテュート(研修会)に参加した際も、世界各国から300人ほどの先生方が集まり、言語もさまざまでしたが、深夜までポジティブに教育について語り合いました。それは、日本のADEの先生方との集まりでも同様の状況が起こります。ADEのコミュニティの熱量に衝撃を受け、札幌でもADEのような素敵なコミュニティを育てたいと思い、札幌のICTに興味のある先生方とともに勉強会や、教育をポジティブに語る場を作っているんです」

現在、約30名の札幌市近郊の先生がコミュニティに参加し、コミュニケーションツール「スラック(Slack)」を活用しながら、皆でICTを軸に活発に学び合っているという。

情報科の教諭である横尾教諭だが、ICTへの興味はここ数年で一気に高まったと語る。

「iPadの性能向上やスウィフト・プレイグラウンズ(Swift Playgrounds)などの登場により、プログラミングや動画編集、アプリ開発のハードルがグンと下がりました。iPadが1台あれば、生徒のクリエイティビティが開放され、可能性が無限に広がります。教室でも自宅でも、場所を選ばずに取り組むことができる。今まで何だったの?というくらい開発が簡単になり、教員の授業準備の手間や、レクチャーに費やす時間も短縮できました。これは僕の中では衝撃的で、革命的な出来事だと思っています」

今年度は「地球の裏側の人が抱える問題を解決するアプリを作ろう」をテーマに、アプリ開発の授業を実践予定だ。そして、生徒が作ったアプリをアップストア(App Store)に申請してみたいと横尾教諭は意気込んでいる。

 

中学の技術・家庭科の授業では「これからの新しい住居、建物を考えよう」をテーマに、現在の住宅の問題を洗い出し、解決策を考え発表するプロジェクト型学習を実施。IoTブロック「MESH」とレゴブロックを使用した。

 

 

高校の情報の授業では、生物と家庭科の授業とコラボレーションし、大豆の理解から栽培の記録、分析、豆腐作りに挑戦。大豆の苗や根の生育状態を記録し、アプリで管理した。

 

 

横尾教諭が部長を務めるICT教育部では校内報「教育と創造」を毎月発行している。それ以外にも、端末やアプリの使い方をサポートするため、短い解説動画を共有するなど工夫している。

 

 

野球部のミーティングは、コロナをきっかけにオンラインに移行。「三密」を避けることができるだけでなく、生徒一人ひとりの声を拾うことができるようになったという。

 

 

掲示板アプリ「Padlet」を活用して、宿題や提出物、時間割を一覧で「見える化」し、保護者と共有。クラス内の連絡ツールとしても活用している。

 

横尾圭二教諭のココがすごい!

□ 教科を横断した学習者主体の授業をデザインし続けている
□ 野球部とロボット部の顧問を兼任し、部活動にもICTを活用している
□ 札幌近郊でICTに興味を持つ教職員のコミュニティを運営している