モビリティの「高級化」と電気自動車の勝機|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

モビリティの「高級化」と電気自動車の勝機

文●松村太郎

「モビリティ(mobility)」は、移動性、流動性、可動性、動きやすさなどを意味します。抽象的なため、さまざまな場面で使われる言葉ではありますが、主に交通手段や移動手段に関する事象を呼ぶことが多いです。そんなモビリティに関する感覚の変化を、ここ数年で感じることがあります。

たとえば、私が専任教員を務めるiU(情報経営イノベーション専門職大学)でのこと。新型コロナウイルスの感染拡大などを受けて、大学の授業に遠隔で参加したいという学生からの要望がありました。教室で行われる対面授業の場合、従来であれば教室にいなければ出席とはなりません。しかし今では、画面越しであれ、積極的に議論に貢献し存在感を発揮する学生をとても「欠席」とは判断できませんよね。

新型コロナの感染拡大に対する行動制限の要請によって、人々は移動を伴わないコミュニケーションを強いられました。以前までと勝手が違って不便だと感じることも多々あった一方で、移動を伴わない仕事に「便利だ」「快適だ」と感じた人も少なくないはずです。

企業にとっても移動、すなわち出張などが減少し、大きな経費の節減が進みました。お互い移動したり会ったりすることがリスクとなる状況に陥ったため、オンラインをフォーマルなミーティングの場とするという認識すらも共有できたのです。この感覚の変化はとても重要で、現在議論が進む「メタバース」の普及を数年から5年単位で早めた可能性すらあるのではないでしょうか。

今後、仮想空間でコミュニケーションをとるためのデバイスが低価格化すれば、移動して対面コミュニケーションを獲得することが、より高いコストを伴う「高級な体験」となっていくはずです。こうしたリアルとデジタル、対面とオンラインという今まで「主・従」のような概念で捉えられていたことが、今後逆転していくことは、容易に予想できます。

世界最大級の家電見本市「CES 2022」で注目されたテーマは「モビリティ」でした。世界は今、電気自動車の時代へと一直線。いまだにこの分野では、テスラが世界のトップメーカーですが、国を挙げて電動化を推し進めた中国メーカーが2位以下を占め、既存の巨大自動車企業を先行しています。

筆者が2020年1月に中国・深センに取材で訪れた際、すでに街のタクシーはすべて電気自動車になっていました。中国は日常の移動の電動化を先んじて展開しており、先進国での共通認識である「電気自動車は高い」という概念すら存在していなかったように思えます。

一方で、今年のCESの話題をさらったのはソニーでした。SUVタイプの電気自動車のプロトタイプを登場させ、加えて電気自動車のための会社を設立するなど、その動きを活発化させています。

ソニーの勝機は大いにあります。電気自動車市場は2030年までに、新車販売の半数を超える5000万台規模に成長すると見られており、近年、その成長スピードはさらに早まるとすらも考えられるようになりました。

モビリティにはローンやリース、保険と入った金融商品がつきものですが、ソニーには銀行や保険といったアセットがすでにあります。金融プラットフォームが活用できれば、そのパイはさらに大きくなるでしょう。

さて、かねてから自動車産業へ参入の噂があるアップルにとっても、まだ勝機はあります。電気自動車がコモディティ化する中で、アップルは何を強みに「自動運転車」を創るのでしょうか。私は、そのヒントが、これから花開く「スマートホーム領域」にあると考えています。

 

ソニーは「CES 2022」において、SUVタイプのバッテリEV試作車両「VISION-S 02」を初公開。併せて、新会社「ソニーモビリティ」を設立し、電気自動車の自社展開を検討していくと発表しました。 【URL】https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/202201/22-002/

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。