iPhoneの「ある機能」で心臓病を早期発見するプロジェクト|MacFan

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iPhoneの「ある機能」で心臓病を早期発見するプロジェクト

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

アプリマーケットを賑わすさまざまな「記録」アプリ。特にヘルスケア分野では、まさに百花繚乱の様相を呈している。しかし、中には「途中で面倒になって続かない」人も多くいる。その場合、健康になる恩恵は受けられないのだろうか。そんな人間の性分を前に、「記録」アプリの老舗が今、注力するのは「セルフチェック」。その真意に迫った。

 

 

記録からセルフチェックへ

ヘルスケア業界における株式会社カラダノートと言えば、「妊娠・育児アプリのパイオニア」というイメージが強いかもしれない。

同社は2011年ごろから妊娠・育児​​用のさまざまなアプリを開発・提供している。従来型携帯電話(ガラケー)の割合をスマートフォンがはじめて逆転したのは2015年度であり、当時はまだガラケー全盛の時代。同社によれば、今もなお、妊娠~1歳未満の子どもを持つ親におけるダウンロード率は87%に上るという。

同社に限らず妊娠・育児アプリの主な機能は「記録」だ。陣痛間隔や体重、授乳などを自分で記録する。一方で、長らくこの領域に取り組んできた同社代表の佐藤竜也​​氏は「記録はハードルが高い」と話す。そこで同社は近年、並行して「セルフチェック」に注力しているという。

2021年6月に発表された東京女子医科大学と共同で実施する「心疾患早期発見プロジェクト」もその一環だ。iPhoneなどスマートフォンに搭載されている機能を活用して、心臓病を早期発見するというその試みの狙いを、佐藤氏に尋ねた。

 

2009年に株式会社プラスアールとして創業、2017年に社名変更。記録や共有を中心とする子育て・ヘルスケアアプリを提供し、ユーザの生活環境の効率化を支援。また、家族生活周辺産業にてサービスを展開する事業会社に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を提供するほか、データベースを用いて集めたユーザに対し、適切なタイミングでレコメンド・サービス提案を行い、企業やサービスとのマッチング支援を行う。2020年10月東証マザーズ上場。

 

 

佐藤竜也氏は、慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社フラクタリスト(現ユナイテッド株式会社)にインターン入社。モバイルSEO事業起ち上げに従事し、2008年より事業部長に就任。2009年に株式会社プラスアール(現カラダノート)を起業し、代表取締役に就任。創業以来、モバイルヘルスケア事業を展開し、「well-being」を実現させるヘルスケアサービスの提供を行う。

 

 

マイクと録音機能を活用

共同研究者は東京女子医科大学心臓血管外科学講座教授の新浪博士医師。心臓の弁膜症の手術が専門だ。弁膜症とは、ポンプの役割を果たす心臓の弁の部分が狭窄したり、閉鎖不全になったりする心臓病のこと。新浪医師によれば、大動脈弁狭窄症​​は近年増加傾向にあり、かつ、何らかの症状を発症していながら治療を受けていない患者が約8割にも上ると見込まれている。そんな潜在患者をスクリーニングするため、新浪医師サイドからの声掛けにより、このプロジェクトがスタートしたという。

では、具体的にこうした病気を洗い出すために、スマートフォンには何ができるのか。それがiPhoneにもデフォルトで存在する機能である「マイク」による「録音」だ。

実は、スマートフォンのマイクを胸にしっかりと押し当て、最大音量で録音することで、病気のリスクの判定に必要な心音を拾うことができるのだという。それを録音し、新浪医師らのチームに送り、解析して、心臓弁膜症のスクリーニングを行う。判定基準は「聴取した心雑音を3段階で判定し、弁膜症診断との一致率で評価」​​(佐藤氏)。「新浪医師からマイクによる心音の聴取でスクリーニング評価が可能であると伺っている」とプロジェクトへの自信を覗かせる。

研究の対象者になるのは、同社が提供する血圧の記録管理アプリ「血圧ノート」の利用者のうち、許諾の取れた人。この血圧ノートはまさに、日々の血圧を「記録」するアプリ。利用者には心臓病のリスクが高い高血圧や高齢のユーザもおり、実際に受診が必要と判定された場合には受診勧奨にもつなげる予定だ。

一般的に、記録アプリは「記録すること」自体が負担になり、そもそもの健康意識が高い人しか継続しにくいという課題がある。今回のような「セルフチェック」の機能を加えることで、これまで継続しにくかった層へのアプローチにもつながると考えられる。

 

世界に競合が登場するも…

対象に高齢者を含むことからも、マイクと録音というスマートフォンの基本機能を活かしたことは大事なポイントだと言えよう。現在は、70歳以上の高齢者の半数以上がスマートフォンを所有しているという統計もある。一方で、心臓病の早期発見というプロジェクトの目的に沿うならば、残り半数へのアプローチも必要だ。

佐藤氏は「もともとこのプロジェクトは『家族のつながりにより病気の早期発見ができるのでは』という議論の中で生まれたもの」と説明する。

「スマートフォンを持っていない方でも、その下の世代の家族は端末を持っていることが多く、その端末を使うことはできるはずです。スマートフォンの基本機能、そして家族のつながりで病気を未然に防ぎ、対処ができることが理想です」

現時点で不透明なのは検査精度だが、これはプロジェクトを進めていく中で検証するしかない。その面でも、医療機関と密に連係していることは、実効性の見通しについて一定の担保になる。

世界では今年5月にイギリスのキングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)とオランダのマーストリヒト大学の研究チームがiPhoneを利用して心音を録音できるアプリ「エコーズ(Echoes)」をリリースしている。まさにカラダノートらのプロジェクトが公開される直前のことで驚きもあったとするが、同社らのプロジェクトは最初から医療機関と共同で行っているという点で優位だ。

事業化も視野に入れ「医療機器メーカーや民間保険会社とも相談している」と佐藤氏は明かす。疾患啓発や医療費削減に期待するスポンサーから予算を得つつ「日本全体の医療費削減に貢献できるはず」とその展望を語る。

 

潜在ニーズへのアプローチ

佐藤氏はカラダノートの設立前からSEO(検索エンジン最適化)に強いコンテンツ制作に携わっていた。同社を起ち上げ、佐藤氏自身の父親としての課題感もあって注力した妊娠・育児は、多くの当事者が情報を求めて検索をしたり、アプリをダウンロードする分野だ。ガラケーからスマートフォンへとデバイスが移り変わる中、10年以上に渡り、同社は顕在化したユーザのニーズに応え続けてきたと言える。

そして今、同社はセルフチェックという形で、潜在化するリスクの洗い出しへと舵を切りつつある。これはヘルスケア市場自体の拡がりを考えるうえでも示唆に富んだ戦略だ。課題が顕在していればいるほど、サービスは普及するが、同時に競合も増え、やがてコモディティ化してしまう。しかし、既存サービスで掴んだユーザを起点にその潜在ニーズを深掘りしていくことで、事業を継続しながら社会課題の解決を続けることが可能になるだろう。

 「弊社は『家族の健康を支え笑顔をふやす』をビジョンとして、子育て世代からシニア世代に向けたアプリやサービスを提供しています。東京女子医大様とのプロジェクトは、予防・早期発見分野へサービス提供を開始する第一弾であり、今後もオンラインでのセルフチェック分野を充実させていく予定です」

 

 

ママびより

【開発】Karadanote Inc.
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

母親と赤ちゃんの情報を提供するアプリ。妊娠初期、中期、後期~出産までの体重管理、食事管理、妊娠中の運動、産婦人科医のアドバイスなどを毎日提供する。

 

 

血圧ノート

【開発】Karadanote Inc.
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

血圧の記録管理アプリ。治療ガイドラインに基づく降圧目標値の設定、毎日の体重、体脂肪率、体温、睡眠時間、目覚めの気分、症状などが記録できるほか、iOS標準の「ヘルスケア」アプリとも連動する。

 

 

お薬ノート

【開発】Karadanote Inc.
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

服薬記録の管理アプリ。頓服薬の登録や服薬の記録、服薬時間のアラーム通知などができる。

 

 

「心疾患早期発見プロジェクト」は、スマートフォンに備わるマイクを用いた心音聴取および心雑音解析から、心臓弁膜症のスクリーニングを行う東京女子医科大学​​との共同プロジェクト。聴取した心雑音を3段階で判定し弁膜症診断との一致率を評価​​、医療機関への受診勧奨にもつなげる予定だ。

 

 

カラダノートのココがすごい!

□ スマートフォンのマイクで録音した心音で心臓病のリスクを判定
□ 東京女子医科大学の心臓血管外科医師との共同実施プロジェクト
□ 「記録」アプリの限界に対して「セルフチェック」により挑戦する企業