「ブランド」から「プロダクト」へ|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

「ブランド」から「プロダクト」へ

文●松村太郎

新型コロナウイルス感染症の流行が始まって、もうすぐ2年が経過しようとしています。今日ではワクチンの普及も進み、日本における新型コロナウイルスの新規感染者数は2021年秋から減少している状況ではありますが、日本のことわざ「勝って兜の緒を締めよ」を体現して、マスクの着用といった感染対策を引き続き継続していくことが大切でしょう。

コロナ禍は私たちの生活、仕事、考え方を大きく変え、「ウィズ・コロナ時代」のライフスタイルもすっかり定着してきました。こうした変化は「不可逆的(再び元の状態に戻れないこと)だ」と多くの識者が指摘します。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」による仕事や教育の効率化は疑う余地がないでしょうし、一度オンラインショッピングやフードデリバリーを経験してしまえば、その便利さは忘れられないはずです。

DXが進んだ背景には、新型コロナウイルスによって人々の行動が制限され、「そうせざるを得ない状況」に追い込まれたことも要因としてあるのではないでしょうか。これにより、今まで起きてきた「デジタル化」「モバイル化」「個人化」といったトレンドが急速に進展しました。たとえば米国では、10年という時間をかけてようやく10%上昇してきた小売におけるオンラインコマースの割合が、このコロナ禍では、わずか8週間で10%上昇したといいます。そして、先述のとおり、この変化は不可逆的で、今後の「ニューノーマル」となるのです。

2021年は、筆者の知人の多くが引越したり、転職したり、新たな趣味に打ち込んだりしていました。皆さんの周りはいかがでしょうか? テレワークが定着したことで職場に近い都心部に住む必要がなくなり、価格が安い郊外の住宅の需要が高まっているという向きもあります。DXによって人々には「時間」が生まれ、自分自身の人生、仕事、趣向などについて改めて考える機会ができました。そこで問われるのが「より本質的な価値は何か?」ということです。

日本の労働者の月収は直近30年間で減少しているにもかかわらず、社会保険料や税負担は増加し続けています。そのため、手取りの給料(可処分所得)はより大きく減少してしまっている。つまり、DXによって生まれた時間で、必然的に「今消費しているモノは本当に価値に見合っているか?」という問いが生まれてくるのです。

それは、こうした負担率の変化を体験していないZ世代(1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた世代)への調査をみると、一目瞭然。アメリカのキャリアサイト「コンペアラブリー(Comparably)」が調査した彼らの「好きなブランド」のランキングには、憧れの高級ファッションではなく、日用必需品が多く入っているのです。しかもトップ3は「グーグル(Google)」、アップル、アマゾン(Amazon)」。その次に「ネットフリックス(Netflix)」が入るなど、生活になくてはならないデジタルサービスに集中しています。

これは、「ブランド」から「プロダクト」の時代へとトレンドが再び戻ってきたといえるのではないでしょうか。企業は、ブランドのロゴに払うコストを極限までカットし、より本質的な価値を提供していく。そうすれば、消費者は自分のために必要不可欠なプロダクトを信頼する。もちろん、街を出歩いて気軽に人に会って高級ブランドのロゴを自慢できないのだから、当然の流れともいえるでしょう。

アップルはもともとこのトレンドを先取りしながら、新しいブランド戦略で差別化しています。長くなってしまいますので、この話はまた次の機会に。

 

これからは「ブランド」から「プロダクト」の時代。2020年12月に発売されたApple初のヘッドフォン「AirPods Max」は、Appleのロゴをあえてデザインとして配置していません。

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。