「Max」が持つ 本当の意味|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

「Max」が持つ 本当の意味

文●松村太郎

9月のスペシャルイベントで発表されたiPhone 13シリーズに続き、アップルの新製品リリースが止まりません。10月18日(米国時間)に開催されたスペシャルイベント「Unleashed.(日本語訳:パワー全開。)」では、Siriを起点に声から音楽を楽しむアップルミュージック(Apple Music)の新たな料金プラン「ボイスプラン(Voice Plan)」、イエローやブルー、オレンジが加わってカラバリ5色になった「ホームポッドミニ(HomePod mini)」、デザインが刷新され、ダイナミックヘッドトラッキングやアダプティブイコライゼーションに対応した「エアポッズ(AirPods)第3世代モデル」、そして新チップを搭載した「14インチ/16インチMacBookプロ」が登場しました。

注目は、なんと言っても新型ノートブックでしょう。5年ぶりにフルモデルチェンジし、文字どおり、完全に「プロ向け」の仕様に生まれ変わりました。アップルシリコン「M1」の派生形である「M1プロ(M1 Pro)」、「M1マックス(M1 Max)」は、ひと言で“お化けみたいなチップ”と表現できます。わかりやすく言うと、「Xeon W(28コア)」や1.5TBメモリ、アフターバーナー(Apple Afterburner)などを搭載したMacプロ(約550万円)のビデオ編集のパフォーマンスを、M1マックス、64GBメモリ搭載のMacBookプロ(約42万円)が上回るというのですから、なんとも痛快です。もちろん、M1との性能差も大きくありますが、そもそもM1だって向こう3年は戦えるくらい高性能だったはずで、アップルが今までいかに「インテルチップで我慢してきたか」がわかります。

さて、昨今のアップル製品で目につくようになったのが「マックス(Max)」というグレード名です。たとえばiPhone 13プロ・マックス(Pro Max)やエアポッズ・マックス(AirPods Max)、そして今回のM1マックスなどが挙げられます。「マックス」が付けられた製品を見ると、どの製品も大きいので、「一番大きなサイズ」という印象が強いはずです。実際、M1マックスのSoC(システム・オン・チップ)全体のサイズもM1プロの1.7倍、M1の3.5倍となっています。これはいよいよ、アップルはサイズ感で「マックス」と名付けているんじゃないか? そんな興味が湧いてきたのです。

しかし、実際は少し違っていました。聞いたところによると、解釈としては「体験の最大化(maximize its experience)」だというのです。たしかに製品やチップのサイズも大きいのですが、それによって得られる体験が、製品群の中でもっとも良いものになっているのです。たとえばiPhone 13プロ・マックスなら、大きな画面サイズでコンテンツを見たり、撮影や編集するときも操作性が高いです。エアポッズ・マックスは、大きなドライバによる迫力あるサウンドと、効果的な空間オーディオが特徴的で、業界をリードするアクティブノイズキャンセリングは唯一無二の体験です。

では、万人がマックスを手に入れれば幸せか?というと、実際そうではありません。iPhone 13プロ・マックスはなかなかポケットにフィットせず、エアポッズ・マックスは日本の夏場に装着するには厳しいですし、8Kビデオを撮影・編集しない人にとってはM1マックスは明らかにオーバースペックです。

それでもアップルが「マックス」にこだわるのは、その製品群における可能性の追究という役割があるからです。その製品を選ぶかどうかは別として、アップルの「マックス」が面白い理由は、半歩先の“未来の当たり前”を示すことができるからだと言えるでしょう。

 

Macのための新しい画期的なチップである「M1 Pro」と「M1 Max」。いずれもM1の延長線上にあるチップで、CPUコア、グラフィックスコア、メモリ搭載量などを増加させ、性能を大幅に向上させた。

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。