教育・医療・Biz iOS導入事例

Apple Watchで無料相談する病院が本当に防ぎたいもの

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

2021年1月に国内でも使用可能になったApple Watchの「心電図(ECG)」アプリ。しかし、診断には医療者の目が不可欠だ。そんな中、このアプリを活用した無料の医療相談を提供する病院が現れた。医師はどんな期待を寄せているのか。4月の外来開設以降、現在までに約50例のデータが集まったという医療機関で、担当医師にその思いを尋ねた。

 

 

アップルウォッチ外来

前号で、国内で医療機器承認されたアップルウォッチの「心電図(ECG)」アプリおよび「不規則な心拍の通知」プログラムの医学的な意義について詳報した。これをさっそく、実際の診療に取り入れている病院があるという。かねてから開設している「無料ネット外来」において、アップルウォッチで測定した心電図をもとにした医療相談(=アップルウォッチ外来)を提供するニューハート・ワタナベ国際病院だ。

アップルウォッチの「心電図」アプリについては、たとえば心臓に持病のある利用者がその情報だけで「問題ない」と自己判断するのは望ましくなく、専門家によるチェックを経て、病院での適切な検査や治療につなげることが重要と指摘されている。同院のアップルウォッチ外来はまさにこの役割を担い、アップルウォッチと医療を接続するものだと言えそうだ。

では、なぜこのような試みをするに至ったのか、外来では実際に何ができて何ができないのか、そして無料でこのような医療相談を提供する理由について、同院で同外来を担当する大塚俊哉医師を取材した。

 

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心臓血管外科専門医である大塚俊哉医師(Twitter:@HeartSurgeonJP)。ニューハート・ワタナベ国際病院ウルフ‐オオツカ低侵襲心房細動手術センター長兼副院長。1986年東北大学医学部卒。1995‒97年米国オハイオ州クライスト病院にて心臓胸部外科臨床フェロー。2003‒20年都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長。2020年から現職。 ULR:https://www.fightaf.jp/

 

 

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ニューハート・ワタナベ国際病院は、心臓血管外科・循環器内科を中心にした東京都杉並区にある医療機関。低侵襲な心臓手術やダヴィンチを用いたロボット支援手術などの専門医療を提供する。URL:https://newheart.jp

 

 

命を救った事例も

まずはアップルウォッチの「心電図」アプリについておさらいしておこう。心電図情報を取得するには、まずデジタルクラウンに30秒、指を当てる。それだけで、利用者の心電図が「洞調律(問題のない波形)」「心房細動(不整脈の一種)など注意が必要な波形」「低・高心拍数」「判定不能」のいずれかに分類されるのだ。

連動する「不規則な心拍の通知」プログラムでは、アップルウォッチがバックグラウンドで測定している心拍リズムから、上記の心房細動の兆候がある不規則な心拍を検出し、通知する仕組みだ。心房細動は血栓を生じさせ、血管が詰まることで、脳梗塞などの病気の原因になることがある。

ここで重要なのは、このアプリやプログラムが基本的に心房細動の兆候を検出するためのものであること。厚生労働省も適正利用についての通知を出し、心房細動以外の不整脈の兆候の検出はできないことや、あくまで補助的なものであり従来の医師による診断に代わるものではないことなどの注意喚起をしている。

一方で、大塚医師はこの「心房細動の兆候を検出する」ということだけでも期待が持てると説明する。

「心房細動は脳梗塞を引き起こすことがあります。この脳梗塞という病気は一瞬の出来事が誰かの人生に破壊的な影響を与えるものです。心房細動は症状があまりない人もいますから、その場合は前兆なく倒れ、幸いにして命が助かっても、その後ずっと重い後遺症と付き合っていかなくてはならないこともある。それを防ぐ手段として、一定の評価ができる機能です」

ニューハート・ワタナベ国際病院はその名のとおり、心臓血管外科・循環器内科を中心にした医療機関。中でも大塚医師は心臓血管外科が専門で、心房細動の外科的治療に取り組んでおり、心房細動の患者と向き合う機会が多くある。その合併症から未然に患者を救う可能性があることから、アップルウォッチ外来を提案。2021年4月27日に同外来が開設されることになった。

同外来では心房細動の兆候を捉えた心電図が送られ、脳梗塞などを発症する前に治療を開始できた例があるという。開設以来、送られてきた心電図は約50ファイル。初期は8割ほどがその時点で健康な人からの相談だったが、次第に心臓病の既往がある患者からの相談も増え、2~3例の心房細動のファイルも含まれていた。うち1~2例はすぐに病院に行くように促すなど、国内での医療機器承認以降、実際に人の命を救うケースが現れ始めている。

 

早期発見や予防に

アップルウォッチ外来を希望する場合、ニューハート・ワタナベ国際病院の公式WEBサイトのフォームから連絡する。相談内容を選択したうえで、「体調について気になる点など必ず一言、何か添える(フォームの入力欄に書き込む)ようにしてほしい」と大塚医師。心臓病の既往などがなくても相談は可能だが、たとえば家族歴(親族の既往歴)があったり、たまに脈が乱れることがあったりなど、相談するに至った理由を書き込むのがよいだろう。そのほか、メールアドレス(必須)、名前や電話番号を記入し、心電図PDFをアップロードする。

「心電図」アプリからは、心電図を簡単に出力することができる。手順は、まずiPhoneで「ヘルスケア」アプリを起動し、[ブラウズ][心臓]の順に選択。[心電図(ECG)]から出力したい計測結果を、最後に[医師に渡すためにPDFを書き出す]を選択する。書き出された計測結果は[共有]でiPhoneやアイクラウド(iCloud)に保存できる。

アップルウォッチ外来を受診するために必要なのはこれだけだ。送られた心電図データは、大塚医師らがチェックする。ただし、前述したようにこれはあくまでも補助的な機能であり、医学的判断の根拠としてよいデータではない。そのため、同外来で提供されるのはワンポイントアドバイスに留まり、診断や治療ではないことは、あらためて明確にしておかなければならない。あくまでも心房細動の兆候が検出されたときに、適切な検査や治療につなげるためのものだ。

それでも大塚医師が「専門家として非常にありがたい」とするのは、やはり、心房細動の合併症に苦しむ患者を診てきたからだという。

「心房細動というのは合併症の発症まで気づきにくく、それでいて発症するとダメージの大きい、非常に嫌な病気です。それが今、アップルウォッチを普段から身につけて健康意識を高め、わずかな兆候に気づけるようになることで、早期発見や予防ができるようになった。自分の患者さんにも勧めていて、80代の人がさっそく、次の診察に持ってきてくれたこともあります」

現在まで無料でこのような医療相談を実施しているのも、心房細動に気づく可能性を少しでも広げたいというのが理由。毎日1~2例の心電図データが送られてきており、大塚医師は今後もデータを収集し、研究していくという。一般人の手には余ると見られていたアップルウォッチの「心電図」機能だが、医療側からの心強いアプローチもまた、始まっているといえる。

 

 

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「Apple Watch外来」を利用するには、ニューハート・ワタナベ国際病院の公式WEBサイトのフォームから連絡。相談内容を選択したうえで、「詳しい内容」欄に一言を添える。メールアドレス(必須)、名前や電話番号を記入し、心電図PDFをアップロードする。

 

 

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「心電図」アプリでは、Apple Watch Series 4、Series 5、Series 6の電気心拍センサにより心臓の鼓動と心拍リズムを記録し、その内容から不整脈の一種である心房細動が起きていないかどうかを調べることができる。

 

 

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「心電図」アプリのデータをPDFにするには、iPhoneの「ヘルスケア」アプリから[ブラウズ]→[心臓]の順に選択。[心電図(ECG)]から出力したい計測結果を選択し、さらに[医師に渡すためにPDFを書き出す]を選択する。このPDFを[共有]でiPhoneやiCloudに保存する。

 

ニューハート・ワタナベ国際病院のココがすごい!

□ Apple Watchの「心電図」アプリのデータを医師がチェック
□ 心房細動の早期発見・予防への思いから、無料で医療相談を実施
□ 現在まで約50例を読影し、心房細動患者の受診につながった事例も



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