アラカルト デジタル迷宮で迷子になりまして

テクノロジーの普遍的ムダ話

デジタル迷宮で迷子になりまして 第15話

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

中庸の気持ちが見えにくいネット上の言葉たち

ネットで購入した商品がとてもいいものだったとき、うれしさのあまりレビューを投稿することがある。昔から仕事で山ほどレビュー記事を書いてきたこともあって、文字数も内容も自由なレビューなど造作もない、と言いたいところだが、それなりに時間がかかる。それでも、いいものを手に入れた喜びや、ほかの人にもそれを伝えたいという思いがモチベーションとなって、仕事でもないのに文章を書く。自分の趣味嗜好がバレるので詳細は省くが、なかなか役立つレビューを投稿していると思う。

一方で、購入した商品がよくないものだったときにもレビューを投稿することがある。ただ感情的な内容ではなく、客観的な問題を指摘するようにしている。とはいえ、こんなモノを売りつけやがってという怒りがモチベーションになっているのは事実だ。実際、怒りに満ちた商品レビューを目にすることは多い。

アマゾンのレビューなどを見ても、★5や★1のレビューは目に留まりやすい。もちろん★3の「まあまあだった」という内容もあるが、目立ちにくい。高評価および低評価のレビューと★3のレビューで決定的に違うのは、込められた感情の強さだ。商品を誉めたいという喜びの気持ちが★5を選び、逆に商品への強い不満が★1を選ばせる。それらは言葉にも反映され、強い言葉が並ぶことになる。強い言葉は目立ち、そうでもない言葉は目立たない。たとえば、中庸な表現のアマゾンレビューが「役に立った」と評価されることは少ないように思う。

本コラムで以前、アマゾンでは★1レビューを参考にすると書いたが、実は★3の投稿も参考になることが多いと気がついた。世の中の多くの商品には一長一短があるものだ。★3のレビューには、その一長一短が書かれていることがけっこうある。これはテキストを生業としている者の職業病かもしれないが、サクラと怒りにまみれたアマゾンレビューの中において、それらは一服の清涼剤になる。

同様の現象はSNSでも見受けられる。SNSをとおして、多くの人の言葉がネット上にあふれている。日常の些細な出来事から、ライフイベントまでさまざまなので一概には言えないが、テキストの投稿が拡散されているのを見ると、強い言葉が並んでいることが多い。提言的なものやお役立ち情報、笑える話などもあるが、喜びや怒りなどの強い感情が込められた投稿はやはり目立つ。

わざわざ言葉をしたためて誰かに伝えたいというモチベーションは、商品レビューと似ているように思う。感情の起伏があってモチベーションとなり、感動や喜び、怒りや悲しみを投稿する。何でもない投稿ももちろん数限りなくあるが、著名人でもない限り、それらを気にする人は少ないだろう。

そして感情的に強い言葉は、それを見た人のモチベーションも刺激する。喜びの投稿を見て「いいね!」するならまだ平和だが、怒りの言葉が新たに怒りや反発を生み、罵声が罵声を呼ぶ展開は、ツイッターでは日常茶飯事だ。感情的な言葉が、別の強い言葉を呼び込み、不幸なスパイラルと分断を生んでいる状況は、コロナ禍において加速しているような印象も受ける。

そもそも不満のない状態では、人は多くを語らない。「自分は今、満足している」などといちいち投稿しなければならない心理を想像すると、そんな人はむしろ不幸なのではないかと心配になる。感情的な言葉が飛び交う中にいると忘れがちだが、ネット上の言葉の影には、膨大な数のサイレントマジョリティが存在する。投稿するのは、何らかの理由でモチベーションを刺激されたほんの一部でしかない。ネット上における★3の発言は、見えづらい存在なのだ。

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写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。



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