足元に広がる星空を探して|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

足元に広がる星空を探して

今回は、その着想と視点の面白さに感銘を受けた「コード化点字ブロック」について紹介したいと思います。

皆さんがよく街中で目にする点字ブロックは、正式名称を「視覚障害者誘導用ブロック」と言います。ご存じのとおり、路面に設置されている視覚障害者が足裏や白杖の先端から触感覚で認識できる突起を表面につけたプレートです。

点字ブロックは、視覚障害者の安全かつ快適な移動を支援するための設備として、1965年に三宅精一氏によって考案され、1967年に岡山県立岡山盲学校に近い国道に世界ではじめて敷設されました。現在では歩道・鉄道駅・公共施設だけでなく、民間の商店などにも広く設置が進み、日本のみならず世界75カ国以上で利用が確認されています。

点字ブロックは丸い凹凸のある「警告ブロック」と立体的な線が入った「誘導ブロック」という2種類のブロックから構成されています。この既存の警告ブロックに黒丸や三角といったマークをつけ、スマートフォンの背面カメラで読み取ることで視覚障害者の単独歩行に必要な情報を音声で入手できるようにしたのが、コード化点字ブロックです。

金沢市の市民生活AI技術等促進事業として、コード化点字ブロック認識アプリ「ウォーク&モバイル(Walk&Mobile)」を用いて始まったコード化点字ブロックの設置は、金沢21世紀美術館周辺の歩道から国立工芸館周辺にまで敷設箇所を拡大し、金沢の新たな観光ルートとして広がりを見せています。

コード化点字ブロックには、さまざまな情報を紐づけることができます。そのため、今後は視覚障害者のみならず、外国人なども含めた多くの「情報障害」に陥りやすい人々に対する新しい情報支援のおもてなしとなる可能性を秘めているのです。

すでに存在している点字ブロックと最新の画像認識技術を組み合わせることで、視覚障害者の移動経路上にテクノロジーによる情報支援を加えるという視点。今あるものを活かして新しい価値や意味を生み出すことを得意とする日本人らしい発想と、日本発祥の点字ブロックという文化の融合に、私は強く感銘を受けました。

テクノロジーの進化に目を奪われてハイテクを追求しがちな現在、あえて一度立ち止まって、すでにある技術の意味づけを変えるという視点も必要なのかもしれません。新型コロナウイルスの蔓延によって未来が見えずに俯くことも多い日々ですが、せっかく下を見たなら、足元に広がる可能性という星空を探してみてはいかがでしょうか。大切なものは、目に見えないものです。私はオフィスの前の点字ブロックにどんなメッセージを入れようかと妄想して、今日という日を楽しんでいます。

 

あなたならどんなメッセージを込めますか?

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。