Apple Watchで医療とヘルスケアを接続する医師の試み|MacFan

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Apple Watchで医療とヘルスケアを接続する医師の試み

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

2020年9月に医療機器認証されたのに加え、今年1月から「心電図(ECG)」機能が使用可能になったApple Watch。しかし実際、医療者以外には手に余る機能が多いのも事実だ。デバイスの進化をどう生活に落とし込めばいいのか。Apple Watchの発表直後から「医療につなげる」研究に取り組む慶應大医学部・木村雄弘医師を取材した。

 

 

「医療機器」になったが…

アップルウォッチは今、すべての人が常に身にまとうことのできる「心電計」となった。スマートウォッチとしても、医療機器としても、稀有な存在だ。

2020年9月、アップルウォッチの「不規則な心拍の通知」プログラムが国内で医療機器として承認されたことは記憶に新しい。注意を向けていた人は、この認証をもって2021年1月にアップルウォッチの「心電図(ECG)」アプリおよび同プログラムが国内でも利用可能になったことも把握しているだろう。

しかし、これを実際にどう生活に取り入れるべきかは、正直なところ、よくわからないのではないか。テクノロジーの発展のおかげでできることは増えているが、それにより便利になったという実感とは必ずしも結びつかない。そんな課題感を抱えているのは、実は医師も同様だ。

だからこそ、慶應義塾大学医学部循環器内科専任講師で、小川聡クリニック(東京都港区)で週に一度「デジタル診療」に取り組む木村雄弘医師は「医療とヘルスケアを接続する」という目標を掲げる。アップルウォッチのデータをいかに医療につなげるのか、その実践の最前線にいる木村医師に話を聞いた。

 

慶應義塾大学医学部循環器内科・木村雄弘医師。最新ICTと医療を融合した診療環境の構築に取り組む。不整脈専門医としての診療とともに、ヘルスケアと医療の効率的な連係を目指し、AI(人工知能)を駆使したDigital Medicineの研究を行っている。

 

 

「Apple Watch Heart Study」は、Apple Watchの「心電図(ECG)」機能を使用した臨床研究。「Apple Watch Heart Study」と「Apple Watch Heart Study慶應義塾版」の2つの研究から構成され、睡眠中/安静時の脈拍と生活習慣との関連を分析する。【URL】 http://awhs.cpnet.med.keio.ac.jp

 

 

適切な検査につなげる

「心電図」アプリでは、利用者がアップルウォッチのデジタルクラウンに30秒、指を当てることで心電図情報を取得することができる。そのうえで、問題のない波形、心房細動(不整脈の一種)など注意が必要な波形、低・高心拍数、判定不能のいずれかに分類するものだ。

また、「不規則な心拍の通知」プログラムでは、アップルウォッチがバックグラウンドで測定している心拍リズムから、心房細動の兆候がある不規則な心拍を検出し、通知する。心房細動は血栓を生じさせ、血管が詰まることで、脳梗塞などの病気の原因になることがある。

健康診断などで体験するが、心電図は医療者により複数の電極を身体に付けられ、横になった状態で測定される。また、心臓病の疑いがあり、「24時間心電図(ホルター心電図)」と呼ばれる検査を受ける場合は、同様に電極を身体に付け、小型のデバイスを持ち歩いて生活することになる。アップルウォッチの機能と比較すれば、煩雑なのは言うまでもない。

一方で、医療者による装着だけでなく、心電計のような医療機器は販売にも免許や資格が必要だ。しかし、アップルウォッチは当然のことながら、アップルストアや家電量販店、ECサイトなどで販売される。アップルはこの問題を、デバイスとプログラムを切り分け、プログラムについてのみ医療機器申請することによって乗り越えた。

ただし、このことは利用者に、それを理解しないまま専門的な技術の使用を許可することでもある。

木村医師は「早期発見につなげることで、合併症を予防できる」とする一方で、「ユーザも医療従事者も、アプリケーションの情報だけを元に健康状態を判断してはいけない」と強調。あくまでも「補助的に活用し、病院での適切な検査や早期診断に結びつけるためのもの」と指摘する。

 

分析と解釈の両輪

裏を返せば、アップルウォッチの機能自体は「医療」そのものではない。命に関わることであるのに専門家が介在しない以上、仕方がないことだが、これは医療とヘルスケアの間にある隔たりを象徴しているとも言える。医療機器の承認以前から使用できた心拍数のデータがまさにその例だ。

アップルウォッチは初期から心拍数のデータを測定できるが、それはもっぱらエクササイズ目的のものだった。しかし、この機能がきっかけで心臓の病気が発見される例が続いたことで心拍リズムも測定できるようになり、アップルがスタンフォード大学と共同で起ち上げ40万人が参加した研究「アップル・ハート・スタディ(Apple Heart Study)」を経て、今に至る。

心拍数のほかにも、アップルウォッチが測定できるヘルスケアデータは実に多様だ。watchOS 7で追加された睡眠をはじめ、歩数、移動距離やカロリーなど。しかし、これらはただちには医療に結びつかない。「心電図」アプリのように、得られたヘルスケアデータを分析するアプリと、それを解釈する専門家は医療の両輪なのだ。

木村医師を実務責任者とする慶應義塾大学病院の臨床研究「アップルウォッチ・ハート・スタディ(Apple Watch Heart Study)」は、その両輪を回すための試みといえる。

心電図や脈拍などのデータと、木村医師らが開発した独自のアプリで収集する睡眠・飲酒・ストレスなどのデータを分析することにより、睡眠中と安静時の脈拍と生活習慣との関連が明らかになるという。また、利用者がアプリで申告する動悸などの自覚症状と心電図も記録する仕組みだ。

木村医師は2015年11月にも不整脈と脳梗塞の早期発見を目的とした臨床研究用iOSアプリ「ハート&ブレイン(Heart & Brain)」を開発している。これは日本ではじめてリサーチキット(ResearchKit)を使用して開発され、iPhoneをIoTとして効率的に情報収集した、日本における新しい医療研究の道を拓いたことでも知られる。

 

睡眠不足や二日酔いでも

臨床研究「アップルウォッチ・ハート・スタディ」は、一般用「アップルウォッチ・ハート・スタディ」と「アップルウォッチ・ハート・スタディ慶應義塾版」という2つの研究から構成されている。一般用が全国のアップルウォッチユーザを対象としている一方、慶應義塾版では、すでに心房細動と診断されている患者を対象に、不整脈を早期発見するには、いつ心電図を記録すればよいのかを明らかにするものだ。

「研究の成果は、病院外の家庭生活を見守るような医療DX(デジタルトランスフォーメーション)に発展させたい」と木村医師はアプリの意義を説明する。前述した24時間心電図のような検査は患者の負担も大きいが、アップルウォッチを装着するだけであれば、対象となる患者の協力も得られやすいという。

このアプリは、自身のヘルスケアデータに目を向ける習慣づけにも役に立つ。

  「たとえば睡眠不足のとき、飲みすぎて二日酔いときなどに不整脈は起きやすいと言われていますが、個人のライフスタイルによって程度が異なります。ライフログであるヘルスケアデータを解析することで、個別化した効率的な早期発見、予防医療につなげたいです」

使用方法も簡単で、アプリをダウンロードしたうえで、アップルウォッチを手首に装着して就寝するだけ。そして翌朝、いくつかの質問に回答。7日間の使用が必要だが、連続でなくてもよい。また、動悸を感じたタイミングで記録できる「動悸記録ボタン」はiPhoneのウィジェットに表示させることもできる。

「心電図は、心臓が異常なときの記録が大事です。健康診断で1回の記録が正常でも、心臓に問題がないとは言い切れません。せっかく、いつでも、どこでも、誰もが腕の中で心電図を記録できるようになったので、サステナブルな健康増進ソリューションして活用できるよう研究していきたいと思っています」

 

 

Apple Watch Series 4、Series 5、Series 6で利用できる「心電図」機能では、搭載された電気心拍センサにより心臓の鼓動と心拍リズムを記録し、その内容から不整脈の一種である心房細動が起きていないかどうかを調べることができる。

 

 

Heart Study AW

【開発】KeioUniv
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

「Heart Study AW」アプリをiPhoneにインストールし、就寝前にApple Watchを装着。起床時にアンケートに回答する。また日中、動悸の症状や心臓に不快感があるときは症状と心電図を記録。参加にはiOS 14.0以降を搭載したiPhone、watchOS 7.0以降を搭載したApple Watchが必要。対象年齢は20歳以上で、研究参加期間は7日間。

 

 

「Heart Study AW」アプリでは、iPhoneのウィジェットに「動悸記録ボタン」を追加できる(写真左上)。動悸が頻繁に発生する場合は、ウィジェットに登録しておくと素早くボタンをタップできて便利だ。

 

木村雄弘医師のココがすごい!

□ Apple Watchの「心電図」機能を使用した独自アプリで臨床研究を実施
□ 「いつ心電図を記録すればよいのか?」を明らかにするアルゴリズムを研究開発
□ 分析と解釈が必要なヘルスケアデータを医療に接続する研究を推進



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