アラカルト “M世代”とのミライ

なりたい職業と、労働観と

文●松村太郎

企業や業界団体で定着している広報手段として「調査PR」があります。自社のビジネスに関連する世間の事象を調べて、それを発表し、分析を加えるというもの。ガートナーやIHSマークイットのように、調査そのものをビジネスにしている企業はデータと分析を販売していますが、調査PRは広報目的であるため、いくぶん身近な話題が取り扱われることが多いです。長年同じ調査PRを続けている企業も多く、「定点観測」的に楽しむことができます。

2021年3月17日に第一生命保険が発表した調査PRが「大人になったらなりたいもの」。1989年から続く調査PRの老舗的存在で、小学生、中学生、高校生という、まだ社会に出ていない世代の職業観、労働観を垣間見ることができる興味深い内容です。

最新の調査では、ユーチューバー(YouTuber)等を抑えて、小学生女子を除いた全世代、男女ともに、なりたい職業のトップは「会社員」でした。憧れの職業とは無縁の存在だった「会社員」が突然ランクインした要因は、コロナ禍で広まったリモートワークの影響もひとつのように思えます。

オンライン授業に奮闘する自分のすぐ横で、パソコン1台で会議から書類作成といった仕事をテキパキとこなす親の仕事ぶりをはじめて間近で見たことで、普段の家庭生活とのギャップも相まって、憧れを抱いたのかもしれません。

一方で気になるのは、「会社員」が職業ではない点。たしかに調査は「なりたいもの」なので間違ってはいないのですが、サッカー選手や野球選手、警察官、パティシエが具体的な職業であるのに対し、「会社員」は雇用形態です。「会社」というとメーカーも銀行も鉄道会社も含まれるうえ、実際にランキングには「鉄道の運転手」という、広義には会社員である職業も入っていました。

つまり、子どもたちは、「会社員」になって具体的に何を行うのかまではわからないものの、それに憧れを抱いていることになります。その憧れの理由としては、コロナ禍における安定的・現実的な職業を鑑みた結果かもしれません。

ふと、2013年の共著論文「雇用の未来 」で世界中に論争を巻き起こした、英オックスフォード大学のマイケル・ オズボーン教授と話したことを思い出しました。論文の中の「人工知能(AI)によって、米国に現在ある職業の47%はなくなる」という予測ばかりが大きく取り上げられましたが、オズボーン教授が訴えたかったのは、「AIによって新たな雇用機会が生まれる」ことでした。

コロナ禍では、これまで人が対面で行ってきたことを、感染防止を目的に、ビデオ会議ツールなどといったデジタルコミュニケーションに置き換える動きが顕著にあります。これによってビジネスがはじめからデータを伴うようになり、AIがより活躍できる場面が増大するという結果を生んでいます。

では、この状況に「会社員」がどれだけ対応できるのでしょうか? 大企業の会社員になれたからといって「安定」というわけでは決してなく、企業に就職してから、いかに学習やスキルアップをして、変化に対応し続けていけるのかのほうが大事なのは間違いありません。

この前、大学生と就職について話をする機会がありました。企業の大小以上に彼らが重視しているのは、その企業に共感できるか、そして自分たちがいかに大切にされるかでした。いち意見ではありますが、自分の貴重な青年時代を捧げたいと思えるかどうかは、企業選びに重要なウェイトを占めるようです。そうした共感や自己実現は、たしかにAIで置き換えられない要素かもしれません。

 

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「会社員」への漠然として憧れが顕在化したのに加え、会社自体の持続性への注目が増したこともまた、コロナ禍が突きつけた課題だと言えます。

 

 

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Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。



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