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医療現場のDXに新型コロナウイルスがもたらした影響

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

新型コロナウイルスの感染拡大により、医療現場が多大な負担を強いられていることはもはや言うまでもない。一方で、日本の医療における長年の課題となってきたDXについては、この感染症の流行が追い風となっている側面もある。医療ベンチャーのUbie株式会社がテクノロジーで実現したのは、医師・患者にのしかかる「コスト」の削減だった。

 

 

「適正受診」とDX

2021年1月中旬現在、東京を含む一部の地域では緊急事態宣言が目下発出中で、全国でもそれに続く動きがある。新型コロナウイルスとともにある生活を指す「ウィズ・コロナ」という言葉は、まったく望ましくない形で本当に定着してしまった。

このような状況下において、社会にある現象が生じた。それは「受診控え」。新型コロナウイルスの感染を恐れ、必要な通院までも控えてしまう状態だ。NHKの調査(https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1268.html)によると、「受診遅れや重症化」の有無について、歯科や耳鼻咽喉科の半数以上、患者数の多い内科や小児科でも、40%以上で報告があった。逆に言えば、患者はもともと「必要な通院」かどうかの判断がつかないことが浮き彫りになったと言える。そして、この課題はコロナ禍でより深刻になった。AI(人工知能)受診相談により、「受診するべきかどうか」「するならどこにどうかかるべきか」を示すサービス「AI受診相談ユビー」が注目を集めることになったのは、こうした経緯だ。

同サービスは、一度目の緊急事態宣言中の2020年4月に提供を開始した。開発元であるUbie(ユビー)株式会社によれば、月間利用者数は2021年1月現在で約50万人にのぼる。

たとえば「頭痛がひどい」と感じる人がいるとする。この原因がくも膜下出血のような深刻な病気だった場合、受診控えをして様子を見ているうちに亡くなってしまうこともある。AI受診相談ユビーでは、約5万件の国内外の医学論文と医師によるリアルタイムの臨床診断データを基に機械学習したAIエンジンのアルゴリズムにより、「すぐに救急車を呼んでください」「翌日、近隣のかかりつけ医を受診してください」といった提案が可能となる。また、同サービスでは発熱などの症状がある場合、新型コロナウイルスの症状に関連するかどうかもわかる。

「必要な通院」かどうかの判断がつかないという課題は、患者のストレスになるだけでなく、本来は受診の必要のない患者が受診することにより、長らく医療現場のリソースをも圧迫してきた。現在は受診控えでその反対の状態ではあるが、コロナ禍が明ければ、必要十分な医療の提供に大幅に近づくだろう。

コロナ禍は古くから医療現場を悩ませてきた「適正受診」というテーマに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という一定の解決策をもたらしたのである。

 

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Ubie株式会社は、病気推測技術を武器に「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションの達成を目指している。医療機関の業務効率化を支援する「AI問診ユビー」と、生活者と医療がベストなタイミングで出会えることで、健康寿命の最大化を実現する「AI受診相談ユビー」の開発・提供を行う。【URL】https://ubie.life

 

 

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代表取締役医師の阿部吉倫氏。2015年東京大学医学部医学科卒。東京大学医学部付属病院、東京都健康長寿医療センターで初期研修を修了後、2017年に共同代表でエンジニアの久保恒太氏とUbieを共同創業。2020年には、Forbesの「 30 Under 30 Asia」の「Healthcare & Science」部門に選出。

 

 

新型コロナ対策になるDX

はなぜ、UbieはタイムリーにAI受診相談ユビーの提供を開始できたのか。実はUbieは2017年5月の創業以来、医療機関の業務効率化を支援する医療機関向けの「AI問診ユビー」というサービスを提供してきた。前述したAIエンジンのアルゴリズムはこちらのサービスから転用されたものだ。

AI問診ユビーはその名のとおり、診察における問診の過程をAIが代替するサービス。 必要な情報をAIがまとめて質問し、医療用語に翻訳。スマートフォンやタブレットを介したオンライン問診などで、診察室に入る前に患者の情報を把握し、あとは貼り付けるだけでカルテへの記入が完了する。

もともと医師の過酷な労働環境は社会的に問題視され、2024年に改革がスタートすることになっている。よく医療業界は変化を嫌うと指摘されるが、労働時間削減やタスク・シフティングが半ば義務化される流れの中、問診とカルテ作成の負担を軽減するサービスは歓迎された。現在200以上の医療機関で導入が進む。実際に1問診あたりの時間が6分削減され、外来の問診時間が3分の1まで削減された医療機関の例もあるそうだ。

しかし、医療とはユニバーサルなものだ。現場が受け入れても、患者にとって受け入れがたければ定着しない。そのためUbieは銀行ATMやカラオケの電子リモコンを参考にAI問診ユビーを開発。ガジェットに慣れていない高齢者でも使用できるよう工夫しているという。

こちらのサービスも、コロナ禍を背景に需要を伸ばしている。まず、受診相談ユビー同様に、問診では症状と新型コロナウイルスの関連性が判断できる。これにより医療者はこの厄介な感染症を診察するために必要な準備ができるようになる。そもそも紙の問診票のやりとりがなくなり、対面する時間も削減できるため、このようなDX自体が新型コロナ対策になっていると言っても過言ではない。事実、新型コロナ対策を目的にした導入事例も増えているそうだ。

そしてUbieは2回目の緊急事態宣言初日となる1月8日、新型コロナウイルスにより多大な負担を強いられる医療現場をサポートするため、AI問診ユビーの「利用料1年分無償での緊急提供」を診療所向けに開始。医療現場のDXはこうして、大敵であるはずの新型コロナウイルスの影響により、加速している面がある。

 

持続可能な医療の実現

Ubie共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏は取材に対して、同社には「もともとto CのAI受診相談の構想があった」と明かす。

「私たちは『テクノロジーで人々を適切な医療に案内する』という理念を掲げています。一般の生活者の方々が医療にかかるうえで、そのストレスをなくすようなサービスというのは、もう1人の代表の久保(恒太氏)とAIエンジンの開発をしていた学生時代からずっと念頭にありました」

阿部氏と久保氏は高校の同級生。エンジニアの久保氏は東大大学院で病気推測の研究をしており、東大医学部に在学中の阿部氏に協力を求めたことがユビーシリーズ開発のきっかけになった。しかし、在学中は「起業という発想はなかった」と認める阿部氏。Ubieを興したのはなぜだったのだろうか。

「研修医として大学病院に勤務するようになって、医師はカルテ記載業務のような事務作業に膨大なリソースを割いていることがわかりました。『この時間をもっと患者さんと向き合うために使えないだろうか』と考えることが多くて。また、患者さんが受診するタイミングが適切でないとも感じたんです。仕事が忙しくて通院できず、進行してからがんであることがわかったケースなど、医療現場の課題が患者さんの不利益につながるシーンもたくさん見てきました。久保と開発していたAIエンジンのこともあり、『テクノロジーで解決できないか』『自分たちの開発した技術を社会に実装したい』と思うようになったという順番です」

そして今、コロナ禍という未曾有の事態で、変革の機運は急速に高まっている。ニーズが天井を知らぬ勢いで跳ね上がる中、阿部氏は「導入数は全体で見るとまだまだ少ない」と冷静だ。

「AI受診相談ユビーについては、このサービスが本当に患者体験を向上させ得るのか、自治体と協力しながら実証実験などによりエビデンスを積み上げていきます。AI問診ユビーについては今後、医薬品卸大手との提携などで、全国の中小規模の医療機関を開拓していきます。説明してきたように、2つのサービスは裏表の関係でもあるので、患者体験を向上させれば、医療機関の負担も軽減される。これを繰り返しながら、持続可能な医療の実現に引き続き取り組んでいきます」

 

 

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医療機関向けの「AI問診ユビー」は、「医療機関の紙の問診票の代わりにガジェットを活用して行う問診サービス。患者はタブレットやスマートフォンを使って症状を入力、診察前の時間を活用し、事前に詳しい情報を伝えられる。自動生成された問診内容のレポートと病名辞書の活用により、電子カルテに記載する事務作業の時間が大幅に削減される。【URL】https://intro.dr-ubie.com

 

 

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生活者向けの「AI受診相談ユビー」は、患者の症状から適切な医療への案内をサポートするサービス。生活者は病院以外の場所で症状等を入力することで、適切な受診先・タイミングを調べられる。かかりつけ医等地域の医療機関や、#7119などの救急車対応、厚生労働省などの公的な電話相談窓口への適切な受診行動を支援する。【URL】https://ubie.app

 

 

Ubieのココがすごい!

□ AIが「適切な受診先の医療機関」を提案してくれる
□ AIが医師の問診を代替し、医療現場の負担を軽減する
□ 2つのサービスがコロナ禍を背景に



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