アラカルト デジタル迷宮で迷子になりまして

テクノロジーの普遍的ムダ話

デジタル迷宮で迷子になりまして 第10話

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

パスワードというデジタルの中のアナログ的存在

法人を運営していると税金を支払う機会が多く、その都度窓口に出向くのが面倒なので、e−Taxの利用手続きをした。その際に必要になるのが、マイナンバーカードだ。マイナンバーカードはコンビニで印鑑証明等が取れたりと非常に便利なのだが、いかんせん使用機会が限られている。今回も久々の登場となった。

この手のたまに使うアカウントで問題になるのが、パスワードの忘却だ。誕生日や単純な文字列にすれば忘れないのだろうが、それではセキュリティの意味がない。共通のパスワードを使うのもNGだ。セキュリティの甘いサービスから漏えいしてしまったら、ほかのパスワードも芋づる式に露呈することになる。

特にマイナンバーカードでは、複数のパスワードを管理する必要がある。カード発行手続きの際に次々にパスワードの生成を要求され、これは絶対に忘れるヤツだという予感があったので、やむなくメモを取った。そのあとに何度かパスワードを使用する機会があったが、このメモのおかげで乗り切れた。我ながら好判断だったと思っている。しかし、物理的なメモはなくしたり、他人に見られたりする可能性もあり、パスワードの管理方法としては問題がある。そもそもICT活用のまっただ中にいながら「パスワードを覚える」とは、何とアナログな作業なのか。

アップルユーザには、そんなときのための「強力なパスワードの自動生成+アイクラウド(iCloud)キーチェーン」というソリューションが用意されており、ブラウザやアプリ上で利用できる。理想的なパスワード管理方法は、おそらく記憶することだ。しかし、サファリ(Safari)で管理しているIDを数えてみたら、475個もあった。すべて記憶することは不可能だ。そのためのアイクラウドキーチェーンだし、これらのパスワードはMacやiPhoneでロックできるので、管理方法としても問題ないだろう。

ただし、アイクラウドで管理できないケースも結構ある。それらのパスワードについては記憶するか、何らかの形でメモを残すしかないが、そこはやはりデジタル化だ。たとえば、「メモ」アプリに残せばいい。メモは独自のパスワードでロックをかけられるので、セキュリティ的には大丈夫そうだ。メモのパスワードさえ覚えておけば問題ない。

そんなとき、ある心配事が頭をもたげてきた。もし私に何かあったら、家族はどうすればいいのか。これは問題だ。うちのインフラに関わるIDとパスワードは、ほとんど私が管理している。いくつかは頭の中にしかない。何かあったときのために、家族に伝える手段が必要だ。

iPhoneのパスコードを伝えればいいのか? 家族とはいえ、他人のパスワードだ。普段使わないものを覚えていられるはずがない。すると家族はメモを残すかもしれない。いや待て、私のもっとも重要なパスワードがメモ書きされたのでは元の木阿弥だ。そもそも、最重要パスワードを直接教えるのも何だか抵抗がある。すぐにわからないように、何か手の込んだ方法で残すしかない。家の中にヒントをまき散らしておいて、順番にクリアしていくと答えがわかるようにするとか、そんなことしか思いつかない。しかしそれでは、答えにたどり着く保証がない。とはいえ、最終的にはアナログ的手段に頼らざるを得ない気がしている。

先日電車で、わりと大きな声で話をするスーツ姿の一団と出くわした。熱心に仕事の話をしているが、それが秘密保持契約の話で、明らかに内容に触れている。ネットでの情報流出が騒がれる昨今だが、アナログのセキュリティホールも無限に広がっているわけだ。そしてパスワードを覚えるというアナログな作業は、今日も世界中で続いている。

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写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。



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