機会を処方する機械たち|MacFan

今回は、さまざまなICT機器を用いて障害がある子どもたちの教育支援を行っている、東京大学先端科学技術研究センターの人間支援工学分野の研究室の活動について紹介します。

私は2012年からこの研究室に所属することで、自分の行うiPadやiPhoneによる支援がなぜ重要であるか、教育という視点から再確認することができました。

「児童が早期から機器に頼ると、自力で行えることが減るためよくない」という意見を耳にすることがあります。しかし私はこの研究室で、視覚障害や読み書き障害などさまざまな理由で学習環境に困難さを抱える子どもたちにとって、ICT機器を活用して短時間で読み書きに対する問題を軽減し学習目的を達成することが、彼らの学習意欲を低下させないために重要だと学びました。

この研究室では、困難さを持つ子どもたちが自分の“取り扱い説明書”を作るための「DO-IT JAPAN」という支援プロジェクトを行っています。この夏合宿に参加した子どもたちは、数日間専門家や支援者たちと真剣に対話し、自分の長所と短所を理解して個別性の高い配慮の必要性を自身の言葉で語れるように成長していきます。ぜひ卒業生が行ったTEDのプレゼンテーションを視聴してみてください。成長した子どもたちの生き生きとした姿は、まさに「百聞は一見にしかず」だと感じるはずです(http://tedxkidschiyoda.com/speakers/2611/)。

友人であり、世界最高齢のアプリ開発者として知られる若宮正子さん(現在85歳)は、定年後にパソコンを使い始め、「高齢者こそインターネットでつながるべきだ」と高齢者向けオンラインサロンを起ち上げ、馴染みの深い日本の文様をエクセルで作れるアートとして広めました。時代が変わり通信端末の主流がパソコンからスマートフォンへと変わると、次に彼女は高齢者がスマートフォンに親しむ機会を作るためにプログラミングを独学で習得し、「hinadan(ひな壇)」という高齢者向けのゲームアプリを制作したのです。このことはアップルのCEOであるティム・クック氏からも注目され、一躍有名人となりました。年齢をまったく感じさせない活動的な彼女の生き様は、「学ぶ意欲と好奇心を失わなければ、人間は老いない」ということを教えてくれます。

また、会話に困難さを抱える人々へのコミュニケーション支援アプリ「指伝話」の開発者である高橋宜盟さんは、「iPadをはじめとした機器は、“機械”ではなく“機会”である」と表現しており、私が東大の研究室で学んだことは、まさにこの視点であったと言えます。

研究室で出会った子どもたちや若宮さんが証明しているように、iPadなどの機器により人が学ぶ機会を喪失しないことは、「人生100年時代」において好奇心を失うことなく、自分らしく豊かな人生を送るために必要な情報処方であると、私は信じています。

 

学び方を学び、選べる時代の始まり。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。



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