アラカルト デジタル迷宮で迷子になりまして

テクノロジーの普遍的ムダ話

デジタル迷宮で迷子になりまして 第8話

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

アマゾンの奥地で続く口コミとの果てなき戦い

仕事中はイヤフォンを着けっぱなしのことが多いのだが、席を立つたびに外すのが煩わしくなり、ワイヤレスイヤフォンが欲しくなった。エアポッズを買えばいいのだろうが、やや高価だ。皆大好きアマゾンを覗けば、ワイヤレスイヤフォンは山ほど売っている。これだけ選択肢があれば、性能の割りに安価な掘り出し物もあるに違いない。そこで商品を探し始めるのだが、ここからが大変だ。

この手のデジタルガジェットをアマゾンで選び始めると、単なる買い物が戦いへと変わる。基本的にはキーワード検索し、商品を選ぶわけだが、商品説明とスペックを見ただけで購入してはいけない。聞こえのいい言葉が並んでいても、それが真実かどうかわからないからだ。とにかく目立って、とりあえず買ってもらえればいいという、ブランディングなど二の次の商品も多数ある。

そこで有用な情報になるのが、いわゆる口コミだ。しかし、売る側も当然そのことを知っており、中にはこの仕組みを逆手に取る販売者もいる。アマゾンの場合、購入者でないユーザからの書き込みは、ほぼこの手のサクラと見て間違いない。また、依頼があれば高評価(または低評価)の口コミを大量に書き込む商売があることも有名な話だ。

そんなサクラの書き込みを見破るには、いくつかコツがある。評価の低い口コミから見るのは定石だ。なぜ低い評価をするに至ったか、真実が多く語られている。しかし、注意してほしいのは「間違えて黒を買ってしまいました! ★1」みたいな役に立たないレビューが紛れていることだ。それは購入者が悪い。

無意味な商品写真を投稿している口コミにも注意だ。不具合や不満な部分があれば、怒った購入者が証拠写真を投稿することもあるが、届いた商品を見せるためだけにわざわざ画像を投稿するほどのモチベーションは、普通の購入者にはない。複数のレビューが同じ日付に集中している場合も怪しい。有名商品の発売日でもない限り、皆が一斉に購入して一斉にレビューを書き込むだろうか。

そんな詐欺行為を看破するためのWEBサービスもある。アマゾンで買い物をする際の目安の1つとして、「サクラチェッカー」は私もよく使う。すると敵側もひと手間加えてくる。レビューの文体や内容はもちろん、投稿日を集中させないといった工夫も織り交ぜてくるのだ。

加えて、そもそもアマゾンの値付けが妥当なのか、価格.comでチェックする作業を忘れてはならない。同じ製品がより安価で売られていたとしても、送料の罠に引っかからないよう注意が必要だ。

そんな努力の末に購入した名も知らぬブランドのイヤフォンで、性能の割りに安価な掘り出し物に出会うこともたしかにある。前述したようなテクニックを駆使することで、私の場合、むしろ勝率は高い。しかし、そこに費やされた時間やら、商品が届くまでの不安やらを考えると、何だかお金以上に消費されるものがあるように感じる。「我こそはインターネット上級者」と思う人に限って、そんな不毛な戦いを繰り返しているのではないか。私を含めて。

特定ジャンルの専門サイトなどでは、今でも口コミは有用な情報だ。しかしアマゾンのようなメジャーサービスでは、口コミは戦場と化す。そもそも口コミを残すユーザなどごく一部で、サクラに埋もれると、その声はマイノリティーなのだ。

で、結局iPhone 12プロを買うついでにエアポッズプロを買ったわけだが、性能にも使い勝手にもめちゃくちゃ満足している。商品価値を担保するのは、結局のところ、一朝一夕には築くことができないブランド力なのだろう。

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写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。