アラカルト デジタル迷宮で迷子になりまして

テクノロジーの普遍的ムダ話

デジタル迷宮で迷子になりまして 第7話

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

誤送信されるメールにITは勝てない

「以下の口座引き落としがございます」というメールが、某メガバンクから私のアイクラウド(iCloud)のアドレス宛に届いた。たしかに口座を持っている銀行ではあるが、身に覚えがない。そもそも「○○様」と他人宛で、額面も1万8700円と生々しい。要するに、フィッシング詐欺の類ではなく、間違って届いているのだ。「ああ、またか」と思う。

何かのネットサービスに私のアドレスが勝手に登録されることがよくある。理由は、私のアイクラウドのアドレスが比較的シンプルなものだからだろう。「.Mac(ドットマック)」時代に取得したので、アドレスとして使用しているのは「mac.com」のドメインだが、間違って届くメールは「icloud.com」宛なのですぐにわかる。ご存じの方も多いと思うが、「mac.com」は「me.com」に変わり、その後「icoud.com」となった。そのため、「icoud.com」宛のメールも、同じIDの「mac.com」に届く。ほかにも消費者金融からの審査結果や「あなたの車は8000円です」という見積り、美容院の予約など、用件は実にさまざまだ。

同じ現象は、Gメールでも発生する。自分のアドレスを間違えるなよという話だが、口頭で聞いたアドレスを勘違いするケースもあるようだ。「写真送ります!」と、乱痴気な飲み会写真が送られてくることも、たまにある。

いずれにせよ、少し考えれば、本人たちが間違いを正すことは可能なはずだ。アイクラウドのアドレスはほとんどのiPhoneユーザが取得するので、今や世界中に大量のアカウントが存在する。また、「.Mac」自体はまだiPhoneの影も形もなかった2002年に始まったものだが、当初は「メールエイリアス」というサブアドレスを(おそらく)無尽蔵に取得できたため、わかりやすい文字列はほとんど押さえられている。冷静に考えて、そういうシンプルなアドレスを、もはや世界標準とも言えるアイクラウドやGメールで取得できるわけがない。他人のアドレスならまだしも、自分のアドレスを間違うプロセスは謎が多い。

とはいえ、人間はカオスな行動を起こすものだ。個人によるメールの誤送信は防げない。しかし、誤ったアドレスを簡単に登録させるサービス側の問題は看過できない。登録時に確認メールを送信し、いわゆる本人確認を行えば、ほぼ防げる。「本人確認を挟むと登録者数が減る」といった理由で、メールアドレスを入力するだけで(それが間違っていたとしても)登録されてしまう仕組みなのだろう。これをメガバンクがやらかしているのだ。数字ばかりを追っているダメなコンサルティングが横行しているのではないかと滅入る。先般のドコモ口座の一件も、この辺りに因果があるように思えてしまう。

当然ながら本人確認メールもけっこう届くが、これは無視すれば済む。ただし、10通くらい連続で届くことがあり、確認メールが届かないので躍起になって連打している人がいるようだ。どこまで冷静さを失っているんだという話はさておいて、このように、いくら仕組みを作っても、人の行動は完全には制御できない。ぼんくらにITが負けている。

ちなみに私のツイッターのアカウントは「@hirohiko」だが、漫画家の荒木飛呂彦先生と勘違いした海外の“ジョジョ”のファンが、「先生、どうですか?」と、自慢の「ジョジョ立ち」画像を送ってきたりする。この状況は、世界共通のようだ。

こんな文章を書いていたら、ある法律事務所から「RIZAPの使用料を払え」という警告書がメールで届いた。23万円か。このモヤモヤした気持ちになる“罰ゲーム”を強いられる理由が、私のアドレスにあるとは思いたくないものだ。

 

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写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

フリーランスの編集者/ライター。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。