今回は変わり者の医者である私の、誕生の物語を紹介したいと思います。

「この子が将来、医者を目指すなら、必ず文学をやらせなさい」

これは、私が生まれて間もなく他界した祖父が、歌人であり作家であった祖母に残した言葉です。奇しくも私は3歳から祖母の歌会へと参加することとなり、歌人としての修行が始まりました。

私の文学の師であり、破天荒な歌人であった祖母の性格と思考を端的に伝えるエピソードがあります。ある日コップに落下した虫を見つけ泣いていた親戚の子どもに対して、祖母は笑顔で言いました。

「今の出来事を短歌にしなさい。良いネタが見つかって良かったわね」

良い詩歌の条件は、個人的な感情体験を、風景や物事に比喩し抽象化すること。そして、読者が体験を踏まえて空想できる余白を残すことにあります。祖母は歌を詠む行為を通して私の視点を柔軟にすることで、物事を多元的に捉える力を育ててくれていたのかもしれません。感情を抽象化する学びと多元的な視点の獲得は、医者という現在の仕事にも活きています。多様な価値観を持つ人々と対話し、抽象的な訴えを具体化する際の大きな助けとなっているのです。

私は幼少期に得た感性と対話力のお陰で、課題を抱える困難者が人生を切り開く視点を得た瞬間、そしてそのときの満面の笑顔を目の当たりにしてきました。彼らが生きる世界の姿は変わらなくても、彼らの視界に映る世界が変わる体験│アップル製品には、困難者の視界を変えるデザイン性と理念が宿っています。

自分の人生に意味を与えて「物語」にするには、きっかけを与えてくれる人や物、出来事との出会いが何よりも大切です。障害の有無に関わらず、あらゆるユーザの使用を想定し、充実したアクセシビリティ機能を持つアップル製品は、我々の人生に彩を与え、自分だけの物語を紡ぐための機会を処方してくれます。

一行の文章を書くために原稿用紙と対峙し続けた時間が、言葉と向き合う今の私の基本理念を形成しているといっても過言ではありません。歌を詠む際、制約された文字数の中では「何を書くか?」よりも「何を書かないか?」が重要です。それは、無駄を徹底的に削ぎ落としたアップル製品のデザインにも共通します。

「人生100年時代」を生きる我々は、老いによる機能低下や障害と向き合う必要があります。そして、その人生を豊かにするための“新しい視界”の処方も、医者の務めになるかもしれません。医者の言葉は「希望の処方箋」にも「絶望の処方箋」にもなりえます。だからこそ、患者の想いを汲み取る感受性と、心に届く言葉を選択する表現力といった文学的感性が、医者にも必要ではないでしょうか。

祖父の言葉の真意を知る由はありませんが、“言葉の処方箋”を出す医者になった私を、祖父母が見たらどんな言葉を発するのか。そんな空想に耽りながら、自分らしく生きられる今に感謝しつつ、今日も徒然なるままに筆を走らせています。

 

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想いを物事に例え、余白を行間に込めるのが文学である。

 

 

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Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。