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尿とスマートフォンは、世界の「栄養の偏り」を是正するか?

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

白いカップに透明なスピッツ――馴染みのある「尿検査」は今、ヘルステックにより大きな進化を遂げた。尿を送るだけ、尿に浸した試験紙をスマートフォンのカメラで撮影するだけで、今の自分の栄養状態がわかるのだ。フードサイエンスの究極形たる「パーソナライズドニュートリション」、その実現に取り組む株式会社ユカシカドを取材した。

 

 

尿を送って栄養の問題を解消

「尿で〇〇がわかる」と謳うサービスはヘルステック領域に少なくない。そのうち一部のサービスについては、がんなど生死を左右する病気の可能性を提示するにもかかわらず、その検査精度に難があることが問題視されてきた。「簡便で迅速な検査」を提供するサービスと医療は、強いニーズがありながらも、根本的に相性が悪いことを示す一例である。

そんな中、尿を使った簡便で迅速な検査を提供しながら、医療ど真ん中ではない領域に活路を開こうとする意欲的なサービスが、その存在感を増している。パーソナライズドニュートリション事業を展開するスタートアップ・株式会社ユカシカドが提供する「ビタノート(VitaNote)」シリーズだ。同サービスがアプローチするのは「栄養」。採取した尿から利用者の栄養状態を判定、スマートフォンで結果がわかる。

人生百年時代、人々の健康意識の高まりは青天井だ。そして実際、日本人は働き盛りでは栄養が過剰となりメタボリックシンドロームや肥満が、高齢者ではたんぱく質などの栄養の不足によるフレイル(筋力や身体機能の低下)が問題になっている。ユカシカドはビタノートにより、どのように栄養の問題を解消していくのか。同社代表取締役の美濃部慎也氏、経営企画室室長の石田幸輔氏を取材した。

 

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株式会社ユカシカドは、「誰でも簡単に栄養改善ができる世界」を目標に、適切な栄養状態の把握と改善の手段として、「一人ひとりに合った栄養改善=パーソナライズドニュートリション」を実現する企業。【URL】https://www.yukashikado.co.jp/

 

 

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ユカシカドの代表取締役・美濃部慎也氏。新卒で株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)に入社したあと、オイシックス株式会社(現オイシックス・ラ・大地株式会社)に出向。2013年3月に株式会社ユカシカドを設立し、代表取締役CEOに就任。

 

 

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同社経営企画室室長の石田幸輔氏。2007年4月リクルートHRマーケティング(現株式会社リクルートジョブズ)に新卒で入社し、HR営業やメディア商品企画、新規事業開発などに携わる。2018年1月にユカシカドに参画。

 

 

「健康」に栄養領域から貢献

「フードサイエンスにおいて、パーソナライズドニュートリションは究極の形です。その時々の自身の状態に応じて『何を食べたらいいか』がわかって健康になる。ユカシカドの事業では、まさにこの理想を実現したいと思っています」(美濃部氏)

そのために2017年にリリースされたのが、ビタノートだ。ECサイトにて購入後、翌日~3日後には検査キットが手元に届けられる。パッケージを開くと、中には多くの人にとって馴染みのある形であろう尿の採取キットが出てくる。使い方も従来的な尿検査と同様で、朝に採取した尿を容器に入れ、検査センターに郵送。分析結果は1週間後にWEBまたは専用アプリで確認できるようになる。

ビタミン・ミネラル・たんぱく質などの項目について栄養の過不足を測定し、厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」に基づき、年齢や性別などに応じて100点満点でスコア化。A~Eまでの5段階で評価され、栄養の過不足はレーダーチャートでも表示される。価格は7500円(税別)で「結果をもとに『オーダーメイドサプリ』として利用者に最適化されたサプリメントも提案しています」(石田氏)。

この検査でわかるのは、検査前3日間程度の栄養状態だ。検査技術についてはビタミンの栄養評価を専門とする農学博士で滋賀県立大学教授の福渡努氏と共同研究。また、同社によれば「『日本人の食事摂取基準』策定委員の先生と共同研究も実施している」という。四半期に1回程度の検査を推奨する。

ビタノートの技術を基盤に、2020年6月にはクラウドファンディングサイトの「マクアケ(Makuake)」でより簡便・迅速な検査ができる「ビタノート・クイック(VitaNote Quick)」の先行予約販売を開始。こちらでは少量の尿に浸したテストペーパーをiPhoneなどのスマートフォンで撮影、色の変化を捉え「10秒でビタミン・ミネラル・食事バランスを評価する」としている。2回分で500円(税別)と非常に安価だ。

栄養は健康に直結する領域で、冒頭で紹介したように日本人における問題も多々ある。その解決に社会的意義があることは明らかだが、問われるのは精度だ。同社は「滋賀県に自社の検査センターを構え、前述した福渡氏と共同で研究開発に取り組むことで、それを担保している」とする。しかし、ユニークなサービスの独自技術はオープンな検証をされにくいものでもある。

同社は長野県松本市と共同で、ビタノートを活用した実証実験を展開している。これは同社の検査精度の検証にもつながるもので、松本地域在住の20~60代の男女を対象にモニターを選定、対象者にビタノートで栄養検査を実施。同年度に受診済の健康診断データを取得・照合し、生活習慣病など病気の発症との相関を分析するというものだ。2022年までの3年間でエビデンス(科学的根拠)を集積する。 

「私たちの専門は栄養であり、医療ではありません。でも、人々が本当に健康になるためにはその行き来も必要となる。ユカシカドとしてその役割を担っていくために、このような自治体との取り組みを今後も続けていきます」(美濃部氏)

 

世界の「栄養の偏り」に注目

ユカシカド創業のきっかけは、美濃部氏が学生時代にフィリピンなどの発展途上国を訪れたこと。魚や野菜などが豊富な環境でありながら、人々が栄養に関する知識不足ゆえに、砂糖や油が極端に多い食事をとる現実を見たという。それは一般に「発展途上国」という言葉からイメージする貧困とは異なり、日本にも共通する「栄養の偏り」だった。

美濃部氏は関西学院大学出身。アメリカンフットボールの強豪校で、同氏もアメフトに打ち込んでいた。ケガで選手は引退したが、競技の経験とフィリピンでの出来事が結びついた。同大学は名門ゆえ、トレーニングや休息についての理論は最新のものを積極的に取り入れている。しかし「栄養については『とりあえずプロテイン』といった経験と勘による管理だった」(美濃部氏)。

「栄養」をテーマに据えることを決めた美濃部氏。栄養領域での起業を模索しながらも、まずはビジネススキルを身につけるため、2006年にリクルートに入社。10年に食品の宅配事業を提供するオイシックス(現オイシックス・ラ・大地株式会社)に出向した。並行して約100人の研究者と面談し、ビジネスの構想を練っていく。その中に長年の研究実績を持つ福渡氏がいたことが、大きな転機となった。

福渡氏との共同研究をしながら、2013年にユカシカドを起ち上げた。2017年に誕生したビタノートは現在「健康意識の高い層を中心に利用されている」(石田氏)。美濃部氏は「健康になるための第一歩はまず、自分の状態を把握すること。ビタノートシリーズではその機会をより手軽に提供していく」とする。数年以内に100万人の検査を目標に、オンラインや薬局、コンビニでの販売に注力していく。

医療ど真ん中ではないものの、医療に直結し、皆の困りごとである「栄養」という領域に目をつけたところ、そしてその領域で地道な研究開発を継続してきたことで、同社は他の追随を許さない、日本のユニコーン企業になり得る可能性を十分に持っている。パーソナライズドニュートリションはすでに北米では大きな市場が形成されており、事業の発展性も大きい。

こうしたヘルスケア領域の個別化については、データが集まれば集まるほど精度も上がるため、現在の利用者層をいかに無関心層に広げられるかが今後を占う。ビタノート・クイックのように「簡便で迅速」であることが販路の拡大につながるか。あるいは次の一手が必要になるのか。ただの「簡便で迅速」な検査サービスから抜きん出た同社だからこそ、「真に有効」なサービスの確立に期待がかかる。

 

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尿を送ることで栄養状態を検査できる「VitaNote」。結果はWEBや専用アプリで確認できる。またチャット機能で管理栄養士から栄養改善のアドバイスが受けられるほか、足りない栄養素を補う食品やサプリメントをレコメンドされる。【URL】https://vitanote.jp/

 

 

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「VitaNote Quick」は、同梱のテストペーパー(試験紙)を2秒間尿に浸し、スマートフォンのカメラで撮影することで、自宅で簡単に栄養状態を可視化できる。世界初の自社技術から誕生した、目に見えない栄養の偏りを気軽にチェックできる注目のサービスだ。 【URL】https://vitanote.jp/quick/

 

 

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VitaNoteやVitaNote Quickで自分の状態を把握したあとは、不足分の栄養素を補うためのサプリメント「TURF」も購入可能。また、「VitaNote」シリーズで検査済の利用者だけが購入できる個別化されたオーダーメイドサプリ「VitaNote FOR」も用意されている。【URL】https://vitanote.jp/turf/

 

VitaNoteのココがすごい!

□ 尿を送ると栄養状態がスコア化・視覚化され、スマートフォンで確認できる
□ 郵送不要でアプリだけでも尿検査が可能、栄養状態がわかる
□ 今の自分が「何を食べたら栄養改善するか」をレコメンドしてくれる



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