これが私の生きる道|MacFan

はじめまして。私は医療以外の方法で、すべての人が自分らしく生きられるための“気づき”を処方する変わり者の医者です。私が治しているのは病気ではなく、疾病や障害がある人々(私は彼らを「障害者」ではなく、困難さを抱える人という意味で「困難者」と呼んでいます)が、疾病や障害を理由に自己実現ができないという社会の課題です。

白衣を着ているときは、現代医療では治らない病気の患者にiPhoneやiPadのアクセシビリティ機能を中心としたデバイスの使い方やアイデアを処方する眼科医として働いています。一方で白衣を脱いでいるときは、企業で働く困難者をはじめ、就労環境とミスマッチを起こした労働者がより快適に働けるための提案や制度設計をする産業医として働いています。

また、大学内にいるときは新しい教育や配慮のあり方を模索する研究員として、そして企業や団体を訪問しているときは社会課題を解決するコンセプターやディレクターとして活動しています。

病気だけを診るのではなく、人と社会を診て治す医者でありたい|その理念に基づいて困難者との対話を通して学び、気づき、一緒に考えて成長するのが私の流儀です。

私は困難さを抱える人々は「テクノロジーの使い方のデザイナー」であり、彼らの生き方に個性が宿ることを知っています。また医者は患者に薬の処方箋を発行しますが、私は医者として困難者の人々から「言葉の処方箋」を貰っています。彼らの言葉の処方箋は、私の凝り固まった世界観や価値観に新しい気づきを与え、見える世界を一変させて人生を豊かにしてくれました。

この連載では、この10年間の活動で出会ったさまざまな人、物、事を、その言葉の処方箋とともに紹介していきます。私の冒険譚を振り返るにあたり、代表を務める株式会社スタジオ・ギフト・ハンズ(Studio Gift Hands)の理念を一部引用したいと思います。

「すべての人は自分の中に驚くべき才能(Gift)を持っています。しかし多くの人は日々の生活の中で、その存在に気づかずに生きています。また人生には時に、生きてきたすべての価値観を根底から変えられるような、そんな素晴らしい出会いが確かに存在しています。昨日までの見慣れた日常を一瞬ですべて変えてしまう出会い。それは素晴らしい音楽や絵画、またはたった一行の平凡な文章なのかも知れません。それらはすでに日常の生活の中に存在しているのです」

私が「出会い」や「言葉」を大切にする理由は、当事者との対話を通して言葉に学び、気づきと成長に感動し、好奇心を育て続ける人生を送れることを心から望んでいるからです。

このような思いに至るようになったのは10年前、人生に悩んだ一人の困難者がiPadと出会ったことにはじまります。第2話では、私の数奇な冒険譚のはじまりの物語をお聞かせします。

 

 

10年前、白衣を脱いでiPadを手にした1人の医者がいた。

 

 

 

Taku Miyake

医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。