教育・医療・Biz iOS導入事例

iPadの1人1台環境だから、学びが変わり、学校が変わる!

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

2019年12月に文部科学省が発表した、1人1台環境の実現を目指す「GIGAスクール構想」。コロナ禍の休校措置も影響し、教育現場でのICT活用に関心が高まっている。1人1台の先進校は、どのように取り組みを進めているのか。上越教育大学附属中学校の取り組みを見ていこう。

 

 

学校で使うiPadは誰のもの?

2010年、ちょうど初代iPadが発売された頃から、生徒1人につき学習者用端末1台の環境構築に取り組んできた学校がある。新潟県の上越教育大学附属中学校だ。同校は国立教育大学の附属校として研究機関の使命を果たすべく、文部科学省による「1人1台環境」の研究事業に参加。当時はiPadではなかったが、ウィンドウズPCによる1人1台環境が整備され、その活用に5年間取り組んできた。

その後、研究期間の終了を前に同校は、1人1台環境の継続に悩んだという。事業のために整備された端末は返却しなければならないが、すでに生徒たちはパソコンを日常的に使っており、それがなくなると紙と鉛筆の世界に逆戻り。一方で、学校として1人1台を本格実施するには保護者の費用負担も発生してしまう。

しかし同校は、これからの社会を生きる子どもたちにとって1人1台環境は必要と判断。鈴木克典副校長は「10年先の教育を考えるのが本校の使命。AI時代をたくましく生き抜き、社会の発展に寄与する人間性豊かな生徒を育成するためにはICTが必須だと考え、1人1台環境を継続することにしました」と、その経緯を語る。

iPadによる1人1台環境の本格実施は2016年度から。当時の新入生、新2年生を対象に、端末をiPadに変更した。当時を知る寺田寛教諭はiPadの選択理由について「校外学習や課題解決型学習など、学校外、教室外で使うことが多いため、持ち運びやすく、操作性に優れたiPadを選びました」と述べる。

同校のiPad導入で注目したいのは、中学生という発達段階を考慮して、「iPadは保護者の持ちもの。生徒はそれを借りて使う」という方針を学校が示したことだ。iPadが保護者の管理下にあることを生徒が自覚することで、使い方や意識を高めていくことが狙いである。同時に、保護者らもiPadの使い方に関心を持ちやすい。

その結果、同校ではPTAの中に「教養ICT委員会」が起ち上がった。保護者向けの講習会を開催したり、毎週金曜日は「iPad利用を考える日」とし、iPadに送信された連絡を生徒が保護者に見せることで、保護者もiPadに関わる日を設けている。情報リテラシーの育成が難しいと言われる中学生であるが、上手く保護者を巻き込み、全体の意識を高めていける土壌づくりに取り組んでいるのだ。

 

 

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上越教育大学附属中学校(新潟県上越市)は、国立大学法人上越教育大学の附属校。「民主社会の発展に寄与する人間性豊かな、たくましい生徒を育成する」を教育目標に掲げ、ICTを中心とした先進的な教育領域の研究を担う。2016年度から本格的にiPadによる1人1台を実施。現在は330台の端末が稼働。2019年、先進的な教育活動が評価され、国立校として初めてADSに認定された。

 

 

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左から寺田寛教諭(美術)、鈴木克典副校長、大崎貢教諭(理科)。

 

 

iPadで新しい学びの価値を

上越教育大学附属中学校では、どのようにiPadを活用しているのか。2人の教員の実践を見ていこう。

理科を担当する大崎貢教諭は、天気の単元で「上越と沖縄の天気を予測し、オリジナル天気予報番組を発信しよう」という学習を実施した。「iTunes U」のコースなどで基礎知識を学んだあと、生徒たちはグループで各種データを見ながら天気予報を予測。その後、オリジナルの天気予報番組を制作して、作った番組を学校のOpen Dayで公開し、北海道と愛媛の中高生に評価してもらうという流れだ。

大崎教諭はこの授業について、生徒たちの成果物が多様な視点で評価されることを重視したと語る。

「これまでは生徒が何か作っても、教員の評価や学校内の相互評価に終わっていました。しかし、ICTのメリットを活かせば、外とつながり、第三者から評価を得ることができます。『外の人に見てもらう』という前提で生徒たちが取り組むことで、もっと良い作品に仕上げたい意識を高められるのではないかと考えました」(大崎教諭)

実際に、Open Dayの日は中高生たちがリアルタイムで視聴。「グーグル・フォーム(Google Form)」を通じて評価をもらい、生徒たちは中高生らの言葉に一喜一憂し、感激したという。

「生徒たちは制作段階から、中高生に見てもらえると真剣に取り組みました。こういう場を設定することが教員の役目だと思いました」(大崎教諭)

続いて、美術を担当する寺田教諭は、生徒たちの世界を広げるためにiPadを活かしているのが特徴だ。「鳥獣戯画」の絵巻物を読み解く学習では、生徒たちが絵巻物の中から気にいった場面を選び、自分たちの解釈をアニメーションで表現する活動に挑戦した。

これまでは、絵巻物を拡大コピーして吹き出しに書き込んだり、授業支援ツールで共有したりしていたが、今回は絵巻物の全場面を「キーノート(Keynote)」に取り込み、生徒たちが手元のiPadですべて鑑賞できるようにした。1人1台のiPad環境だから、自分のペースで鑑賞できるのもメリットだ。

「鳥獣戯画は言葉がないため、物語を読み解くためには読み手の想像力が大切になってきます。その点、iPadを活用したことで、生徒たちは画面を拡大・縮小したり、場面を比較したりしながら、『この動物は何をしているのか』『季節はいつか』などイメージを膨らませることができました。絵をじっくり『見る』ようになったと思います」(寺田教諭)

その後、生徒たちは自分の気に入った場面の解釈を、動きや音も加えて、アニメーションで表現した。寺田教諭は「ほかの生徒の作品を見るときにも、友だちはどんな風に作ったのかといった異なる視点や、ほかの魅力的な場面があることに気づきやすく、新しい世界を広げる学びにつながる」と話す。作品づくりをとおして、生徒たちの感性がぶつかり合う場を作っている。

 

学びが変わり、学校も変わる

このようなカタチで1人1台環境でiPadを学びに活かす上越教育大学附属中学校。単にiPadを学習に使うだけなら、1人1台にこだわらなくとも、3人に1台という具合に学校で端末を共有すればいいと語る教育者もいる。同校では、1人1台の成果をどのように捉えているのだろうか。

鈴木副校長は「学びが変わると同時に、学校が変わることが1人1台のメリット」と話す。生徒全員がiPadを持っているため、ICTの効果も高まるからだ。たとえば、生徒総会などの特別活動。ICTを活用して、プリントを印刷せずPDFで配信したり、生徒会活動も場所や時間に縛られず、行えるようになった。学校共有のiPadでは、こうしたICTのメリットも学校生活に活かせず、授業内の活用にとどまってしまうのがデメリットだという。

さらに鈴木副校長はこれからの授業についても「iPadを授業の『代替』『拡張』として活用するのではなく、テクノロジーがなければできない学びを実現できるよう『再定義』していくことが大切だ」と話す。また、大崎教諭は1人1台について、生徒たちの多様性をさらに引き出せると可能性を感じている

  「これまでの評価は言語能力に左右されることが多かったと思いますが、これからの時代はテクノロジーによる表現を、教員が評価できることが必要です」(大崎教諭)

そして寺田教諭は、すでに生徒たちは1人1台の世界に慣れていることを忘れてはいけないと指摘。「だからこそiPadを使うなら、自分の人生を変えるような使い方をしてほしい」と思いを述べた。単なる端末活用に終わらせるのではなく、自分の未来を切り開くツールとして、iPadを活かしてほしいというのだ。

1人1台環境で子どもたちの手にiPadが渡り、コロナ禍の状況でも、予測不可能な未来においても、たくましく生きる力を身につけてほしい。

 

 

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写真上は生徒たちが作った天気予報番組。写真下はiMovieに搭載されているクロマキー合成機能で編集した動画。GarageBandで音楽制作する人、動画制作のディレクター、撮影、演者、アシスタントと生徒たちは役割分担して取り組んだ。中高生から「すごいね、何のアプリで作ったの?」と逆に質問されるなど、校種を越えたつながりに生徒たちも満足だったようだ。

 

 

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「鳥獣戯画」を読み解く学習で、生徒が自分の解釈をKeynoteのアニメーションで表現。完成したアニメーションの鑑賞会は、コロナ禍による休校で実施できなかったが、WEB上で展覧会を実施したという。

 

上越教育大学附属中学校のココがすごい!

□ 保護者を巻き込んだiPad運用で、全体の意識を高める土壌を作っている
□ iPadを文房具として活かしつつ、さらに学びの価値を高める使い方に挑戦している
□ 1人1台で学びを改革し、学校を変える成果につなげている



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