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医療を真に変えるための「空中戦と地上戦」のビジネス戦略

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

医療ヘルスケア分野のベンチャー企業・株式会社メドレーは、クラウド診療支援システム「CLINICS」を展開している。オンライン診療システムやクラウド型電子カルテを主力とするサービスだが、規制などの強い領域でもある。なぜ、この領域に取り組むのか。「長期的に見て正しいことに賭けたいから」という、責任者の言葉の真意に迫る。

 

 

医療の「岩盤」に向き合う理由

医療ベンチャー界隈で、この企業の名前を知らない人はいないだろう。株式会社メドレーは医療ヘルスケアの分野で、クラウド診療支援システム「クリニクス(CLINICS)」、医師たちがつくるオンライン医療事典「メドレー(MEDLEY)」、日本最大級の医療系人材採用システム「ジョブメドレー」などのサービスを運営する企業だ。

起業家である瀧口浩平氏が自身の家族の闘病経験から「納得できる医療の実現」を目標に、2009年創業。その後、共同経営者として現代表取締役医師・豊田剛一郎氏が参画。2019年12月には東京証券取引所マザーズ市場に上場するなど、順調にその事業を拡大している。

 

 

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2009年に瀧口浩平氏が創業。医療介護の求人サイト「ジョブメドレー」を開始。2015年に共同経営者として代表取締役医師・豊田剛一郎が就任し、オンライン医療事典「MEDLEY」を開始。医療における人材・情報・運営のプラットフォーム事業を行う。

 

同社が近年注力するのが、クラウド診療支援システム「クリニクス」シリーズだ。2016年2月にスタートしたオンライン診療システムを皮切りに、2018年にはクラウド型電子カルテ「クリニクス(CLINICS)カルテ」の提供を開始。現在、診療所を対象とした予約管理システム「クリニクス(CLINICS)予約」と合わせてシリーズを構成している。

一方で、オンライン診療は厚生労働省など規制当局との調整が不可欠で、電子カルテはガラパゴス化したフォーマットが乱立している。まさに医療ビジネスの「岩盤」になっているポイントで、収益化の道も険しいことは想像に難くない。

なぜ、あえてオンライン診療・クラウド型電子カルテなのか。入社以来、一貫してクリニクスシリーズを担当する同社執行役員の田中大介氏は、その理由を「長期的に見て正しいことに賭けたいから」とする。日本において、医療を真に変えるためには何が必要なのか。そのヒントを探るべく、田中氏に話を聞いた。

 

 

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2008年東京大学経済学部経済学科卒業。スパークス・グループ株式会社を経て、2011年Googleに入社。2016年より株式会社メドレーに参加。現在は事業部長として、医療機関向けのクラウドサービスを展開するCLINICS事業を牽引する。

 

 

「空中戦」と「地上戦」

メドレーという企業を理解するために、まず、オンライン診療の現在地を説明しておく。ICT機器を使用した診療が事実上、解禁されたのは2015年8月。さらに2018年3月には「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が策定された、しかし、上記ガイドライン策定後に不適切事例が複数報告されたため、2019年7月にガイドラインが一部改訂されることに。

このように、規制緩和と強化が繰り返されてきたオンライン診療だが、現在は追い風が吹いている。2020年3月、厚労省は「オンライン服薬指導」を9月1日から認めることを決定。制度上は自宅で診療から服薬指導までがオンラインで完結するようになる。また、同省は昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、すでに診断済みの疾患で病状に変化が生じた場合、現在は一部の疾患にしか認められていないオンライン診療を追加で認める方針を示した。

このような経緯の裏側で、先行する国内事業者として当局と連係してきたのがメドレーだった。また、代表取締役医師である豊田氏はこの分野の第一人者として「顔役」になる。田中氏はこのような戦略を「“空中戦”と“地上戦”」と表現する。

「豊田が担当しているような当局との調整や、関係各所との連係といった“空中戦”はもちろん重要ですが、それだけで医療ビジネスは前に進みません。たとえば『オンライン診療が患者にとって便利だ』ということには誰も異論がないでしょう。でも、それを一つ一つの医療機関に説明し、導入してもらうということには、想像よりも大きな道のりがある。ただ、こうした“地上戦”をコツコツ続けることで、仲間が増え、知識が増えていきます。地上戦の成果があるからこそ、空中戦でも有利になる。どちらもしっかりやる会社は珍しいと思いますし、そこがメドレーの特徴ではないでしょうか」

田中氏は瀧口氏、豊田氏と中学時代からの同級生。前職はグーグルに所属し、法人を対象としたクラウドサービスのエヴァンジェリストを長く務めていた。地方の企業を回り、講演数は年間100回以上。まさに地上戦のプロである田中氏は「『〇〇×IT』とよく言われるが、それだけでは立ち行かない」「地道なコミュニケーションこそが人を動かし、事業を前に進める」と指摘する。しかしなぜ、あえて困難な地上戦に挑むのか。

「僕たちはマクロで、ロングタームで正しいことにベットすると決めています。正しいことであれば、いつかは必ず実現すると思っているから。そのための道が険しくても、正しいほうに進んでいるなら、均していけば辿り着ける。あとはやっぱり、大変なことのほうがやりがいがあるじゃないですか」

単なるシステムの提供にとどまらず、医療機関へのクリニクス導入を足がかりに、医院経営や医療体験のアップデートを狙う。導入数はシリーズ全体で約1200件(解約・中断含まず。また複数システム利用は1カウント)と、一定以上の規模になった。そもそも、同社には人材系のジョブメドレーという大きな収益の柱もある。理念重視の事業にも取り組みやすい環境だ。

 

 

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757名の協力医師と作成するオンライン医療事典プロジェクト。「病気の基礎知識」「原因」「症状」「治療」「検査」の情報をわかりやすくまとめている。 【URL】https://medley.life/

 

 

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医療介護従事経験者が運営する就職・復職・転職のための求人サイト。ほぼすべての医療介護職を取り扱い、2020年3月18日時点で全国29万35811件の事業所の正社員、契約社員、アルバイト・パート、業務委託募集情報を掲載。 【URL】 https://job-medley.com/

 

 

情報の非対称性と現場の非効率

2020年3月には東京大学医学部附属病院がクリニクスを利用したオンラインによる「セカンドオピニオン外来」の開始を発表。また、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的として複数の大手薬局と連係、クリニクスによる服薬指導の実施もスタートする。同社の戦略は、確かに日本の医療を変えつつある。

今後はどのように、この改革を進めていくのか。田中氏は現在の日本の医療の課題を「情報の非対称性」と「現場の非効率」とし、それぞれを解消していくことが必要だとした。

「正しい医療情報がほしいが、どこにあるかわからない。そんな問題を解消するのが『メドレー』です。また、医療現場に人手がほしいが、どこに優秀な人材がいるのかわからない。『ジョブメドレー』がこれを解消します。このように、医療という特殊な領域における情報の非対称性を埋めるのがメドレーのミッションの1つです。加えて、クリニクスでは医療現場の効率を上げることもミッションの1つにあります。この先、高齢化で患者は増えると予想されていますが、医師はすぐには増えません。すると、効率を上げるか医療の質を落とすかしか選択肢がないことは自明です。後者は選びたくありませんから、前者に取り組む。オンライン診療で一部業務の効率化を図り、クラウド電子カルテへの移行という本丸に迫る。こうすることで、患者さんの利益、ひいては『納得できる医療の実現』につながると思っているんです」

田中氏は、ビジネスが大きく変わるには、3つのタイミングがあると言う。1つ目は「ガラケーからスマホ」のようにプラットフォームが変わるとき。2つ目は、ブロックチェーンやVRといった新しい技術が登場するとき。そして3つ目が「規制緩和」。まさにその追い風が強まる中、この先メドレーがどんな一手を打つのか。日本の医療の未来を占うその動きに注目が集まる。

 

 

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メドレーの提供する「CLINICS」シリーズは、医療機関を対象としたクラウド診療支援システム。「CLINICSオンライン診療」では、予約、事前問診、ビデオチャットでの診察、決済、薬・処方せんの配送をワンストップで完結できる。「CLINICSカルテ」では、ユーザインターフェースにこだわったデザインを採用し、レセプトソフト「OCRA」を内包、さまざまな医療機器とシームレスに接続できる。「CLINICS予約」では、患者が24時間365日いつでも予約でき、医療機関はさまざまな導線からの予約を管理できる。 【URL】 https://clinics-cloud.com/

 

 

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病院等への移動時間や待ち時間を気にすることなく、iPhoneやMacなどのデバイスで診察を受けて、薬や処方せんも自宅で受け取れるオンライン診療アプリ。

af_med_09.jpg CLINICS

【開発】 Medley, Inc. 【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

 

メドレーのココがすごい!

□ オンライン診療・クラウド型電子カルテ「CLINICS」導入に取り組む
□ 国内先行事業者として行政と連係、厚労省受託事業へも取り組む
□ 「空中戦」「地上戦」の戦略で日本の医療の改革を推進



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