IT・ICTでアップデートされる「街中のクリニック」の進化系|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

IT・ICTでアップデートされる「街中のクリニック」の進化系

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

虎ノ門に誕生した、近未来がテーマの「チームメディカルクリニック」。IT・ICTの力で医療をアップデートするものだ。忙しいビジネスパーソン向けに、ツールやアプリを駆使して待ち時間を限りなく省き、かかりやすさを追求する。医療のかかり方が大きな社会問題になる中、テクノロジーは解決策になり得るのだろうか。その現場を取材した。

 

 

虎ノ門にある近未来クリニック

東京のビジネスの中心地・虎ノ門。駅からほど近い場所にある医療機関「チームメディカルクリニック(TEAM MEDICAL CLINIC)」は、まるで洋服のセレクトショップと見紛うような外観だ。実際、同クリニックはその外観から内装、来院者の健診着、さらにはスリッパに至るまで、セレクトショップを運営する株式会社ビームスの南雲浩二郎氏(ビームス創造研究所・クリエイティブディレクター)がプロデュースし、医師の白衣とスタッフのユニフォームも同社の医療ブランド「ビームス・メディカル(BEAMS MEDICAL)」を採用している。

 

 

虎ノ門にあるチームメディカルクリニック。医療法人社団天太会が2019年に既存の医療機関をリニューアルする形で開院。1Fは外来診療、2Fは健康診断・人間ドックの施設になっている。IT・ICTにより医療のムダを省くことを目指す。

 

 

クリニック内にチラシなどの貼り紙はなく、大型ディスプレイがその機能を代替している。映し出されるのはその日に受診可能な科の案内であったり、フリーWi-FiのIDとパスワードだったり—。一般的な病院であれば雑誌が置かれているであろうラックには、数台のiPadが並べられており、雑誌読み放題サービスである「dマガジン」の画面が覗く。

ここは都心に勤めるビジネスパーソンの「かかりやすさ」をIT・ICTの力で最大化したスマートクリニックだ。WEB予約やWEBでの事前問診、フラッと立ち寄った場合はiPadによる問診システムやメールによる呼び出しシステムを活用し、待ち時間は最小限。仕事や予定の前後、合間にも立ち寄りやすい。スマホアプリによる検診結果・服薬情報の確認で、再訪のハードルも下げている。

このような最先端のクリニックは、いかにして誕生したのか。そして、これは新時代のスタンダードになっていくのだろうか。生活者の病院のかかり方が社会問題になる中で、テクノロジーの力でその解決を図る同クリニックについて、特別顧問である東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座准教授の石橋敏寛医師に話を聞いた。

 

 

1994年東京慈恵会医科大学卒業。1996年同大学脳神経外科学講座入局。国立循環器病センター脳血管外科を経て、2013年に同講座准教授に就任。2016年よりチームメディカルクリニックの特別顧問。

 

 

待ち時間のムダを省く

なぜ、IT・ICTがクリニックに必要なのか—従来の医療機関にはいくつかの問題点があると石橋氏は指摘する。その1つが、多くの人に病院を敬遠させる「待ち時間」だ。

「受付もそうですし、会計も時間がかかる。これは患者さんにとって大きなストレスになり得ます。一方でこのムダは、IT・ICTによる合理化により省ける。当クリニックはそのために誕生しました。オンライン予約や患者さんスマホへの呼び出しシステム、待合室でのiPad問診など既存ツールを活用して、診察までのフローを合理化しています」

同クリニックの中心となる患者は、虎ノ門周辺に勤務する40~50代の男性ビジネスパーソン。来院数は日に50~60人ほどだ。忙しく、病院に来る時間をあらかじめ取りにくいため、ほとんどが飛び込みで来院する。呼び出しまではオフィスやカフェで仕事を続け、待合室ではiPadで問診を済ませる。すると、診察は医師の手元に患者の情報が集まった状態でスタートできる。時間を効率的に使えるこのシステムは、患者だけでなく、医療者からの評価も高いそうだ。

「iPadでの問診がいい例ですが、従来は待合室で紙の問診票に記入してもらって、電子化するときはそれをPDFにしてスキャン…といったフローでした。これは医療者側にとっても負担が大きい。クリニックにおけるIT・ICT化は、患者と医療者双方にとってメリットがあるものです」

同クリニックでの健康診断結果や服薬情報、診察時の画像(X線写真やCT・MRI画像など)は、アップルのモビリティパートナーである株式会社アルムが提供するスマートフォンアプリ「MySOS」に登録し、あとから自分のスマートフォンで確認できる(希望者のみ)。同アプリは救命・救急補助スマートフォンアプリとして誕生したが、このように自分の医療情報を自分で管理するためにも利用できる。

また、医療者間の連絡もアップデートされている。アルムが提供する医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」により、同クリニックのスタッフ間の連絡ができるほか、石橋医師の所属する慈恵医大とも連係。同クリニックでの判断が困難な場合、即座に慈恵医大へ内容を共有可能だ。大学病院の専門医の診察を、虎ノ門にいながら受けることができるとも言える。

こうしたツールを利用するために、同クリニックには10台前後のiPadが配備されているという。

「大学病院はやはり患者数が多く、たとえばMRI撮影の予約が一杯で、すぐに患者さんの状態を検査できないことがあります。そんなとき、連係先であるこのクリニックに来てもらえば、撮影した画像を大学病院でも確認できる。『また別の日に(撮影に)来てください』と患者さんに言わずに済み、危険があれば早期に発見する。これは合理化のみならず、医療をより良くする連係です」

 

 

チームメディカルクリニックでは、健診着やハンカチ、スリッパ、トートバックに至るまで、セレクトショップを運営するビームスの南雲浩二郎氏(ビームス創造研究所・クリエイティブディレクター)がプロデュースしている。

 

 

「フラッグシップ」の横展開

同クリニックは、その前身となる医療機関が2016年にオープン。今の形には2019年10月にリニューアルされた。「街中のクリニック」をアップデートする同クリニックの今後の展望は—2016年から参画する石橋医師は、「当クリニックをフラッグシップに、同様の医療機関を横展開していくこと」とする。

「当クリニックはオフィス街の中にあります。でも、多くのビジネスパーソンは夜になればベッドタウンに帰り、休日はそこで過ごします。ベッドタウンにも同様のクリニックがあれば、患者さんの情報をシームレスにやりとりし、より便利に、ムダを省ける。まだまだ試行錯誤をしながら新しいモデルを築いている最中ですが、このような医療施設を各地に広げていきたいですね」

ただし、課題も多い。たとえば、連係先とはいえ別施設であるため、慈恵医大と同クリニックで電子カルテの共有はできず、すなわち医師の目を通した詳細な記録はそれぞれの施設で取り直すことになる。石橋医師の話した展望が実現するまで、本当の意味で「医療のムダを省く」ことは難しいかもしれない。しかし、同医師は「大学病院と比較して、小回りがきく。PDCAサイクルが速く、日々改善されている」と、決して悲観的ではない。

また、医療のIT・ICT利用といえば、オンライン診療が注目のトピックだ。これが普及しても、場としてのクリニックは必要だろうか。これについて石橋医師は「遠隔診療は便利で普及してほしいが、そこに『空気感』はない」とする。

「医師は視診・聴診・触診など、実際の患者さんの体を見て、その音を聴いて、触って、診察をします。やはり、ビデオ画面だけの遠隔診療に向かない分野はある。実際に対面してようやくわかる空気感と呼ぶべきものが診察に不可欠なケースを考えると、リアルな場としてのクリニックの進化も必要です」

慈恵医大で長年、IT・ICT医療に取り組む石橋医師は、スマートクリニックを「時代の流れが生んだ必然」だと表現する。内装だけでなく、存在自体が「近未来」を体現するチームメディカルクリニック。街中で見かける機会が増えれば、それは医療のアップデートが着実に進んでいることを示している。

 

 

株式会社アルムと東京慈恵会医科大学附属病院の共同研究により開発された医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」。本アプリは、薬機法における医療機器プログラムとして認証され、保険診療の適用が認められている。

Join

【開発】 Allm Inc. 【価格】無料(利用には別途契約が必要)
【場所】App Store>メディカル

 

アルムと東京慈恵会医科大学附属病院の共同研究により開発された救命・救急補助スマートフォンアプリ「MySOS」。外来・健診両方に導入すると、患者は健康診断結果や服薬履歴をスマホに保存、いつでも確認できるようになる。

MySOS

【開発】 Allm Inc. 【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

 

チームメディカルクリニックのココがすごい!

□ クリニックの「かかりやすさ」をIT・ICTの力で最大化している
□ ツールやアプリを駆使して、病院の待ち時間を限りなく短縮
□ スマートクリニックを横展開することで、医療のムダを省く