今、教育界で着々とその地位を確立してきているのが、“ネットの高校”として2016年に誕生したN高等学校(N高)だ。2019年には生徒数がネットコース(通信制)と通学コース合わせて1万人を突破し、日本最大規模の高校へと変貌を遂げた。全日制の普通科を辞めて、わざわざN高に転校する高校生もいるほどだという。今回はN高通学コースが持つ魅力に迫る。
N高だったら通いたい
学校法人角川ドワンゴ学園が2016年4月に開校したN高等学校(以下、N高)の勢いが止まらない。インターネットを活用して学ぶ通信制高校として誕生した同校は、2019年9月時点で生徒数が1万1135名を突破。日本の全日制高校の中において生徒数が多い高校は4000名ほどなので、いかにこの数字が驚異的かを実感できる。
そんなN高であるが、2017年4月からキャンパスを設け、「通学コース」を開始している。初年度は代々木キャンパス(東京都)と心斎橋キャンパス(大阪府)の2校でスタートしたが、現在は全国13カ所に増加。2020年4月には19カ所にまで拡大する予定だ。全生徒数のうち、通学コースに通う生徒は1600名ほどで、全体の1~2割であるが、今後はさらに増える見通しだという。
N高の通学コースとはどのようなものか。特徴的なのは、オンラインの動画講座で効率的に学べる学習環境と、対面式で取り組む「プロジェクトN」という課題解決型学習を提供していることだ。教科やプログラミングなどの知識習得は、ITのメリットを活かして、いつでも・どこでも自分のペースで学習を進められる。一方で、学校では対面だからこそできるプレゼンテーションやディスカッション、協働制作などに取り組むという具合だ。
同校の御茶ノ水キャンパス長の名倉健悟氏は「開校当初からN高だったら通いたいというニーズが保護者や生徒から寄せられました。生徒たちは、さまざまな特技や個性を持っている仲間に出会えることで、自分も刺激を受けながら成長できるのが良いと話してくれています」と語る。
N高では通学コースに通う生徒全員に対して、自前でMacBookを用意してもらっている。その狙いは何か。
「iOSアプリが作れるということがメリットのひとつです。N高ではプログラミングが必須カリキュラムなのですが、今の時代はアプリを開発するにあたってiOSアプリは外せません。またMacBookは環境構築もしやすく、全員に対して同じ指導ができるのも大きいですね。ウィンドウズでは機種ごとに環境が異なりますから」(名倉氏)
ほかにも同校では、コミュニケーションツール「スラック(Slack)」を生徒同士や生徒と教師間で使用するほか、成果物の管理やキャリアシートなどには学習プラットフォーム「Gスイート・フォー・エデュケーション(G Suite for Education)」を活用している。また、プログラミング以外にも、アドビシステムズが提供する教育機関向け「アドビ・クリエイティブ・クラウド(Adobe Creative Cloud)」がコンプリートプランで使用できるなど、スキルを伸ばす環境も充実している。
今回訪れたN高等学校の御茶ノ水キャンパス。週1コースと週3コース、週5コース合わせて約100人の生徒が通学しているという。 【URL】https://nnn.ed.jp/commute_course/campus/ochanomizu/
御茶ノ水キャンパス長の名倉健悟氏。学校のミッションである「生徒の“好き”を社会で役立つ力に」を実現するために、生徒一人一人の目標や好きなことに向き合う。「特定の領域では、生徒のほうが詳しいくらいで、私が教えてもらうことも多いです」と名倉氏。
授業の中で〝何かを見つける〟
そんなN高通学コースの授業とは、いったいどのようなものか。御茶ノ水キャンパスの「プロジェクトN」の授業を見ることができた。
この日は、「ヘルスケアゲームを作ろう」をテーマにしたプロジェクトが始まる最初の授業。生徒たちに与えられたミッションは、正しい健康管理方法を理解して、ユーザの健康意識を高めるゲームを企画・立案するというもの。2カ月間のプロジェクトとなり、見学した日は生徒たちが同分野に対して興味・関心が持てるよう、睡眠や食事、運動など健康に関する基本的な知識や、最近のトレンドなどを学んだ。
といっても、いわゆる普通の高校で見られるような、生徒全員が前を向いて座り、教師が書いた板書を写すような風景はどこにもない。教師はスクリーンでスライドを見せながら、“生のバナナと、フルーツジュースにしたバナナはどちらが体に良いか”といった質問を投げかけ、生徒たちは自由にディスカッションを行う。手持ちのMacBookで情報収集をする生徒もいれば、自分の経験談を話す生徒もいたりとさまざまだ。
途中で、ある生徒が「似たような話をTEDトークで聞いたことがある」と発言すると、教師は「あとで皆が見れるように、URLをスラックに投げておいて」と返す。生徒たちは、どのようなゲームを作るのか、ヘルスケア産業における課題は何か、ディスカッションをとおして、作りたいもののアイデアを膨らませていた。
名倉氏は、このような「プロジェクトN」の授業を通じて「自分の目標を見つける生徒も多い」と話す。N高入学時に自分が何をやりたいのか、何を目指したいのかが決まっていない生徒は必ずしも少なくない。プロジェクトNの授業を経験していく中で、自分の興味・関心を広げ、探究心や目的意識を高めているという。
実際に、プロジェクトNの授業がきっかけで、活躍の場を広げた生徒がいる。N高に通って1年になる佐藤直人さん(3年生)だ。佐藤さんは「マイクロホンを用いた筋電位によるバーチャル筋電義手とアプリケーション」という作品を共同開発し、独創的な発想を持つ人材を育成する総務省のプログラム「異能vation」において表彰された。ハンディキャップを抱える人を支援するアプリを提案しようというプロジェクトNの授業をきっかけに、この作品の開発に興味を持ったと佐藤さんは話す。
名倉氏は「授業の中で何かを見つけてくれる生徒がとても多いです。どんなことでも目的意識を持って取り組んでくれる姿を見られることは、とてもうれしいことですね」と語った。
課題解決型学習である「プロジェクトN」の授業風景。教室には高1から高3までの、年齢の異なる生徒がともに席を並べ一緒に学ぶ。N高では全員がMacBookを所持し、授業中は自由に使える。機種については、必要なスペックさえ満たしていればOK。中には、iPadとMacBookの2台を学習に活かす生徒も。
生徒をサポートする“伴走者”
生徒たちはN高での学びをどのように感じているのだろうか。佐藤さんに話を聞いた。
佐藤さんは高校2年生のときにN高の存在を知り、もっと自分の時間を有効に使いたいと同校への転校を決めた。
「前の学校にいたときに、金融やフィンテック、ブロックチェーンに興味を持ち、いろいろと調べ始めました。プログラミングもその頃に始めたのですが、もっと勉強したかったんです。この分野を深めるためには、自分の時間を有効に使わなければならないと思ってN高へ来ました」(佐藤さん)
佐藤さんはN高での学びについて「自分のペースで教科の学習を進められるところや、自分のやりたいことに対して学校のサポートがとても手厚いところが魅力的です」と語る。N高では、学期に2回のコーチングと、TA(Teacher Assistant)とのグループ面談が週1で用意されており、自分の目指す姿や目標に対して、今何をすべきかを一緒に考える。生徒たちと一緒に走る、“伴走者”の存在を大切にしているというわけだ。
N高が教材指定するMacBookはどのように使っているのだろうか。佐藤さんは、学校のレポートを書いたり、オンライン講座を受けたり、プログラミングをしたりと日常的に使用しているという。ただし、佐藤さんはMacBookとiPadの2台持ちだ。
「最近では、プログラミングをするときにサイドカー機能を使ってiPadをサブディスプレイにしています」
佐藤さん曰く「自分の周りでもサイドカーは結構、使っている人が多いかも…」とのこと。N高では、生徒同士で流行について話すのと同じように、ガジェットやテクノロジーの話題が良く出てくると教えてくれた。
N高は今後、高校だけでなく中等部への取り組みも強化させていく。すでに2019年4月から通学型の「N中等部」を開校させており、さらに2020年4月にはN中等部の通信制コースを新たに開設する予定だ。“もっと早くN高に入りたかった”という声が大きかったというが、世の中は今、子どもたちがより多様に学べる環境を求めている。N高はその受け皿であり、そこで終わらない何かを秘めている。いずれは、日本の教育を変える存在へと進化するはずだ。
N高では国語・数学などの教科学習に加え、プログラミングやコンピュータのスキルに関して、すべてオンライン教材で効率的に学べるのが特徴。N高入学時はコンピュータに触ったことがないという生徒に対しても、電源の入れ方やタイピング講座など初歩から体系的にコンテンツが網羅されている。教材はすべて、教材制作の専門チームが作成しているため、教師は教えること、生徒と向き合うことに専念できるという。
N高通学コースに通う高3の佐藤直人さん。中学生のときにiPod nanoを持ち始めてからAppleユーザへ。今後は大学へ進学するとともに、ブロックチェーンや金融の知識を深めて、起業したいと夢を語ってくれた。
N高通学コースのココがすごい!
□N高全体で生徒数1万人を突破している中、通学コースも着実に数を伸ばしている
□ITのメリットを最大限に活かした個別学習環境と、対面式でしか学べない学習を重要視している
□生徒の目標ややりたいことに向けて共に走る“伴走者”のように寄り添っている