教育・医療・Biz iOS導入事例

iPadで窓口応対がスムースに! 変わる「役所」と「市民」の関係

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

東京・町田市役所では現在約330台のiPadを導入し、さまざまな業務に活用している。その中でもユニークなのが、窓口業務に活用していることだ。市民の意見や相談が理解しやすくなり、「共感」を呼ぶ窓口応対が可能になり始めている。

 

民間企業とは違うICT化

東京都・町田市役所では、iPadを約330台導入して、行政業務のICT化を進めている。しかし、ICT化の狙いは、一般の企業とは大きく異なっている。民間企業でICT化を進める場合は、まず業務効率化が第一の目標になる。業務効率化によって生まれた余裕で、新規ビジネスの創出や働き方改革という次のステップに進むというのが常道だ。これは、一般企業の目的が利益の最大化にあるからだ。

ところが、地方公共団体は利益を追求する組織ではなく、「住民の福祉の増進」が第一(地方自治法)。おのずと、ICT推進の狙いや手法は変わってくる。町田市役所では、「情報システム部門が主導する」のではなく、「段階ごとに現場の意見を聞きながら」という手法でICT化を進めている。かと言って「10年後には…」などとのんびりしたことは言っていられない。スピード感も重要視しながらiPad導入を進めてきた。

町田市役所が最初に5台ほどのタブレットを試験購入したのは2011年。初代iPad発売から数カ月後のことで、試験導入とはいえ動きは早かった。導入の狙いは「モバイル化」だったが、具体的にどのように活用できるのか明快なプランがあったわけではない。機種もiPadだけでなく、アンドロイドやウィンドウズ8端末なども混ぜ、機種選定の検証も兼ねていた。

「タブレットの登場を見て、世の中の流れがモバイルになることは明らかでしたので、検証だけは早めにやっておくべきだと考えました。それでどんなメリットが生まれるかも含め、確かめておきたかったのです」(町田市役所総務部情報システム担当部長、中田直樹氏)

試験導入中、アンドロイド端末は同じOSを使っていても、メーカーによる機種依存が強いと感じたという。MDM(モバイル端末管理)ソリューションを検討しても、ある機種はOKだが、ある機種はNGというようなことがある。同じアンドロイドでも複数メーカーが混在する環境は、管理コストを上昇させるばかりでなく、情報セキュリティ上も好ましくないと判断した。結果的に、1メーカーで同じ機種に統一でき、OSのアップデート対応も一定期間保証されるiPadに機種が絞られていった。

その後、情報システム課はiPadの業務適合性の検証に入った。実際の業務で使ううえで問題がないか、どのように活用できるかの検証だ。

ここで興味深いのは、「iPadの使い方のアイデア」を庁内から公募したことだ。この頃には、多くの職員がプライベートでスマートフォンやタブレットを使っていた。情報システムが独断で使い方を決めるのではなく、庁内に広く意見を求め、それを集約しながら導入計画を進める。ここが町田市役所方式の大きな特徴だ。

この中で出てきたのが、会議のペーパレス化と窓口業務での利用だった。会議のペーパレス化についてはもはや説明不要だろう。役所というのは膨大な紙資料を扱うため、その効果は大きい。

もう一方の窓口業務での利用も、職員から求める声が多かった。さまざまな情報をその場で調べて画面を提示することで、窓口応対の質的向上につながるのではという意見が集まった。

 

 

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2012年に新しくなった町田市庁舎。広く明るいロビーがあり、コンビニなどもある。ICT化が大きく進み、市役所と市民の関係が変わるきっかけになった。

 

 

100台配付による大規模検証

このような意見集約を経たうえで、2014年、町田市役所は100台規模のiPadを試験導入することになる。部長会議に出席する管理職、政策系管理職、窓口業務を行う出先機関などにiPadが配付され、実践的な検証が行われていった。

「実は、2013年にも希望するセクションに1台ずつiPadを配付したのですが、それでは活用が進まないということがはっきりしました。やるのであればもっと大きな規模で配付し、通常業務の中に組み入れてもらわなければなりません。だから、100台とはといえまだ試験導入の段階。ここでさらに具体的な業務適合性を検証しようと考えました」(中田氏)

ここでも、町田市役所はあるユニークな検証方法をとった。一般企業であれば、「紙の削減は◯◯円」「残業代削減は◯◯円」と金額に換算する数値化を行うことが多い。地方公共団体も、税金で運営する以上コスト削減は重要だが、それだけでは済まされない。最終目標は「住民の福祉の増進」なのだ。

「私たちは定期的に職員にアンケートを取ることで、iPadの導入効果を把握していきました。結果はほぼ想定どおりになっています」(中田氏)

2017年に行われたアンケートでは、「場所を選ばず業務ができるようになった」という答えが86%、「紙の印刷枚数が減った」という答えが79%という結果に。また、iPadが役に立ったと感じるシーンを問うた回答では、90%の人が「ペーパレス会議」を上げている。

 

 

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町田市役所総務部情報システム担当部長、中田直樹氏(左)と情報システム課長、黒澤一弘氏(右)。「用途は現場の声を聞く」「早め早めの検証」という2つの指針で、ICT導入をスピーディーに進めている。

 

 

市民との関係性が変わる

iPad導入は、窓口業務でも大きな効果があったと職員たちは実感しているという。

「たとえば、市民の方から『通学路でヒヤッとしたことがある』という声掛けをいただくことがあります。以前では住宅地図などを取り出して、『この場所ですね』と確認することしかできず、なかなか市民の方の思いが職員に伝わりませんでした。でも、iPadがあると、グーグルアース(Google Earth)を使ってその場所を一緒に見ることで、職員は市民の方の体験や思いを受け止めやすくなりました」(町田市役所総務部情報システム課長、黒澤一弘氏)

市民からの意見や要望をただ聞くだけではなく、「共感」することが大きく増えた。職員と市民が同じ画面を見ることで、同じ目線を持つことができるようになったのだ。

「今まで、地図や公的資料を手に市民の方のご相談を受けても、私たちの理解が追いつかないことが多々ありました。そんなとき、市民の方はなかなか気持ちが伝わらない苛立ちを感じられていたと思います。それがiPadを介して、具体的な情報や写真、映像を見ながら話をうかがうことで、お互いに気持ちが解けていく一体感を得られるようになりました」(黒澤氏)

これはとても小さなことに見えるが、黒澤氏は町田市にとって大きなことかもしれないと言う。市役所に相談することが市民にとって良い体験になるだけでなく、職員も自分の仕事が市民の役に立っていると実感でき、働く喜びを感じられる。まだそれは一部で起きていることにすぎないが、市役所全体に広がっていく予感を持っているそうだ。

市民からの相談に共感し、理解を得ながら施策を進められる。これは市民の要望に最短距離で応えることになり、最高の業務効率化にもつながっていく。

2016年には約330台の本格導入をし、管理職全員がiPadを持つようになった町田市役所。今後も必要なところに導入を進めていくが、4000人近い全職員への「1人1台」は目指さないという。iPadの存在が意味のある部署に導入をしていくという考え方だ。

中田氏は、今後に関しては5年先までしか考えないようにしているという。

「10年先は大きく世の中が変わっているでしょうから、使うべきシステムやデバイスは5年スパンくらいで考えています。大事なのは、それを業務にどう活かすか。そこは現場の声を大切にしていきたいですね」(中田氏)

新しいデバイスが登場したら、小規模の検証は早め早めに行い、導入は目的を決め込むのではなく現場の声を聞く。この方針で、町田市役所はICT推進をスピーディー、かつ効果的に行っているのである。

 

 

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会議のペーパレス化には、富士ソフトが開発した「moreNOTE」ア プリを活用中。PDF化した会議資料をクラウドに保存し、各自のiPadで閲覧することができる。

 

 

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町田市役所の窓口業務で活躍している「Google Earth」。市民の方と画面を一緒に見ながら、地域の相談などに役立てている。

 

 

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筆談パット

【開発】Catalystwo Limited
【価格】無料
【URL】App Store>仕事効率化

 

口で重宝しているのが筆談アプリ。耳の不自由な方とのコミュニケーションもこれがあれば問題ない。このほか、翻訳アプリなども活用している。

 

 

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町田市ごみ分別アプリ

【開発】町田市
【価格】無料
【URL】App Store>ライフスタイル

 

町田市はスマホアプリの開発にも積極的だ。ゴミ収集日、分別の方法などが一目でわかるゴミ分別アプリを公開している。

 

 

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まちピカ町田くん

【開発】町田市
【価格】無料
【URL】App Store>ライフスタイル

 

道路に危険箇所などを発見したときに、写真で報告できる独自アプリ「まちピカ町田くん」。役所と市民が協力する関係に変わろうとしている。

 

町田市役所のココがすごい!

□現場の声を聞きながらタブレット導入実験を進め、330台ものiPadを活用中
□窓口業務でiPadを利用し、職員と市民の一体感あるコミュニケーションを促進
□独自のアプリも積極的に開発するなど、暮らしやすい街づくりに努めている



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