iPad学習の効果は、子どもたちが“チーム”で補い合うこと|MacFan

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iPad学習の効果は、子どもたちが“チーム”で補い合うこと

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

挑戦のない教師に前進はない。同じく、挑戦のない学校に未来の姿を描くことなんてできない。そんな思いで日々のチャレンジに挑むのが、関西大学初等部の堀力斗教諭だ。iPadがもたらす多様な手段を武器に、子どもたちの可能性を引き出す姿に迫る。

 

挑戦を求めて私立学校へ

「情報機器が揃っているのがうちの強いところ。でも、活用レベルではまだまだ…」。そう言われて悔しかったと話すのは、関西大学初等部の堀力斗教諭だ。同教諭は2016年に前任の情報教育主任から同ポストを引き継ぎ、その際に冒頭のやりとりがあったという。

「私立なのでICT環境が恵まれていると思いますが、それしか強みがないのかと思い悔しくなりました。どうすれば、子どもたちにもっと還元することができるのか。なんとかしたいと思いながらICT活用に力を入れてきました」

堀教諭は、小学4年生から6年生までiPadによる1人1台を実施し、1年生から3年生においても学校共有のiPadを複数で共有する「Shared iPad(共有iPad)」の機能で1人1台を実現、児童たちの探究活動や課外活動などの実績をインターネット上に蓄積する「eポートフォリオ」の取り組みを充実させた。

また、全教員が「iTunes U」を活用して学習コースを作成したり、ICTの公開授業なども積極的に開催した。ほかにも、「エブリワン・キャン・コード(Everyone Can Code)」や「エブリワン・キャン・クリエイト(Everyone Can Create)」といったアップルの教育プログラムにもいち早く取り組み、良質な教育実践も数多く発表している。その結果、堀教諭は2017年のADEに選ばれるとともに、関西大学初等部は2期連続で「ADS(Apple Distinguished School)」にも認定された。

堀教諭のこうしたチャレンジの数々は、まさに同教諭が関西大学初等部へ異動した理由でもあった。

それまで公立小学校に勤務していた堀教諭は、新しい学びへのチャレンジが少ない環境にもの足りなさを感じ、同校への異動を決意。思考スキルの育成や多様な授業スタイルを取り入れる関西大学初等部に魅力を感じ、自分ももっと挑戦してみたいと思ったのだという。

「当時勤めていた公立小学校はとても落ち着いた良い学校でしたが、その反面、自分にとってはぬるま湯に浸かっているような感覚もありました。もっと勉強して、より良いものを子どもに提供したいという想いが強くあり、挑戦できる環境を求めて今の学校に異動してきました」

教師が何かにチャレンジしていなければ、子どもに還元することはできない。堀教諭が関西大学初等部で取り組む実践には、こうした想いが根底にある。

 

 

Apple Distinguished Educator
堀力斗教諭

 

Apple Distinguished Schoolとして認定を受けた関西大学初等部で情報教育主任を務める。1年生から6年生までのOne to One環境を整備し、先進的で創造的な取り組みを学校を挙げて展開中。小学校段階において、いち早くSwift Playgroundsでのプログラミング学習を実践し、外国語活動とプログラミングを組み合わせたカリキュラムも提案している。自称「アイデアマン」。2017年ADE認定。

 

 

学びにオリジナリティを

堀教諭が受け持つ6年生(取材時)の授業では、エブリワン・キャン・クリエイトを体現する学びが多く実践されている。見学した小学校6年生の国語の授業では、各自が撮影した写真を交換し合い、それぞれに選んだ写真から想像を膨らませ、物語の書き出しを考える活動に取り組んだ。児童たちは、写真の説明にならないように注意しながら、物語が先につながるような文章を考えて「ページズ(Pages)」に書き込み、そのファイルを授業支援アプリ「スクールワーク(Schoolwork)」で共有した。

「これまで国語の授業では、スピーチや作文などに子どもたちのオリジナリティを付け加えることが難しかったのですが、iPadを使うようになってからは子どもたちが多様な表現を発揮できるようになりました。子どもたち同士もお互いの作品を見ながら、もっと上手く表現できるようになりたいという気持ちが育ってきていると感じます」

また、音楽制作アプリ「ガレージバンド(GarageBand)」を国語の授業で活用したこともある。詩のイメージに合うBGMをガレージバンドで作成し、それに合わせて詩の朗読を録音したオーディオブックを作成した。単に詩を朗読するのではなく、BGMがあることで児童たちは、まるで演者にでもなったつもりで気持ちを込めて読み上げる。書くのが苦手、話すのが苦手な子どもたちでもiPadを使うことによって表現の幅が広がり、その個性を引き出すことができるという。

ほかにも、昨今はプログラミングの学習にも積極的に取り組んでいるという堀教諭。受け持ちの「プログラミングクラブ」では、ドローンや3Dプリンタを活用したプログラミングを実施する予定だという。またネイティブの教師と協力しながら、誰でもできる外国語活動としてのプログラミングと称して、電子書籍作成ツール「iBooksオーサー(iBooks Author)」を活用した教材づくりにも挑戦している。

 

“チーム”になれる関係

堀教諭が受け持つ6年生のクラス(取材時)は、4年生からの持ち上がりクラスで、同教諭は子どもたちの成長を3年間見てきた。

「当初は、うれしい、楽しいで使い始めたiPadも、今では目的に合わせて、シンプルな使い方ができるようになりました。ICTの活用をとおして、それぞれの役割や個性も理解できるようになり、チームになれる関係が出来上がってきたなと感じています」

たとえば、「キーノート(Keynote)」を使ってRPG(ロールプレイングゲーム)を作ってみたいと話す児童がいたという。ただし、自分は全体の構成を考えるのは得意だが、音楽や絵は苦手。だから、それらが得意な子と協力してやってみたいとサンプルでキーノートのスライドを作ってきたのだそう。

「学校でのICT活用を極めていくと、こういう形になるのではないかと思うのです。子どもたちの得意分野や専門性が出てきて、それぞれの苦手な部分を補いながら、皆でしかできないことをやろうよと。そんな活動が増えてくるのではないかと思っています」

一方、ADEの活動についてはどうか。堀教諭は、ADEに選ばれた人の意識は高く、どの先生も子どもたちのために自己犠牲を惜しまない人が多いのでシンパシーを感じると話す。

「アップルが開催する研修も、レベルが高く、刺激的で、子どもたちに還元していきたいと思えます。プログラミングやアプリケーションデザインを学んだときも、すぐに学校に持ち帰ってやってみようと思いました」

これから目指す先は、ICT活用における研究校としてトップになること。この学校に来たら、さまざまなICT活用の実践が見られるような、そんな学校にしていきたいと展望を語ってくれた。

毎日の挑戦は未来の学校をつくる。安全な場所に固執せず、新しいチャレンジに挑んでほしい。

 

 

見学した国語の授業の内容は、写真から想像を膨らませて、物語の書き出しを考えるというものだった。写真の説明ではなく、物語のつながりを考えて文章を作成しようと堀教諭はアドバイス。児童たちは「Pages」に書き込み、そのファイルを授業支援アプリ「Schoolwork」で共有した。

 

 

堀教諭の国語の授業では、児童たちが詩のイメージに合うBGMを「GarageBand」で作成することも。出来上がったBGMに合わせて詩を朗読しオーディオブックを完成させた。

 

 

児童がサンプルで作成したKeynoteで作ったRPG。同児童はこれを見せながら、音楽や絵が得意な子とチームを作りたいとクラスに投げかけたという。

 

 

誰でもできる外国語活動としてのプログラミングと称して、ネイティブの教師と協力しながら、iBooks Authorを活用してプログラミングの教材づくりにも挑戦。

 

堀力斗教諭のココがすごい!

□公立小学校から私立学校へ異動するなど、常にチャレンジできる環境を求めている
□教科学習に表現活動を取り入れたEveryone Can Createを多数実践している
□ICT活用を通じて、子どもたちにチームで協力することの大切さを教えている