ドローンで世界を翔ける映像作家「竹内佳嗣」|MacFan

アラカルト 林檎職人

「演じる側」から異色の転身

ドローンで世界を翔ける映像作家「竹内佳嗣」

文●大須賀淳写真●黒田彰

アップル製品を使いこなすプロフェッショナルたち。彼らの仕事場にフォーカスし、その舞台裏を取材します。

 

 

( 職人とその道 )

 

竹内佳嗣映像作家

静岡県浜松市生まれ。若き日々を俳優として過ごし、多くの映画やテレビドラマに出演。その後、友人からの撮影依頼をきっかけに映像制作にのめり込むように。2010年代半ばにドローンを使った映像作りを始めると、2017年、2018年の「ドローンムービーコンテスト」において2年連続で特別賞を受賞。世界中を飛び回り、大手ドローンメーカー・DJIのCM制作などにも携わっている。【URL】https://www.hamamatsuo.com

 

 

俳優から映像制作の道へ

遠隔操縦できる複数プロペラのヘリコプター…などという説明が不要なほど、一般への認知が進んだ「ドローン」。その登場により、テレビ・映画からネット動画まであらゆる映像に空撮カットが使われるようになり、間違いなく今という時代を象徴する撮影手法の1つとなっている。竹内佳嗣氏は、そんなドローン撮影を得意とする映像作家。数々のコンテストで入賞するなど、非常に注目を集めている人物だ。

取材のためにお邪魔した竹内氏の仕事場は、一般的な映像制作現場の雑然としたイメージとはかけ離れたスタイリッシュな印象。映像編集もデスク上のMacBookプロ1台で行われており、少し離れて見ると文章執筆などの様子と見分けがつかないほどミニマルだ。映像の世界は、長年続いたテレビや映画といった産業の呪縛から開放され、常識が大きく変化する只中にあるが、ドローンという手法以前に、彼のスタンス全体が新しい時代を感じさせる。

そんな竹内氏は、経歴も非常にユニークだ。映像制作を始める前は「撮られる側」、つまり俳優業に就いており、CX系「ウォーターボーイズ2」などの有名ドラマにも出演していた。その頃は制作にタッチしていないものの、現在につながる素養はすでに芽を出していたようだ。

「当時は機材のことはわかりませんでしたが、画角を考えたりするのはすごく好きでした。出演したシーンをモニターでチェックするときも『このシーンは固定カメラより手持ちのほうがいいのでは…?』と思ったり(笑)」

そんな折、出身地である静岡県浜松市で行われるお祭りの撮影を友人から頼まれたのをきっかけに、徐々に「撮る側」へと移っていく。

「まだ動画撮影に使える一眼レフカメラも出ていない頃で、家庭用のビデオカメラを手持ちで、見よう見まねで作っていました」

その後、「映像をやるならMac」という友人のすすめもあり、初代のインテルiMacを購入した。

「最初はiMacに標準でついていたiMovieで編集を始めましたが、操作がわかりやすかったですね。感覚的なことをうまく表現できるアップル製品に向いていたと思います」

 

衝撃を受けた空撮映像

それからいくつかの映像コンテストに入賞し、友人の結婚式や浜松祭りの撮影が増える中で「何か違うものを撮りたい」という気持ちが芽生え始めた。ちょうどその頃、竹内氏はドローンが使われた空撮映像と出会うことになる。最初に見たのは、森の中をゆっくりと飛行するプロモーション映像。従来の手法では絶対に撮れない迫力ある映像に衝撃を受け、すぐにDJI社の中型ドローン「ファントム(Phantom)2」をレンタルした。都内で飛ばすのは怖いので、旅行先の徳島で川の上に並んだ鯉のぼりを撮影してみたのが始まりだという。

「最初の感想は『うわっ、飛んだ』でした(笑)。ラジコンヘリも操縦したことがなかったので、楽しくてニヤニヤしていたと思います」

ファントム2の操縦には、当時所有していたiPadも使用。iPadはプロポ(コントローラ)と接続することで、専用アプリで映像のプレビューや細かな設定が行えるなど、ドローン操縦において非常に便利な存在となっている。

一方で、フィリピンで撮影した際にはあまりの高温にiPadが固まってしまったり、逆に寒冷地では冷えすぎてバッテリ消耗が急激に早まったりと苦労した経験もあったとか。どれも、過酷な大自然を相手に撮影を試みる彼ならではのエピソードだ。

現在はiPhoneで使えるDJI社の小型ドローン「マビックエア(Mavic Air)」も活用している竹内氏。同じく専用アプリで操作でき、大胆な動きも可能なこちらは入門用にもおすすめだという。さらに、今後はiPadプロを現場確認用のモニターとして使おうと画策中だ。

「ドローンの操縦中は僕が動き回ることもあり、ディレクターやクライアントの方への確認がスマートではありません。そんなときにiPadプロを渡して、ワイヤレスで素早く映像を飛ばして見せることができないか考えています」

iPadプロはその性能の高さから、活用方法は多岐にわたる。それはドローンを扱う彼にとっても魅力的なようで、「ある程度の映像編集はiPadプロで完結できるのかも」と目を輝かせていた。

そんな竹内氏は作品を発表する中で、ドローンメーカー・DJIから直々に声をかけられ、公式ビデオのディレクターを務めることに。好奇心から飛び込んだドローンの世界で、日本を代表するクリエイターの1人となった。

 

( 職人と環境 )

 

 

DJI 社の小型ドローン「Mavic Air」で屋内を撮影中の竹内氏。プロポ(コントローラ)に装着したiPhoneに専用アプリ「DJI Go 4」をインストールして、カメラのプレビューや設定・コントロールが行える。

 

現在、竹内氏が使っているドローンは主に2機。右の白いモデルはメイン機のDJI「 Phantom 4」(【価格】14万9000円~)。現場の写真でも使われていた左の黒いモデルは「Mavic Air」(【価格】10万4000円~)。

 

映像編集にはMacBook Proと「Adobe Premiere Pro」を使用。映像クリエイターの仕事場にありがちな「機材だらけ」感のないミニマルな環境から、観る人の心を動かす作品が生まれている。

 

竹内氏が愛用するApple製品の数々。iPad miniには、自動小銃のマガジン(弾倉)と同じ素材が使われたマグプル社製のカバーを装着。過酷な状況が多いロケ現場でもあらゆる衝撃からガードしてくれる。

 

机上には、ニューヨークの名門スタジアム「マディソン・スクエア・ガーデン」の小物入れや、ヨーロッパの灯台を象った小瓶など、竹内氏が魅せられた撮影対象をモチーフにしたキュートな小物が並べられていた。

 

 

主張を抑えつつ印象的に

企業や自治体などから多数のオーダーを受ける中、竹内氏は自分自身の感性に沿ったテーマの作品も精力的に作り続けている。昨年にはヨーロッパの灯台をモチーフにした作品を撮影。今一番の夢は「世界中のスタジアムの空撮動画集と写真集を作ること」なんだそう。竹内氏は車で偶然通りかかったような先でも、気になるモチーフが見つかれば撮影交渉をしたりと常に積極的な姿勢が貫かれている。

現在はテレビ等でもドローンの映像を頻繁に目にするが、竹内氏の作品からは「静かさ」と「躍動感」が同居するような、不思議なエモーショナルが感じられる。

「ドローン映像のカメラワークは真っ直ぐ飛ばす、が基本。どの動きが映像映えするかを常に考えながらフライトしています」

この言葉を聞いて作品を観ると、たしかにトリッキーな動きなどはほとんど見られず、それでありながら飽きのまったくこない「風景の切り取り」がされているのを確認できる。俳優時代から片鱗を見せていた映像センスが、開放の場を得て存分に発揮されているといえるだろう。

「主張は強くないけど、印象的な画が好きです。いわゆる“カッコつけてる”画はあまり好みじゃないですね」

竹内氏は「技術にはそれほど詳しくない」と語るように、機材や手法が先ではなく、好奇心や表現したいテーマにベストマッチするデバイスを自然に選んでいるように見える。それは、長年クリエイターに愛されてきたアップル製品の根底にある性質と一致しており、表現者とデバイスとの「幸せな関係」の好例だ。そこから生まれた作品は、カットや編集、選曲などからも世界観が滲み出るものばかり。ぜひ動画サイト等で視聴して「感じて」もらいたい。

 

( 職人と作品 )

 

 

竹内氏と関わりの深いドローンメーカー・DJIとのコラボレーション作品。短編映画「With My Eyes」では映像監督と空撮を担当。DJI JAPAN初めてのCM作品「思い出を飛ばそう」にも空撮で参加した。

 

エコパスタジアム PV(上)/浜名湖弁天島花火フェス2018 PV(下)

清水市にあるエコパスタジアムPVなど、地元・静岡に関連した作品も多い。これらは企画から空撮、編集まで1人で行ったという。

 

スチール撮影も行う竹内氏。上は沖縄県の座間味島で撮影した空撮写真。俯瞰アングルで美しいグラデーションを捉えてみせた。

 

150周年日本灯台 PV

竹内氏が日本各地から独自に選んだ20の灯台をモチーフにしたPV。商業的な映像・写真のほかにも、自らのアンテナにヒットしたテーマを扱った作品をコンスタントに制作している。