一人一人の答えを導く「未来の教室」での学び|MacFan

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一人一人の答えを導く「未来の教室」での学び

文●山田井ユウキ

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

知識の詰め込みではなく、知識の活用と課題発見解決力の育成を目指す経済産業省の取り組み「未来の教室」。実証事業者として協力するのがZ会、そして私立日本大学三島中学校だ。同校の実証事業の成果について、生徒自身が発表する会が2019年1月に開催された。

 

 

「未来の教室」をつくる

「第4次産業革命」「人生100年時代」「グローバル化」、こうしたキーワードが取りざたされる中、世界は能力開発競争の時代を迎え、各国で“学びの革命”が進んでいる。そうした中で、将来の日本を担う人材を育成すべく経済産業省が主導して進めているのが「未来の教室」実証事業である。新たな学びを可能にするエドテック(EdTech)の開発・実証を進め、国際競争力ある教育サービス産業群を創出するために、全国の学校で実証事業が行われている。

2000台以上のiPadを導入している静岡県三島市にある日本大学三島高等学校・中学校は、ICT教育に力を入れており、中でも日本大学三島中学校(以下、日大三島中)は今回の実証事業の協力校だ。同校はZ会のオンライン講座「Z会 アステリア(Asteria:以下、アステリア)」を採用するなど、意欲的に先進的な教育を行っている。今回は実証事業者であるZ会と連係し、「総合的な学習の時間」を使って探究学習活動に取り組んだ。

2019年1月18日、約4カ月にわたる同活動の成果発表会、および「アステリア」を活用した協働学習授業のデモンストレーションがZ会本社にて行われた。会場にはZ会、日大三島中関係者のほか、生徒たちの保護者やメディアが集まり、注目度の高さがうかがえた。

登壇したZ会・上席執行役員事業部長の菅亮一氏は成果発表に先立ち、「今、学校で習っていることがずっと正しいかはわからない。学ぶ内容は変わっていくし、教科書に書かれているのはあくまでも“今正しいと思われていること”にすぎない。重要なのは学び方や学ぶ姿勢である」と探究学習活動の趣旨を説明する。

「未来の教室」が目指すのは、誰もが「創造的な課題発見・解決力」を育むことのできる教育だ。かつて日本が長らく重視してきたのは、一定の知識を持った均質的な人材を育成すること。それが“詰め込み型教育”と批判されたことで、一時は個性重視の“ゆとり教育”に移行するなど試行錯誤を続けてきた。

もちろん、今もなお知識の習得は重要である。しかし、単純に知識を記憶するだけなら、もはやコンピュータのほうが圧倒的に有利だ。苦労して覚えた知識も“ググれ”ばすぐに出てきてしまう。

日大三島中の竹中朝崇教頭は「今の時代に求められるのは、基礎的な知識を習得したうえで、さらに“知識を活用する力”だ」と話す。加えて“課題を発見して解決する力”や、それを的確に伝えるための“プレゼンテーション力”などがより重要になっていく。それを探るための実証事業が、日大三島中の中学2年生が取り組んだ探究学習活動というわけだ。

 

 

日大三島中は静岡県三島市にある日本大学附属の私立中学校。教科の学びだけでなく、ITスキルやコミュニケーション力、問題発見・解決力といった21世紀型スキルを重視した教育を行っている。

 

 

大人顔負けのプレゼン

探究学習活動には学校の授業である道徳、家庭科、総合的な学習の時間の一部が割り当てられ、家庭科の食生活分野を発展させた探究テーマが設定された。

第一部では3人の生徒が登壇。自らの興味関心から生まれたテーマについて、課題の発見と解決策の提示をプレゼンテーションした。

テーマは「食品ロス」や「満腹時と空腹時の果物の効果」、「食べ物が傷む原因とその対処」と実に多彩で、発表に使用したスライドもイラストやグラフが効果的に使われているなど大人顔負け。テーマ設定から調査の仕方、発表のスタイルに至るまで、生徒たちの人柄や個性が存分に発揮されたものとなっていた。

第二部では、林間学校などの体験をもとに数カ月間かけて調査した成果が発表された。世界文化遺産にも認定された白川郷について調べたり、飛騨高山のご当地グルメである五平餅や高山ラーメンなどについて研究したりと、チームごとにアイデアを出し合って主体的に学んでいったようだ。

その成果は「壁新聞」という形でまとめられ、発表会会場に展示。各班のリーダー役の生徒が15秒間でアピールし、来場者がもっと詳しく内容を聞きたいと思った壁新聞の場所に移動して続きの説明を聞くというユニークなスタイルで発表が行われた。多数の大人を前にした生徒らはさすがに緊張気味ではあったものの、しっかりと自分たちの活動について報告。まさに“プレゼンテーション力”が問われる場となっていた。

発表を見守っていたZ会グループ代表取締役社長・藤井孝昭氏は、生徒らに向けて「調べたり悩んだりする過程で、楽しかったりワクワクしたりしたタイミングがあったはず。その気持ちが大事」とコメント。続けて「これからの教育は変わる。『未来の教室』は今もっとも先進的な学びのトライ。今後は海外などもっと遠くの人や年齢の異なる人と一緒に学ぶ世の中が必ず来る」と語った。

また、WEB中継という形で参加した経済産業省・教育産業室室長補佐の坂本和也氏からは「これからの時代は身近な課題を発見して周りを巻き込みながら解決できる力が必要。教育にテクノロジーを活用して学びの形を変える一助にしていきたい」と期待の声が送られた。

 

オンラインで活発な議論

Z会と日本大学三島中学校が提携して取り組むもうひとつの試みが「アステリア」だ。iPadを活用して学習できるオンライン講座で、一人一人の意欲や状況に合わせた学びを実現できる。成果発表会後半では、この「アステリア」を活用した協働学習授業のデモンストレーションも行われた。

「アステリア」の最大の特徴は、3人の生徒が一緒にオンラインでディスカッションやプレゼンテーションを行えることだ。司会としてZ会のファシリテーターが参加し、生徒らの議論をリードする。資料を読んだうえで、専門のファシリテーターのサポートを受けながら議論を進められるため、事前知識がなくても積極的にディスカッションに参加でき、ほかの受講者とともに課題を解決していくことが可能だ。ディスカッション中、生徒は提示された資料に書き込むこともでき、チャット機能でファシリテーターと個別にやりとりすることもできる。

一方でユニークなのは、生徒全員が同じ資料を参照する必要はないということ。3人の生徒はそれぞれ別の資料を読み込み、議論の前段階としてその内容をほかの2人にわかりやすく伝える。生徒自身の伝達力を磨くことができるほか、一人一人により適したお題を与えられるというメリットもある。

ファシリテーターの役割も重要だ。議論の最中、ファシリテーターからは3人すべての資料の内容と、どういった操作をしているのかが確認できる。適切なフォローを入れながら、うまくリードするのがファシリテーターの仕事だ。

今回のデモンストレーションでは、「1995年から2010年の間に増えた仕事と減った仕事」「技術革新によってもたらされるもの」「人間ならではの仕事とは」という3つのテーマが割り振られ、生徒は各々に与えられた資料を読み込んでから議論するという流れで思考力を養っていた。ときには参加者同士の意見が割れることもあるが、むしろそのほうが議論が面白くなるのだという。ディスカッションを経ることで生徒の回答が変化することもある。それは理解が深まった証だ。

ディスカッションだけならオフラインでも可能だが、オンラインなら遠く離れた人―それこそ海外の学生とも気軽にディスカッションすることができる。また、オンラインによって“顔を見せずに話せる”ことも意外と重要だという。お互いに顔が見えないからこそ先入観を持たないし、中には顔を合わせないほうが話しやすいという生徒もいるという。

小学生や中学生といった早い段階からディスカッションの経験を積むことの重要性はすでによく知られているだろう。「アステリア」は、オンラインならではのメリットをうまく活用して、さらにその有効性を高めることができるのだ。

成果発表会の終わり、日大三島中の竹中教頭は、探究学習活動の取組について、次期学習指導要領に示されている「学びに向かう力・人間性」「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」につながるものであり、これからの教育において重要になってくると指摘した。「未来の教室」と「アステリア」がそのためのひとつのソリューションとなるのは間違いない。

 

 

日大三島中では2017年よりiPadを導入。生徒が1人1台ずつ所有し、日頃から授業や行事などに活用中だ。思考力・判断力・表現力を磨くために必要であり、探究活動において大きな力を発揮している。

 

 

実証事業の成果発表会は日大三島中の生徒が主体となって行われた。司会進行などもすべて生徒が担当。会場に集まった保護者やメディア、学校関係者らを感心させていた。

 

 

成果発表会では、班で作成した壁新聞について生徒たちが来場者に説明する姿も。大人に囲まれて緊張気味ではあるが、しっかりと調べてきた内容について伝えることができていた。

 

 

Z会が開発した「Z会 Asteria」は中高生を対象としたオンライン講座。ファシリテーターのもと、3人の生徒がiPadを使って議論する。オンラインディスカッションのメリットは多数あるという。
【URL】https://www.zkai.co.jp/home/z-asteria/

 

 

日大三島中学校のココがすごい!

□「未来の教室」実証事業に取り組み、創造的な課題発見・解決力を育んでいる
□探究学習活動を授業の中で昇華させ先進的な学びに挑戦している
□iPadとZ会 Asteriaを組み合わせて生徒の思考力を養っている