アラカルト ビジョナリストのスイッチ

創造者たちの革新の流儀⑩「Empath CSO・山崎はずむ」

文●山田井ユウキ

AIを社会に実装するときの倫理スタンダードは、人を巻き込んで議論することだと思います。

【PROFILE】

東京大学大学院総合文化研究科修士課程を修了したあと、スマートメディカル株式会社ICT事業本部に入社。グローバル・マーケティング&セールスを担当し、2015年に株式会社Empathへ加わる。CSO(最高戦略責任者)として、主に海外戦略・営業を担当。「ICT Spring 2018」や「Challenge Cup Japan 2017」、「Accenture Innovation Award」など、国内外の数々のピッチコンテストで輝かしい成績を収める。また、国内のスタートアップ企業同士の連帯を深めるため、2017年7月よりミートアップ・イベント「Tsumugu」を主催。2017年から青山学院大学社会情報学部特別研究員も務める。

そんな山崎氏がスマートメディカルから独立したEmpathにジョインしたのは、大学在学中から通っていた新宿・ゴールデン街での出来事がきっかけだった。飲み屋で働いていた山崎氏は、後にEmpathの代表となる下地貴明氏と出会う。最初は互いの仕事も知らない関係だったという二人だったが、その後スマートメディカルでの経験を経て共にカーブアウト、Empathをスタートさせた。

Empathが手がけるのは、主にメンタルヘルスケアの分野。音声のトーンやピッチなどの特徴から、人間の気分状態を可視化する音声感情解析AI「Empath」を提供する。数万人の音声データベースを元に喜怒哀楽や気分の浮き沈みを半ているAIエンジンだ。

Empathは富士通のパートナーロボット「ユニボ」の感情解析や、株式会社NTTドコモの企業向け気分変動セルフチェックアプリ「じぶん予報」、アラブ首長国連邦内務省などで採用されるほか、ロボティックスやコールセンターなどでも利用される。開発者向けに「WEB Empath API」も公開しており、世界50か国以上で広く使われるなど、先行事例の少ない「音声の感情のAI解析」という領域で新風を巻き起こしている。

 

INTERVIEWER

Appleユーザの中には、未来を形づくるすごい人がいる。本連載は、人脈作りのプロ・徳本昌大氏と日比谷尚武氏が今会いたいビジョナリストへアプローチ、彼らを突き動かす原動力と仕事の流儀について探り出すものである。

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徳本昌大

ビジネスプロデューサー/ビズライト・テクノロジー取締役/ブロガー

 

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日比谷尚武

コネクタ/Eightエバンジェリスト/at Will Work理事/ロックバー経営者

 

 

さまざまな分野に応用できる音声感情解析AI

●徳本 山崎さんは世界中のピッチコンテストで何度も優勝されていますよね。すばらしい実績です。

●山崎 ありがとうございます!

●徳本 私はかつて広告代理店でずっとベンチャー企業の支援をしていました。投資家に短時間で事業計画や将来をアピールするピッチコンテストをたくさん見てきたのですが、CES 2019での山崎さんは実に堂々と話されていて日本人離れしているというか、とにかくずば抜けていました。

●山崎 昨年、僕たちは海外のピッチコンテストで8回優勝しているんですよ。そのうち僕は5回経験していますから、場馴れはしていると思います。

●徳本 でも、ピッチがいくら良くてもそれだけではダメですよね。やはりエンパス(Empath)という会社やプロダクトがいかに期待されているかがわかります。

●山崎 エンパスは「音声感情解析AI」という、なかなかマニアックな製品ですから(笑)、その魅力をうまく伝えられるよう努力しています。

●日比谷 エンパスは、音声データから感情を分析できるサービスですよね。どういったところで使われているのでしょうか。

●山崎 たとえば、現在はNTTドコモと共同で、車載エージェントの研究を行っています。自動車を運転中にエンパスが解析して、感情に合わせた声かけを行うことで楽しく運転できたり、居眠りを防止したりするための音声感情認識技術を開発しています。

●徳本 それは楽しみですね。日本ではまだまだですが、アメリカなどでは人間が車に話しかけるという行為は日常的になっていますよね。

●山崎 そのうち日本も変わってくると思いますよ。たとえば、今当たり前のように行っている「本を黙読する」という文化は、実は明治時代に入ってから定着したものなんです。つまり、それ以前の日本では、声に出して本を読むのが当たり前だった。音声によって人間がアシストされる文化も徐々に定着していくと思います。

●徳本 確かに、スマートフォンという身近なデバイスに音声アシスタントが搭載されていたり、「アマゾン・エコー」などのスマートスピーカも広まってきましたからね。

●山崎 そのほかの採用事例としては、NTTドコモの「じぶん予報」という従業員向けの気分変動セルフチェックアプリや、富士通のコミュニケーションロボットに使われていたりします。また、ユニークな例では、フィットネスクラブのティップネスのアプリに採用されていて、心拍データをエンパスによる音声感情解析とかけ合わせて最適なワークアウトの提案に利用されています。そのほか、面接のシーンで自己紹介の練習用に使われたりもします。

●日比谷 音声は日々の重要なコミュニケーション手段ですから、活用範囲はとても広いんですね。でも、感情と聞くと、音よりも表情のほうが解析しやすいような印象を持つのですが…。音声は方言なんかもありますし、感情が読みづらくないのですか?

●山崎 いえ。実は逆で、表情よりも音声のほうが地域差は少ないと言われています。エンパスでは“何を話しているか”ではなく、話し方のスピードやトーン、ピッチなど音の物理的な特徴を元に解析を行っているんです。ですから、地域差はほぼないんですよ。

●徳本 なるほど。言葉は違っていても、怒ったり、悲しんだり、喜んだりするときの音声はそれほど人によって違いはないんですね。

●山崎 フィリップスのスマート電球「Hue」から音声を拾って、その場の話が盛り上がっているなら暖色に、盛り下がっているなら寒色にするという試験も行っています。

●日比谷 それ、面白いですね(笑)。僕はバーの経営もしているのですが、それを見るとお店での会話の状態がひと目でわかりますね。

 

友だちがいるからビジネスでもセッション

●徳本 エンパスはどのように生まれたのですか?

●山崎 医療・健康サービスを手掛けるスマートメディカルという会社のICT事業部から2017年にカーブアウトしたんです。当初は、患者さんの精神疾患を予兆するためにエンパスという技術を開発し始めたのですが、その後、メンタルヘルスケア以外の領域にも応用範囲が広がってきたので、それなら分社化しようと。

●日比谷 エンパスのアイデアはCEOの下地さんが?

●山崎 そうです。当時、すでに表情からの解析はすでに競合が揃っていましたので、新しい分野である音声解析に注目したんです。

●徳本 山崎さんはいつから関わっていらっしゃるのですか?

●山崎 2014年くらいからですね。

●徳本 下地さんとはちょっと変わった出会いだったんですよね。

●山崎 そうなんです。新宿のゴールデン街で、たまたま同じ店で飲んでいたんです。それから飲み友だちになりまして(笑)。

●徳本 そもそも山崎さんはAIやIT分野が専門だったわけではないと聞きました。

●山崎 そうですね。大学では人文科学で比較文学比較文化を専攻していて、主に文学と哲学を研究していました。ですから、まさか民間企業に入るとは思っていませんでした(笑)。

●日比谷 では、どうしてエンパスに?

●山崎 一番の大きな理由は、友だち(下地)がやっていたからです。「お前ちょっとギター弾いてよ」と言われたからバンドに入る、みたいな感覚です。

●日比谷 (笑)。とはいえ、研究の道を志していたのでは?

●山崎 博士課程の途中でニューヨーク大学の大学院へ留学したのですが、日本に戻ってきたら研究員のポストがぜんぜんないんですよ。研究で生きていくのは、それこそプロ野球選手になるくらいの競争倍率なんです。そんな将来を決める時期にゴールデン街で働いていたら、下地と出会ったわけです。

●日比谷 ゴールデン街は飲みに行くだけじゃなく、働いていたんですね。でも、なぜゴールデン街? 東大を出て、今ベンチャー企業に勤めているという経歴からすると、イメージと合わないというか…。

●山崎 そんなことないですよ。僕の場合、両親が演劇や舞台監督、飲食店経営などの仕事をしていたこともあって、ゴールデン街という場所は子どもの頃から縁遠い場所ではなかったんです。

●日比谷 そうなんですね。




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