第2回 麦100%対決! よなよなエール VS ヱビス|くらしの本棚

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第2回 麦100%対決! よなよなエール VS ヱビス

こんにちは、日本ビール文化研究会の大登貴子と申します。仕事場ではビールの知識を深め・広める日々を送り、自宅では高校生と中学生の球児2人の弁当作りに頭がいっぱいな母です。
早速ですが、みなさんは、定番ビール派ですか?それとも、いろいろ試す派ですか?
定番ビールの安定感も大事ですが、私は、試す派です。
気分によっても、時間帯によっても、天気によっても、料理によっても、飲みたいビールは変わってきます。
最近は、飲食店やスーパー・コンビニに置かれるビールの種類が豊富になったり、インターネットで遠方のクラフトビールを購入できるようになったりと、選べるビールがどんどん広がるありがたい時代です。
そんな時代を思いきり満喫するために、このエッセイでは、いろいろなビールの違いを味わう、「飲み比べの楽しみ」をご提案していきます。

皆様にとって、今年の夏も素晴らしいビール日和になりますように!

今回は、副原料ゼロ、麦芽100%ビールの飲み比べをします。

ビール通の大人たちがビヤバーなどで、「オールモルトタイプ」「麦100(バクヒャク)」などと呼んで、ビール談義をしている、あのビールです。

よなよなエール

ヱビスビール

麦芽100%ビールとは、ホップ以外の副原料は使用しないビールのこと。このつくり方は、今から500年あまり前の1516年、ドイツで制定された「ビール純粋令」にさかのぼります。当時のドイツでは、原料にさまざまな混ぜものが使われた、粗悪なビールが出まわっていました。そこで、「ビールは大麦とホップと水のみでつくるべし」と、ウィルヘルム4世が制定した法令によって、味は安定し、その製法が確立していきました。「ビール純粋令」は今でもドイツ国内で製造されるビールには適用される、重要なビールの原点です。

日本では、すっきりした味わいやキレの良さを好むお客様が多いので、米やコーン、スターチなどの日本の酒税法で認められた副原料を使ったビールも多数あります。一方で、2000年以降は、サントリーの【ザ・プレミアム・モルツ】、キリンの【一番搾り】などの有名銘柄が麦芽100%ビールとして販売され、市場が盛り上がってきています。

今回は麦芽100%を満喫できるビールを紹介するとともに、その製造工程を見学できる施設まで、チラッとご案内します。

まずはヤッホーブルーイング社の【よなよなエール】。日本のクラフトビールメーカーをリードする同社の看板商品です。

以前、長野県佐久市にある同社の「大人の醸造所見学ツアー」に参加したことがあります。アツアツの仕込釜や、ブクブク酵母が働く発酵タンクの中を、間近に見せていただけます。ヤッホーブルーイングのスタッフが直接話してくださるビール製造への熱い思いにも、大変感銘を受けました。

ヤッホーブルーイング「大人の醸造所見学ツアー」にて

一方、サッポロの【ヱビス】です。1890(明治23)年発売、御年127歳になりました。

戦時中にビールは配給制となり、ブランドもいったん消えてしまいましたが、1971(昭和46)年、ドイツのビール純粋令を守った麦芽100%ビールとして復活しました。当時のビールの価格は横並びだったのですが、ヱビスビールは10円高く設定され、高品質を楽しむプレミアムビールの先駆けとなったのでした。

ヱビスビールが見学できる場所は、工場見学ではなくミュージアム。東京都渋谷区にあるヱビスビール記念館では、127年の歴史やうんちく話を知ることができ、ヱビスブランドから出ている各種アイテムを飲むこともできます。

ヱビスビール記念館にて

話は戻って、お待ちかねの飲み比べ対決にいってみましょう。

【よなよなエール】(左)と【ヱビス】(右)

色味を見ただけでわかります。【よなよなエール】は透き通っていてキラキラ輝く琥珀色、【ヱビス】はお馴染みの黄色ですが、美しく深い黄金色です。

【よなよなエール】の「エール」とは上面発酵のビール(※1)のことをいいます。上面発酵酵母が得意とする華やかな香りがほのかに立ち上がります。飲みなれていないとアルコール感が一気に拡がりますが、この感覚もエール独特です。柑橘類を思わせる香りや麦芽からくる香ばしさが、長い余韻とともにふんわり残ります。

【ヱビス】ビールは「ラガー」タイプであり、いわゆる下面発酵ビール(※2)で、当然、エールとは印象が違ってきます。【ヱビス】は、大麦をはっきりイメージできる味わいと、重厚感にあふれるコクが、みるみる口に拡がっていくのが特徴です。ホップの苦味も存分に堪能できるので、バランスが非常に良いです。

蒸し暑い季節に冷蔵庫でぎりぎりまで冷やして、ビールの喉ごしやキレを楽しむのもダイナミックでいいものですが、【ヱビス】のようにまろやかでコクがあるビールは、ゆったりとした気分で飲むのもリラックス度が増しますね。

 

※1 エール(上面発酵ビール)……上面発酵酵母により発酵させたビールのこと。比較的高温で短期間の発酵によってつくられる。一般に、香り豊かで奥深い味わいが特徴。発酵中に酵母がビール上面に浮いてくる性質からこう呼ばれる。

※2 ラガー(下面発酵ビール)……下面発酵酵母により発酵させたビールのこと。比較的低温で長期間の発酵によってつくられる。一般に、シャープな飲み口が特徴。発酵タンクの中に酵母が沈む性質からこう呼ばれる。

プロフィール

大登貴子(著者)
1970年北海道生まれ。慶應義塾大学卒業。サッポロビールに入社後、広報業務に従事。2012年、ビール文化を更に発展、普及させることを目的として「日本ビール文化研究会」を立ち上げる。
現在、同会・理事事務局長。活動は、日本ビール検定(愛称:びあけん)主催、出版、セミナー開催など。びあけんは、本年で第6回となり、過去5年で19,000名がチャレンジしている。今年は9月24日(日)全国5都市で開催予定。
びあけん公式HP http://www.beerken.com/