第12回 ペーパーカップで焼くシフォンケーキ|くらしの本棚

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第12回 ペーパーカップで焼くシフォンケーキ

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

今からどのくらい前になるでしょうか。紙コップで焼いたシフォンケーキをちらほらと目にするようになり、「まあ、可愛い!」と興味はあったものの、オーブンセーフと明記されていない紙コップを高温のオーブンに入れるのは、と、少しばかりの抵抗と不安がありまして。なかなかチャレンジ出来ずにいたのですが、ラッピング資材のショップサイトを何を探すでもなく見ていた時に、偶然飛び込んで来た、紙コップと似通った形のベーキングカップ。これなら安心してオーブンに入れられるし、紙コップと同じような雰囲気に焼き上がるかも?と、試してみたく、購入したのが始まりでした。

だけど、大きく焼くことで様々な魅力が引き出されるシフォン生地を、小さく焼くなんて。いくらフォトジェニックに焼き上がったとしても、生地のおいしさは実際どうなんだろうか。半信半疑でトライしてみたところ、これが思いのほか良かったのです。

丸型、角型、パウンド型などで焼いたシフォン生地は、少し目の詰まった焼き上がりになるよう感じています。確かにシフォン生地だし、型なりにおいしいんだけど、でもこれシフォンケーキとは呼べないよね、と密かに思っていたのですが、このペーパーカップで焼いたシフォン生地は、小さいながらも高さのある型に沿って伸びやかに膨らみ、軽やかで、きめ細かくて。紙製だけど水分が持って行かれ過ぎることもなく、真ん中に穴の開いた紙製の大きなシフォン型で焼くよりもずっとシフォンケーキらしい風合いの生地に満足し、これは使わない手はないな、と。今では本来のシフォン型よりも、ペーパーカップで焼くことの方に、メリットを多く感じるほど。

小さいから短時間で焼き上がる。シフォン型で焼いたケーキは、完全に冷めるのを待って型から外すのが基本だけど、こちらは冷めるのも早く、しかも型出ししなくてOK。食べる時は、紙をペリペリッと剥がすだけ。切り分ける手間が要らず、ラッピングも簡単。しかも、持ち運びに気を遣わない。小さいから日常的にプレゼント出来る。また、ちょっと食べたい時、小単位で2~3個だけ焼くことも可能。

型のお手入れが不要になるのも、嬉しい点ですよね。内側に生地がくっついたアルミの型をきれいに洗う作業、それほど苦ではないつもりでいましたが、ストレスが全くなかったか?というと、そうでもなくて。ちょっとでも面倒なことがひとつ減ると、そのお菓子の存在が、そのひとつ分、近くなる。ペーパーカップで焼くことを通して、シフォンケーキ作りがより身近なものになりました。

シフォンケーキは、ほどよくしっとりと水分を含んだ繊細な柔らかさのある生地が身上。そして、そのふわふわでしゅわしゅわの部分は、多ければ多いほどおいしい。だから、材質は熱伝導のいいアルミ製で、真ん中に筒状の穴が開いたシフォンケーキ専用の大きな型を使い、モコモコふっくら焼き上げるべき。ずっと頑なに持っていたシフォンケーキに対する譲れないこだわりも、今ではもうすっかり何処へやら、です(笑)。

これはこの形が当たり前だから、ここではこうするのが一般的だからという、何となくある常識。これはこうでないといけない、これはこうあるべきという思い込み。歳を重ねる中で緩やかに和らぎ、角が取れ、ずいぶん丸くなりました。
ぶれない軸を持つことも大事だけれど、柔軟に、角度を変えて物事を見られるようになると、答えはこれだけと思い込んでいたものが、実は、いくつもの面白い展開を持っていることに気付けます。楽しみの扉は、考え方や捉え方次第で何枚でも開くことが出来るんですよね。お菓子作りも、人生も。

さて、今回のお菓子は、黒糖で深みのある甘さを加え、黒糖と相性のよいラム酒をやさしく香らせたシフォンケーキ。ラム酒のアイシングをかけて風味を更にアップし、くるみを散らして仕上げました。ペーパーカップで焼く手軽さ、もしよかったら一度実感してみてくださいね。

黒糖とラム酒のミニシフォン

材料(口径7cm×高さ7cmの紙カップ 5個分)

  •   薄力粉 45g
  •   卵黄 2個分
  •   卵白 2個分
  •  
  • A 牛乳 30g
  •   ラム酒 大さじ1/2
  •  
  •   植物性オイル 25g
  •   黒糖(粉末) 45g
  •   塩 少々
  •  
  • 仕上げ用・・・粉砂糖20g、ラム酒小さじ1、くるみ(ロースト済)適量

下準備

・オーブンを170℃に温める。

作り方

① ボウルに卵黄を入れて泡立て器でほぐし、A、植物性オイル、薄力粉(ふるい入れる)を順に加え、その都度なめらかによく混ぜる。

② 別のボウルに卵白を入れ、塩と、黒糖を少しずつ加えながらハンドミキサーで泡立てて、ツヤのあるしっかりとしたメレンゲを作る。

③ ②のメレンゲを①にひとすくい加え、泡立て器でぐるぐるしっかりとなじませたら、残りのメレンゲを2回に分けて加え、その都度ゴムベラで底からすくうようにして、手早くかつ丁寧に混ぜ合わせる。

④ 紙カップに入れ、170℃のオーブンで18分ほど焼く。逆さにせず、ケーキクーラーに取ってそのまま冷ます。

⑤ ケーキが冷めたら、粉砂糖とラム酒をとろりと混ぜ合わせてアイシングを作り、表面に回しかけ、砕いたくるみを散らす。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。