第11回 もうすぐバレンタイン|くらしの本棚

くらしの本棚

第11回 もうすぐバレンタイン

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

テレビの街頭インタビューなんかで、「今年は初めて手作りチョコレートに挑戦します」、「クッキーを焼きます」、「ケーキを作ります」、などなど、もうすぐ来るバレンタインデーの準備に目をキラキラさせている女の子たちを見ては、ほのぼのと嬉しくなっている2月です。

もちろん私も、バレンタインは手作り派。と、今でこそそうなのだけれど、学生時代~20代前半、チョコレートは断然買う派!でした。だってだって、間違いなくおいしいし、お洒落でカッコいいでしょう? それに、バレンタインシーズンのチョコレート屋さんには、本命であれ義理であれ、誰かのことを想ってチョコレートを選ぶ人々が集まって、愛と活気に溢れています。混雑し過ぎると、僅かな殺気を感じなくもないのですけれど(苦笑)、デパートやチョコレートブティックに足を運ぶことは、毎年の楽しみでもありました。

いつの頃からかなぁ、お菓子をよく焼くようになり、焼いたお菓子をみんながおいしいって食べてくれることがこの上なく嬉しくなって、「それならバレンタインも手作りで!」と、調子乗りの所以で変わっていったのだと思います。加えて、子どもが生まれてなかなか外へ出る時間が作れなくなった、ということも大きな理由のひとつかも知れません。

あちこち出歩けなくても、家にいながらにしてお買い物が出来る便利な時代だから、手作りするに当たって特に困ることもなく。材料からラッピング用品までネットで注文でき、玄関先まで届けてもらえるというシステムは、買い物に出たくても出掛けられないストレスを大幅に軽減してくれたし、家の中で楽しむという過ごし方を応援してくれました。ありがたいですよね。

さて、バレンタインに寄せて私が用意するのは、きっとみんな本物のチョコレートをたくさんもらっているだろうからと、たいてい焼き菓子です。日持ちや持ち運びなど様々な事情を考慮しても、作るならやはり焼き菓子がメイン。頼りになります。
3~4種類焼いて、少しずつ詰め合わせて贈るのが、だいたい毎年定番の形。例えば、マフィン型などで小さく焼くガトーショコラや、ラムレーズン入りココアバターケーキ、チョコレートマーブルのマドレーヌ、くるみとチョコチップのドロップクッキー、といった感じで。チョコチップを使ったり、チョコレートをマーブル模様にしたり、レーズンやオレンジなど酸味の心地よい材料を焼き込んだり、全てがチョコ単色にならない方がいいかなと、少しばかり気を付けるようにしています。また、チョコレートを使うお菓子ばかりではなく、ひとつくらい抜け感があってもよさそうと、チョコレートやココアを使わないお菓子を入れることも。

子どもが学校へ通っていた昨年までは、私も学校関係で人に会うことが多く、母子共にいつもお世話になっている皆さまへと、毎年かなりな量産体制だったのですが、今年からそれほどの数は必要なさそう。少し胸をなでおろすような気持ちで(笑)、贈りたい人の顔を思い浮かべながら、今年はどんなお菓子を食べてもらおうかなと考えているこの頃です。

最後に。数年前、バレンタイン直前プチお菓子レッスンとして、小学生の女の子たちとわいわい賑やかに、自宅で簡単なチョコレートのお菓子を作ったことがありました。
みんな、友チョコだったり、ご家族へのプレゼントだったりで、好きな男の子にはあげないの?なんて話を振ると、そんなコいないーとか、照れちゃったりして。可愛いんだから(笑)。

私ももうずいぶんな歳になりますが、お菓子を焼いていて本当に良かったと、改めて心からそう思える今があります。ほんのささやかな焼き菓子が、作ってくれたきっかけ、結んでくれた縁や、運んでくれた幸せ。どれほどになるかは、とてもとても計り知れないほど。

何を幸せと感じるかは人それぞれではあるけれど、これから先、大人になってからもお菓子作りを楽しむことがあるならば、いつか、自分の手から生まれたお菓子が連れて来る甘い幸せに、笑顔を輝かせてくれたら嬉しいなぁ。そんなことをぼんやりと思いながら、小さな女の子たちと一緒に手を動かしました。やわらかな冬のひととき、バレンタインシーズンになるとふと思い出す、エピソードです。

今回ご紹介するお菓子は、ミニマフィン型で焼くチョコレートのケーキ。溶かしたチョコレートを混ぜ込んだ生地に、ざっくり割った板チョコレートがとろりとなじんで、チョコレート感たっぷり。材料を順番に混ぜていくだけの生地ですが、少しのアーモンドパウダーのおかげで小さくてもしっとりとコクのある味わいです。板チョコレートは、甘さ控えめのビターなものを選ぶのがおすすめ。卵1個分で12個、短い時間で焼けるので、たくさん作りたいバレンタインにもよいのではないかなと思います。

くるみをのせたダブルチョコレートのミニケーキ

材料(直径4cmミニマフィン型12個分)

  • A 薄力粉 10g
  •   ベーキングパウダー 小さじ1/8
  •  
  •   製菓用チョコレート 60g
  •   バター(食塩不使用) 50g
  •   卵 1個
  •   グラニュー糖 30g
  •   塩 少々
  •   アーモンドパウダー 15g
  •   グランマルニエ 小さじ1
  •  
  •   板チョコレート 1枚(50g)
  •   くるみ 適量

下準備

・卵は室温に戻す。
・製菓用チョコレートは細かく刻む。
・型にグラシンカップを敷く。
・オーブンを170℃に温める。

作り方

① 耐熱の容器にチョコレートとバターを入れ、電子レンジか湯煎にかけてなめらかに溶かす。

② ボウルに卵を入れて泡立て器でほぐし、グラニュー糖と塩、アーモンドパウダー、①、グランマルニエを順に加え、その都度しっかりとよく混ぜる。

③ Aをふるい入れ、粉気がなくなりなめらかになるまで混ぜる。

④ 型に入れ、板チョコレートを小さく割って差し込むように埋め、くるみを乗せて、170℃のオーブンで12分ほど焼く。

ポイント!

このレシピでは、しっとりやわらかな生地に焼き上がるよう、薄力粉の分量を10gと、ごく少量にしています。 粉が少なく感じられるかもしれませんが、安心して分量通りに焼いてみてくださいね。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。