第7回 作りたてがおいしいお菓子を冷めないうちに|くらしの本棚

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第7回 作りたてがおいしいお菓子を冷めないうちに

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

女友達と過ごすお茶時間は、いくつになっても楽しい。小洒落たカフェ、レトロな喫茶店、可愛いケーキ屋さん、ホテルのティーラウンジ。「どこ行く? 何食べる?」 楽しく迷って行く先を決める中、「うちがいちばんいい。」なんて嬉しいことを言ってくれる友人もいて、「じゃ、うち来る?」というところに落ち着くこと、よくあります。

もうずいぶん前の話。バターケーキなら2~3日前に、チーズケーキやプリンなら前日に、シフォンケーキなら前夜かその日の朝に、といった具合に、おいしく食べてもらえるタイミングを見計らって、お茶菓子を何かしら用意しておくのですが、いつだったか、忙しくしていてお菓子を焼く余裕がないままに、その日を迎えてしまったことがありました。

冷凍庫を覗いて「助かった!」と喜べるはずのクッキーや、小さなケーキの作り置きもないし、近くのケーキ屋さんやスーパーに走る時間もない。そこでふと、「そうだ、みんなが集まってから作ろう。」とひらめいて、くるみを入れたクッキーとスコーンの間みたいなお菓子をお喋りしながら作り、焼きたての熱々をオーブンからテーブルへ直行させたところ、思いがけなく大好評だったのです。

こんな出来事をきっかけに、うちカフェのお茶菓子はあえて用意しておかず、簡単なものをその場で作るという選択肢が、私の中に加わりました。その場で作るといっても、バタバタするのは苦手なので、本当にラクに短時間で作れるもの限定。ボウルひとつでできるもの。ハンドミキサーさえ出してこなくていいレシピ。さっと作れて片付けもさっと済むお菓子って、案外たくさんあるのですよ。

スコーン、マフィン、パンケーキ、ドーナツ、ビスケット、クレープ、クランブルなどの粉もののほか、焼きりんごやバナナのキャラメルソテーなどのフルーツを使った、温かいうちがおいしい簡単なお菓子たち。もちろんどれも作ってもおけるものだけれど、どんなに上手に保存できたとしても、どんなに上手に温め直せても、焼きたて、揚げたて、作りたてのおいしさを100%そのままに、なんて、多分きっと不可能なんじゃないかなと思うのです。

その場で作らないと味わうことができない作りたてのおいしさを、ベストなタイミングで提供することは、何気ない簡単なお菓子であっても、手間暇掛かった見映えのするケーキや、熟成されたおいしさを持つリッチなお菓子に負けないくらいのおもてなし力がある。そんな気付きを受けて、焼きたてワッフルの会、蒸したて蒸しケーキの会などと称し、お菓子の作りたてを楽しむことをメインにした会を、時折開くようにもなりました。

作る側の手や材料、環境など、いつもは見えない背景が見えるから安心を感じてもらえるだろうし、みんなの前で作るライブ感は、道具を扱う音や次第に漂う甘い香りも手伝って、これから食べてもらうお菓子への期待を高めるプレゼンテーションにもなり得ます。

それからもうひとつ、お菓子で気になるお砂糖と油脂分について。ヘルシーに食べたいからと、お砂糖、バター、オイルなどを減らしてしまうと、時間が経つほどに生地が固くなったり、パサついてしまったり、あまりいいことはないのだけれど、できたてのお菓子はほかほかやわらか。糖分、油脂分を控えたレシピで作っても、おいしく食べられます。嬉しいですよね。

作りたてがおいしいお菓子の中でも、特におすすめしたい揚げ菓子。今回は、日々のおやつにもぴったりなドーナツのレシピをご紹介します。

女子的には禁断の魅惑のスイーツ領域にあるドーナツですが、自分で作れば食べたい甘さに加減できる上、好みの新鮮なオイルを選んで揚げられ、揚げてすぐなら酸化が気になることもない。買って来るより断然体にやさしいお菓子になるのではないでしょうか。

ラムレーズンを入れずに作れば、プレーンな黒糖ドーナツに。黒糖をきび砂糖にしたり、グラニュー糖にしたりのアレンジもどうぞ。甘みはやわらかく感じられる分量なので、揚げ上がり、油を切ってから、お砂糖をまぶして甘さしっかりめに仕上げると、小さな1個に対する満足度が上がります。

黒糖とラムレーズンのコロコロドーナツ

材料(約25個分)

  • A 薄力粉 120g
  •   ベーキングパウダー 小さじ1
  •   きび砂糖 20g
  •   塩 ふたつまみ
  •  
  •   卵 1個
  •   黒糖(粉末のもの) 35~40g
  •   塩 ひとつまみ
  •  
  • B 牛乳 30g
  •   植物性油 15g
  •  
  •   ラムレーズン(汁気を切ったもの) 50g

下準備

・鍋に揚げ油(分量外)を用意する。

作り方

①ボウルに卵を入れて泡立て器でほぐし、黒糖と塩を加えてよく混ぜる。続けてBを加え、しっかりとよく混ぜる。

②Aをふるい入れ、ゴムベラでさくさくと混ぜる。粉気が少し残るところでラムレーズンを加え、粉気がなくなるまで混ぜる。

③油を中温(170℃程度)に熱し、スプーン2本又は直径約3cmのディッシャーを使って適量ずつ生地を落とし入れ、色よく揚げる。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。