第5回 コーヒーが連れて来てくれた幸せ|くらしの本棚

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第5回 コーヒーが連れて来てくれた幸せ

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

好きな人、好きなもの、好きな場所、楽しめること、興味深いこと。
自分が心地よく、いい気分でいられるもとになるモノやコトがひとつ増える度、暮らしを、人生を、豊かにしてくれる、キラキラな宝物をまたひとつ手に入れたと、妙に嬉しくなる私です。苦手だったものが得意になることも、そう。間違いなく世界が広がる。世界が広がるだなんて大袈裟なようだけれど、それまで関心のなかったコーヒーを好きになったことで、毎日が5割増しで楽しくなった気がしています。

 

子どもの頃からずっと、自他共に認める紅茶好きだった私。コーヒーか紅茶かと聞かれることがあれば、迷いなく紅茶と即答していました。嫌いではなかったから飲めなくはないけれど、特別に「おいしい」とも感じられなかったので、わざわざコーヒーを選ぶという選択肢が端からなかったのです。

結婚してしばらく経ち、子どもが生まれ、子どもを通した交友関係も生まれ。そこで親しくなったママ友達のお宅へ遊びに行った時、彼女の淹れてくれたコーヒーが、思い掛けないほどにおいしくて。私がコーヒーをおいしく感じるなんて!と、自分自身の知らなかった味覚の変化に衝撃を受けたことが、転機に。今から思えば、単純に、本物のコーヒーと出会う機会がなかっただけの話だったような気もしますが・・・

それがきっかけで、見事にはまりましてね。忘れもしない2004年。コーヒーに恋に落ちた年記念として、KONO式2004年モデルの黄色が可愛いドリッパーセットを購入するところから始まりました。ええ、形から入るタイプです。笑。

おいしいコーヒーを淹れるにはと、書籍や雑誌でお勉強。まずは豆、それも挽きたてで淹れないと、と、豆を選ぶところから、ミルやドリッパーやドリップポットをいくつか試し、コーヒーメーカーもいくつか試し、しまいにはエスプレッソマシンにまで手を出して。今ではすっかり落ち着いたコーヒー生活を送っていますが、当時はこういった新しい世界、面白くて仕方ありませんでした。

コーヒーのセットが充実したことで、うちに来た友人たちに「コーヒー、紅茶、どっちにする?」と、気軽にいつでも言えるように。すると、圧倒的にコーヒー派が多いんですよね。
以前は、紅茶や日本茶の葉は種々揃えていても、コーヒーに関してはインスタントが時々あるくらいだったので、半強制的に紅茶をすすめていたような場面、無きにしも非ず。大のお茶好きだった私が抱えていた密かなもくろみ、普段コーヒーを飲んでいる人には、うちでは紅茶や日本茶のおいしさを知ってもらいたいな、とすら思っていたりもしました。

あなたはコーヒー、私は紅茶。それぞれに飲みたいものを飲みながらのお茶時間、それはそれでもちろん魅力的なのだけれど、同じ空間で同じ時間を共有する中、同じものを食べたり飲んだりするって、その人との距離感や気持ちの満足度においても、案外大きな意味を持つのだなと感じることが多々あります。

大好きな人が好きなコーヒーを、その人と一緒に、心からおいしいなぁと味わいながら飲めることの喜び。コーヒーを好きになって本当によかったと笑顔になれる、何にも代えがたい幸せなひと時です。

などと、コーヒーについてあれこれ語りながら、実はブラックでは飲めない私。もっぱらカフェオレ専門で、コーヒー好きというよりも、カフェオレ、カフェラテ、ミルクコーヒー好き、と言った方が正しいのかな。キリリと深いコーヒーの黒にミルクを混ぜることでできる、やわらかくクリーミーな色合い。あのカフェオレ色が、何とも好きなのです。

紅茶も断然ミルクティー派。なのに、牛乳が好きかと言うとそうでもなくて、牛乳だけでは飲めません。それに、カフェオレはお砂糖を入れないのが好きで、ミルクティーは少し甘くしていただくのが好み。嗜好って、自分勝手で不思議なものですね。だけど、だからこそ、自由に、好きなように、好みのスタイルで味わえる一杯のコーヒーや紅茶に、心解かれるのかも知れません。

コーヒーを好きになったことで、コーヒーを楽しむ目線でお菓子を作ることも多くなり、コーヒーフレーバーのお菓子を作ることも一段と増えました。
今回のレシピは、コーヒータイムに用意したいコーヒーのバターケーキです。フリーズドライインスタントコーヒーの溶けにくい性質を逆手に取り、生地の中でコーヒーチップのように溶け残ったほろ苦い粒が、このケーキのポイント。メレンゲをベースにした生地だから、とても軽やか。切り分けて、ほんわりと泡立てた生クリームをのせて食べるのもおすすめです。

コーヒーのバターケーキ

材料(17.5×5.7×高さ6cmのパウンド型 1台分)

  • A 薄力粉 40g
  •   アーモンドパウダー 25g
  •  
  • バター(食塩不使用) 50g
  • グラニュー糖 45g
  • 卵黄 1個分
  • 卵白 1個分
  • 塩 少々
  • インスタントコーヒー(顆粒) 大さじ1
  • カルーアコーヒーリキュール 大さじ1/2(あれば)
  • ※卵はLサイズのものを使用しています。

下準備

・Aを合わせてふるう。
・型にオーブンシートを敷く。

作り方

①耐熱容器にバターを入れ、電子レンジか湯煎にかけて溶かす。オーブンを160℃に温める。

②ボウルに卵白と塩を入れ、グラニュー糖を少しずつ加えながらハンドミキサーで泡立てて、ツヤのあるしっかりとしたメレンゲを作る。

③卵黄を加え、ハンドミキサーの羽根で手早く全体に混ぜる。バターを2~3回に分けて加え、その都度手早く均一に混ぜる。Aをふり入れ、インスタントコーヒーも加えたら、ゴムベラに替え、底からすくい返すようにして混ぜる。粉が見えなくなればカルーアリキュールを加え、手早くかつ丁寧に混ぜて、なめらかでツヤのある生地にする。

④型に流し入れ、型を軽く揺すって平らにならし、160℃のオーブンで32~35分焼く。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。