第2回 神戸の「MORIS」|くらしの本棚

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第2回 神戸の「MORIS」

この度、フリーライターの私が、取材の合間に寄り道したり、誰かに連れて行ってもらったり……。
そんなお店をご紹介する連載を始めることになりました。
とは言っても、私は元来マメな性格ではないので、話題の店にすぐ足を運んで……というショップ紹介ではありません。
日本のあちこちに、わあ、なんて素敵な場所だろう……と心を震わすお店がある。そこには、必ず素敵な人がいる。そんな出会いを、ご紹介できたらいいなあと思っています。

私の地元は兵庫県の西宮市というところです。
神戸と大阪のちょうどまんなか。
西隣が芦屋市、その西が神戸市です。
学生時代、遊んだのはもっぱら神戸の街。
北には六甲山が、南には瀬戸内海が。
そんな細長い神戸の街は、日常がとても美しい。
街路樹と坂が多く、住宅地を歩いているだけで、あ~いい街だなあ、この街で暮らせたらいいなあ~と思ってしまいます。

神戸の移動といえば阪急電車。
これまた美しい電車なのです。
阪急三宮駅のちょっと手前に「六甲」という駅があります。
この六甲に「すごく素敵なギャラリーができたんですよ」と知人に教えてもらい訪ねたのが「モリス」です。

器を中心に、時には「書」や刺繍の展示や東京の骨董店「アンティークス・タミゼ」が丸ごと神戸にやってきた「タミゼ神戸店」など、東京にいながら「近かったら行きたい!」と思う展示会を開き、普段は、器を眺めながらお茶やお菓子をいただくこともできます。

駅から徒歩3分ほど。
地図を片手に訪ねてみると、そこには普通のマンションが建っています。
この2階にお店があります。

扉をあけて中に一歩入ると一気に空気が変わります。
むき出しの天井に、漆喰と黄土色の砂の塗り壁、木の床、鉄枠の窓。
様々な素材のテクスチャーがひとつに溶け合って静謐な空間を生み出しています。
実はこの内装、陶芸家の内田鋼一さんが手がけたもの。
なんと、なんと!

今から13年ほど前「気持ちいい道具と暮らしたい」という本で内田鋼一さんを取材させていただきました。
その頃から、私は内田さんの作品が大好きで、あれこれ作品を買ったものです。

店主は森脇今日子さん。
小さな頃から食べることが大好きで、高校卒業後は、シュガークラフトを学ぶために渡英。
帰国後は神戸の老舗フルーツパーラーで働いていたそう。

一方お店を手伝ってくれるのはお母様のひろみさん。
実はひろみさんは、30年ほど前から自宅の一角で器店を営んでいたそうです。
娘たちが独立した後、なんとお店をたたんでイギリスへ。
帰国後は、いろいろな場所で器の展示会を企画するようになりました。

そんなお母様とともに暮らした今日子さんは、当たり前のように食卓にあった器とともに育ってきた方。
そして、今、大きな世界を見てきた後に地元六甲でずっと使えるもの、おいしく食べるためのものを紹介したいと、このギャラリーをオープンさせたのだとか。

内田鋼一さん、井山三希子さん、島るりこさんなど有名陶芸家の器はもちろん
私は、ここで初めて出会った作家さんもたくさん。
初めて行ったときに買った伊勢崎紳さんと、佐々木好正さんの器は、小ぶりでやや深めの形が盛り付けやすく里芋を煮たものや、ほうれん草のおひたしなど、どんなおかずも美味しそうに見せてくれます。

そして、お買い物の後のお楽しみは今日子さんが焼くケーキ!
果物をたっぷり使い、素朴な味わいのケーキは、一度食べるとまた食べたくなります。

今日子さんやひろみさんとのおしゃべりも楽しくてついつい長居をしてしまいます。
「わあ、もうこんな時間!」
とあわてておいとまし、店を出ると、六甲の山の向こうが夕焼けに染まっています。
そして、今日見つけた器を帰ってからどうやって使おうかとワクワクする・・・・・・。
行き道、帰り道まで楽しくなる・・・・・・。
それが、モリスにまた行きたくなる理由かもしれません。

MORIS
神戸市灘区八幡町2-10-11メゾン六甲202
☎︎078-855-4616
営11:00~18:00
月、火曜日休(不定休もあるのでHPで確認を)
https://moris4.com


【201704旅行・近畿】

プロフィール

一田憲子(著者)
1964年生まれ。編集者・ライター。OLを経て編集プロダクションへ転職後、フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などで活躍。企画から編集を手がける暮らしの情報誌『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社)は、独自の切り口と温かみのあるインタビューで多くのファンと獲得。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、これまでに数多くの女性の取材を行っている。著書に『「私らしく」働くこと』、『ラクする台所』(ともにマイナビ出版)などがある。